第165話 完成
採寸が終わったからといって「じゃあこれであとはお願いします」というわけにもいかず、今度は形や装飾なんかを何度もデザイナーさんと打ち合わせをして納得のいくものを追求した。
「これがミーナ様用の試作品ですね」
ミーナの身長、体型を模したマネキンに試作したドレスを着せて確認する。デザイン時点では良く見えても、実際に立体に起こしてみたら調和が取れていないなんてこともある。あとは細かいディテールの修正もここで行う。そしてもちろんこれを全員分だ。ずらっと一列にマネキンを並べて試作したドレスを着せていく。
「ミツキ様のはもう少しウエスト部分を絞って裾を広げますか」
「あ、でしたらプリーツの幅も広げたほうが……」
「コサージュももうちょい大きめの方がええかなぁ。小柄なアロエちゃんとココットちゃんは逆に小さめにしよか」
職人さんたちが次々と修正案を出していく。素人目線だともうこれで完成と言われても納得しちゃうんだけど、手直ししたものを見ると確かに修正後の方が良いってなるからプロの仕事は凄い。
そして修正に修正を重ねて、3ヶ月ほどが経ってようやくウェディングドレスが完成した。これでもVIP対応で、本当なら半年から1年かかるところを職人総出で急ぎで仕上げてくれたらしい。
「当日は商会が運営している劇場を貸し切っております。舞台裏には専用のメイクルームもございますので、奥様方のドレスアップもお任せください」
「何から何まで助かるわ」
こういうところにもVIP対応が隠れている。サービスしてくれるのはもちろんそうなんだけど、これ俺から「こういうことしてくれない?」って催促とかしてないんだよ。向こうが勝手に必要そうなことを考えてくれて、勝手にサービスしてくれている。まぁありがたい話だよね。
「こちらも分かっていただける方にしかこのような対応は致しませんよ。それにバルムンク卿は我々のような平民のスタッフに横柄な態度を取られませんから」
まぁそれは元日本人の性というか。コンビニのバイトにタバコの銘柄だけを言うおっさんを反面教師にしてる世代だからな。
「接客はずるいわ。ウチらももっとバルムンク卿とお話したかったのに」
「うん……。バルムンク卿は値切らないし急かしてこない……。私たち裏方からすれば理想のお客様」
まぁそういうことをすると職人さんたちも気持ちよく仕事できないだろうからな。もちろん彼女たちもプロだからそれでわざとクオリティを落としてやろうなんてことは考えないとは思うけど、モチベーションの低下が意図せずクオリティの低下に繋がるなんてことはあるかもしれない。俺が身につけるんだったらいいけど、みんなが着るわけだからさ、少しでも良いものが仕上がって欲しいじゃん? ならプロに気持ちよく仕事してもらうのが1番だと思うんだよね。
でも特に何かしたわけでもないのにここまで感激されるって逆に普段がブラックすぎるだけだよな。
「ふーん、接客がずるい……? 普段その値切ったり急かしてくる客を相手にしているのは私ですけどね。私としては、普段は裏に引きこもってるくせにこういう時だけ表に出てきていいとこ取りを狙う人の方がよっぽどずるいと思うのですが、私たちプロに対するリスペクトがあまりにも足りていないのでは?」
「い、いつもすんません」
こ、こえぇ……。声を荒げてないのに有無を言わせない圧力を感じる。分かるよ、普段怒らない人が怒ると怖いんだよな。
「バルムンク卿の前だというのに申し訳ございませんでした」
「あぁ、うん、別にいいよ」
だって俺のこと『いいとこ取り』って言ってくれたから。もしかするとこうなることを見越してお世辞で言ったのかもしれないけど、それでも嬉しいものは嬉しいんだわ。我ながら単純すぎるし、そんな単純な男と思われていいのか俺。まぁでもチヤホヤされて悪い気はしないし別にいいか。
