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第167話 結婚式②

 まぁクーコに言われずとも、不器用なのは自覚してるよ。ただ愛してるって言うだけのために劇場を貸し切ったりドレスを作ったりって、すっげぇ回りくどいことをしてるからなぁ。けどそのおかげでこうしてみんなの綺麗なドレス姿を見ることができるんだから、無駄な労力ってわけではないだろう。


「改めて、みんな凄く似合ってるよ」


 デザインも妥協せずに個人のイメージに合わせて差をつけて正解だったな。


「まさかテンマにドレス作りの才能があるとはな」


「ね、すっごく綺麗でビックリしちゃった」


 まぁほとんど商会の人がやってくれたんだけどね。俺がやったのはデザインのイメージというか、漫画でいうところのネームみたいな状態のものを描いただけで。


「それでテンマ様、このようなドレスまで用意して尋常ではない気合いの入りよう。ただわたしたちを粧し込みたかっただけではありませんよね?」


「こっちだと結婚式は家同士のやり取りが主で当人はそっちのけみたいだけど、前も言ったけど俺がいたところでは当事者のためのイベントだったからな。まぁつまりは当事者の自己満足のための形式的な儀式でしかないってことなんだけどさ」


 政略結婚やお見合い結婚が主流だった頃なら話は違ってくるんだろうけどな。現代は恋愛結婚が当たり前になって、もう家同士の結束とかそういう時代でもないし、なんならやらない選択肢でナシ婚なんてものが出てきているくらいだからな。

 まぁでも当事者からしたら人生の節目の一大イベントだし、尋常でないと言われるほど気合いを入れているつもりは無かったんだけど、そう思われるってことは俺も無意識に気負っていたのかもしれない。


「当事者のためのイベントというのは分かったが、どういうことをするんだ?」


 改めてそう言われると実は俺もよく分かってない。漫画やドラマのような創作物の中で見たことがあるだけだからな。神父さんが健やかなる時も病める時もってなんか言うのは知ってる。洋風のイメージ強いな。和風のだとまた違うのか? あとはケーキ入刀……いやそれは披露宴か。友人代表のスピーチとかも披露宴だし、じゃあ結婚式ってそんなやることなくね?


「聖職者の前で愛を誓ってキスするところを招待客に見てもらう」


「尖りすぎだろ」


 うん、こんなイベントではないはずだ。じゃないと結婚式は女性の憧れみたいなそんな風潮にならないはずだからな。いや、もしかして俺はブライダル業界の謳い文句にまんまと騙されていたのか? じゃああの将来の夢はお嫁さんとか言ってた子は? あれもブライダル業界の洗脳の成果だったのか? 考えれば考えるほどそうな気がしてくる。


「まぁ全部を取り入れる必要はないよ。ただ俺はみんなに綺麗に着飾って貰って一言言いたかっただけだから」


 図らずも聖職者(マリアンヌ)がいるしな。当事者だけど。


「じゃあまずマリアンヌから」


「えっ、わ、私からですか……!?」


「まぁマリアンヌは経緯が経緯だしまだ関係が浅いからな。これからお互いのことをよく知っていこうって無難なことしか言えない。けど、こういう関係になった以上は俺はマリアンヌのことをみんなと平等に大事にするつもりだ。何があっても絶対に守ると誓うよ」


 今後も教会で治癒師としての活動は続けるみたいだし、冒険者や他の治癒師から聖女という解答が出るのは時間の問題だろう。そうなれば聖国にも目をつけられるだろうが、それでも俺はマリアンヌの活動を制限するつもりはない。賢い選択ではないかもしれないけど、やりたいこともやらせずに慎ましい暮らしをさせるのが賢いとも思えないからな。


「わ、私もちゃんと好きになってもらえるように頑張ります!」


「うん。でもデバフかけまくるのは勘弁してくれな」


「あわわ……」


 そんな小動物みたいな可愛い反応してるけど、なんか俺に恨みでもあるのかってくらいえげつなかったの忘れてないからな? なんだかんだで頑張る方向を間違えたマリアンヌが一番厄介かもしれない。


「次はココ」


「はいなの!」


 元気な返事とともにトテトテと小走りで俺の前にやってくる。こうやって屋敷の外でもココと一緒にいられるとやはり感慨深いものがある。


「今まで留守番で寂しい思いをさせてごめんな。こうやって外に出られるようになってよかった。これからいっぱいデートしような」


「うんなの、実はお留守番はちょっとだけさみしかったの。だからみんなと一緒におでかけできて嬉しいの!」


 ココは空気の読める子だ。留守番が寂しいなんて泣き言は言ったところで俺たちを困らせてしまうだけだからと言わないようにしていたのだろう。


「うぅぅ……ココちゃんごめんねー!」


 アロエが来るまでは1人で留守番だったからな。特に冒険者組は俺と同じで罪悪感強めだ。そういう面ではアロエを含めた年少組のお守りをしてくれるクーコとミツキが来てくれたのは凄く助かったな。


「アロエもココと一緒に留守番させる機会が多かったな。王都のダンジョン、あの時は置いてってごめんな」


「い、いえ! あの時は私のレベルが低かったから仕方ないですよ!」


「それが今ではレベル300も目前なんだもんな。学校行って、レベル上げして、騎士団の訓練参加してって、ほんとにアロエはめちゃくちゃ頑張ってると思う。けど、頑張った分はちゃんと休んで欲しい」


 ひたむきで努力家なのは充分伝わっているから。まぁだからみんなアロエを応援したくなるんだよね。


「スライムを1日10時間以上狩っていた男が何を言っているんだ?」


「ミーナを買うために何十周もボス部屋周回してたの知ってまーす」


 おい、俺の無茶してた過去を掘り起こすな。


「っと、小言みたいになっちゃったな。まぁなんだ。正直、2人とも今でも可愛い妹のように思っているところはあるけど、ちゃんと奥さんとしても愛してるからな」


「それは私もお兄様だと思っている節がありますからおあいこです」


「うん! お兄ちゃんはお兄ちゃんなの!」


 たとえ血が繋がっていなくても俺たちは家族なんだよな。世の中には血縁関係があっても険悪で憎み合っているような家族だって存在するみたいだし、それを考えると血の繋がりなんて些細な問題なのかもしれないな。


「それでよいぞ。兄だの夫だのと名称的な続柄はさほど重要ではない。重要なのは全員が幸せかどうかじゃ」


「……タマモ様にしては珍しく抽象的ですね」


「何が幸せかなんてそれも個人によって違うからの」


 幸せかどうか、か。とても考えさせられる問いだな。俺はみんなを幸せに出来ているのだろうか。特にミツキやクーコは人生経験が豊富だからな。その分だけ幸せを感じるハードルも高いんじゃないか? 


「主人殿は私たちのことが絡むと分かりやすいな」


「それが主様の愛いところじゃろうて」


 なんか見透かされてるみたいで恥ずかしいな。そりゃクーコからしたら未熟な赤ちゃんみたいなもんだけどさ。


「結局ワシらは社会的な生き物じゃからな。ワシはな、生きていく上で良縁に恵まれるのが幸せじゃと思っておる。のぉ、こうして大切な家族と一緒にいられるのは幸せじゃと思わんか?」 


 あぁ、たしかにそうだ。毎日一緒にいるから慣れてきちゃってるけど、これって当たり前じゃないんだもんな。なんかすっげぇありがたみを感じてきた。


「ミツキもクーコも家族になってくれてありがとう」


「ふっ、出会いこそ最悪だったがな」


 いやほんとに、ガチバトルした相手とこうしてイチャイチャしてるのはっきり言って奇跡だよ。

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