第147話 聖国の奥の手
なんだか今日は寝覚めがすっきりしているな。
普段ならテレポートを使った後はどことなく寝苦しいのになんだかリラックスできた気がする。
「あっ……あの、大丈夫ですか……?」
「うぉ!? びっくりした!」
起きたらベッドの横にマリアンヌが。微妙に視界に入らない位置で気がつかなかった。
「というか何で俺の部屋に?」
「た、体調が悪そうだったので……回復魔法を……」
それで目覚めがスッキリしていたのか。いや、でも回復魔法って精神的な疲労には効かないはずだよな……? けど普段の徹夜明けのだるさみたいなのを感じないし、やっぱりいつもよりスッキリしてる気がする。
「そういえばなんかいい匂いがするな」
「あ、ご、ごめんなさい。ヒーリング効果のあるアロマを焚いているので……その匂いだと……」
「謝らなくていいよ。そうか、そのおかげでいつもより調子が良いんだな。ありがとう」
「…………」
え、あれ? 急に無反応? おかしいな、目は合ってるんだけど。
「マリアンヌ?」
「あ、あわわ……ごめんなさい。クレア以外の人からお礼を言われたのが久しぶりで……ど、どうしましょう……なんだかお顔が熱いです……」
お礼の言葉一つでこうなっちゃうのか〜、これは重症だな。
「あ、あの、私に出来ることなら何でも言ってくださいね」
あ、これあかんやつや。相手が喜ぶならとことん尽くしちゃう典型的ダメンズ生成タイプだ。お互いが幸せならそれでもいいんだろうけど、マリアンヌの場合は自分を犠牲にしてでもそれをしそうだし、こんな状態で一人暮らしさせたらすぐに悪い男に引っかかりそうだ。
「よし分かった。ちょっとずつ治療していこう」
まぁ治療なんて言うと大袈裟だけど、ようはマリアンヌの意識改革だ。
こんな普通に感謝されただけで『この人のためにもっと何かしてあげたい』なんて思考に陥っているのははっきり言ってヤバい。
とりあえず感謝されることに慣れる必要があるな。とはいえ俺は一旦向こうに戻らなきゃだし、任せるならアロエが適任か。こっちに残ってるメンバーならベネトナシュでもいいんだけど、年下のアロエの方がマリアンヌも緊張しないだろうし。
早速アロエに頼もうとマリアンヌを連れてアロエを探す。屋敷の中にいないみたいでどこにいるのかと思えば、アロエは庭に出ていてみんなの布団やシーツといった寝具類を干していた。
「あ、お兄様。あとでお兄様のもお洗濯しますね」
「……何やってるんだ?」
洗濯はとてもありがたいんだけど、メイド服まで着て物凄い気合いの入れようだな。
「もしかしたらお姉様たちも帰ってくるかもしれないので、念のためです。というか、お兄様がこんなに早く帰ってくるからですよ。まだ何もおもてなしの準備できてなかったのに……まぁそれは私が未熟なせいもありますけど」
「ごめんごめん。いつもありがとな」
俺が予定よりも早く帰ってきたことに対してアロエはむすっとした顔で文句を言う。むすっとした顔も可愛いが、とりあえず宥めるために頭を撫でておいた。
「むぅ……お兄様、はぐらかそうとしてませんか?」
ぎくっ、鋭いね。流石にトワやクーコの教育を受けているだけのことはある。あの2人はアロエをどうするつもりだ?
「そういえばお兄様。ちゃんとマリアンヌさんにお礼言いました? あのアロマ、マリアンヌさんが調香してくれたんですよ」
「え? そうなの?」
マジか、既製品だと思ってたわ……ってことは俺の症状に合うようにわざわざ作ってくれたってことか。
「改めてありがとな。めっちゃ効いたわ。もしかすると調香師とか向いてるんじゃないか?」
「い、いえ! 調香は聖女見習いの時にちょっとかじっただけですし……わ、私がやったことなんてそんな大したことじゃないので……」
うーん。もうちょっと自分を褒めてあげてもいいんじゃない? 俺の褒め方が悪いのか? それとももっと自己肯定感の爆上げに繋がるような成功体験が必要なのか?
「十分すごいですよ! よかったらもっと教えてくれませんか?」
アロエにはマリアンヌのことを良い感じによいしょするように頼もうと思ってたけど、これ頼む必要すら無いな。仕事のさしすせそじゃないけど、そういう相手が気持ち良くなる振る舞いを自然に出来てしまうところがアロエの恐ろしいところだ。
純粋な敬意を向けられて気を悪くする人はいないからな。まさに年上キラーだ。これに関してはトワやクーコに鍛えられる前からだから素の性格からいい子でしかない。
「俺は向こうに戻るんだけど、マリアンヌのこと頼んでもいいか?」
「分かりました。あ、もう女の子を連れてきたらダメですよ!」
釘を刺されてしまった。俺も見境無しに連れてきてるわけじゃないから……。まぁよほどそんなことにはならないだろう。
「テンマ、そろそろ戻った方がいいんじゃないか?」
「あれ? もうそんな時間か?」
あんまりゆっくりする時間もないな。まぁ2時間くらいは気絶してるからな。
「ベネトナシュにも会いたかったけど、忙しいみたいだな」
皇女としての立場もそうだが、軍事に関する研究開発者という側面もあるからな。軍議に出席したりと色々とやる事があるみたいだ。
「ナアシュ姉様は連日深夜までお仕事されてますから……」
「そうか……よろしく伝えといて。アロエも、ベネトナシュのお世話とかあるのに色々頼んで悪いな」
「いえ、皆さんをサポートすることが私の役目ですから」
はぁ、いい子すぎる。帰ったらわがままをたくさん聞いてあげないとな。
「あ、あの!」
「ん? どうした?」
戦場に戻ろうとしたところでマリアンヌに引き止められた。
「聖国は勝算が無ければ帝国に戦争を吹っかけるとは思えません……な、何か奥の手を用意している、かもしれないです……だから、あの、えっと……気をつけてください……」
「ふむ……」
実は俺たちの中でも少し話題になったことがあった。聖国は宣戦布告で帝国が開発したヘルヘイムドラゴンの装備について言及したが、それはただの開戦のための口実だ。実際に勝てるビジョンがなければ、そもそも戦争を吹っかけたりしないだろう。
だから何かがあるはずだと、とはいえその何かが分からなかった。
「奥の手か……ちなみにその奥の手というのに心当たりはないか?」
「か、関係あるかは分かりませんけど……神の力を手に入れたと枢機卿が言っていたのを聞いたことがあります……」
「神の力!?」
神の力と聞いて真っ先に思いつくことがある。文言が少し違うが、最上級職を鑑定すると神の領域というフレーズが使われている。
「ありがとう。注意するよ」
「はぅ……」
熱っぽい視線を向けられるけどとりあえずその辺りはおいおいなんとかしよう。
最上級職との戦いとなると気を引き締めないとだからな。