あとは全員を予定の日に劇場に連れ出すだけだな。そこで、皆に話があることを伝えると、奇遇なことに皆からも俺に話があるみたいだった。
「テンマ様、ここ最近テンマ様の服から知らない女性の香りがすることがあるのですが、どういうことか説明いただけますか?」
皆んなから囲まれて激詰めだった。チヤホヤされて悪い気はしないとか喜んでる場合じゃなかったわ。
「お洗濯する時に気がついたの、今日で3回目なの」
「私も1回目はそういう日もあるかと見逃したが、同じ匂いがこうも続くと偶然とは思えない」
「それも複数人となるとな。ワシら妖狐族の鼻は誤魔化せんて」
あー、そういえばキツネってイヌ科だっけ? そんなところで嗅覚発揮しなくていいから。っていうか、もしかしなくても今とんでもない誤解をされている気がするんだが。
「既婚者が刺激欲しさに火遊びをしてしまう話は聞くけど、乱交は流石にハメを外しすぎだねぇ……」
「してない。断じてしてないから」
乱交も浮気もしてないわ。あと皇女が乱交なんて言葉を使うな。せっかく火遊びってぼかしたのになんでよりによって酷い方をそのままにしたんだよ。ダメだ、俺の女性関係の信頼度が地の底まで落ちてる。マリアンヌのことがあったばっかりだからこれは時期も悪かったかもしれない。
「まぁ、あまりいじめてやるな」
「テンマ君も違うって言ってるし、話くらいは聞いてあげてもいいんじゃない?」
良かった。問答無用で有罪判決が下されないだけの信用はあったみたいだ。悪いことはしていないからここは信頼を積み重ねるチャンスと考えよう。
「ほら、前に結婚式の話しただろ? こっちの文化だとネガティブなイメージも強いみたいだけど、やっぱり俺のいたところでは一生に一度の伴侶と愛を誓い合う大事なイベントだったからさ。そういう特別な機会を作れないかって商会で打ち合わせをしていたんだよ」
でもサプライズするつもりがこんな悪質なドッキリみたいになってしまったのは失敗だったな。
「疑ってごめんなさいなの……」
「お兄様、ごめんなさい」
年下組が泣きそうな顔でこちらを見ている。ごめんな俺の普段の行いが悪いせいで。
「ワシも耄碌したか……ミツキのことを散々拗らせてると言っておいて、まるで恋愛初心者ではないか……」
「タマモ様、他人の恋愛相談には乗っていてもご自分に関しては長らくご無沙汰でしたからね」
「偉そうに他人に恋愛指南する恋愛初心者か、とんだ恥晒しがいたもんじゃな。それならただの恋愛初心者の方がマシじゃったな……」
これ本気で落ち込んでるやつや。いやクーコの恋愛指南で救われた人もいると思うよ? ほら、プロのスポーツって監督やコーチが選手より上手いってわけじゃないじゃん? それと同じで外から見てるから出来るアドバイスってあると思うぞ。これフォローになってる?
「いえ、全部わたしのせいです。確証もないのに大袈裟にして皆さんを混乱させた責任があります」
「おーい、俺怒ってないから。そんな誰のせいとか決めなくていいじゃん? 元はと言えば俺がコソコソとやってたせいでもあるんだし」
「あ、あの……どう考えても信用できなかった人が悪いんじゃ……」
「おっと、あまりそういうことは言わない方がいいよ。直近だとマリアンヌ君が信用を毀損させた1番の原因だからねぇ。まぁ2番目はボクなんだけど。しかしそう考えるとミーナ君とフィーネ君は流石としか言いようがないよねぇ」
ほんとに、もう俺のこと信用してくれてるのは2人だけだよ。
「ここまでの大所帯になってはいるが、なんだかんだで結婚してからテンマが女性を連れてきたのなんてマリアンヌくらいだからな」
「そのマリアンヌちゃんもなんか色々あったみたいだし、だから実際はみんな成り行きでこうなってるんだよね〜。まぁそれは私も含めてだけど」
うーん、それは否定できない。過去にはそれでフィーのことを悩ませてしまったこともあったからな。でもこうしてちゃんと好き合えているからきっかけとかはどうでもいいと思うけどね。




