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第144話 現行犯

 帰っても居場所がないとは一体どういうことだ?

 詳しく話を聞かせてくれと言うと、女の子はまず自己紹介からはじめてくれた。


「わ、私は聖国で500年以上の歴史があるマルティノ侯爵家の長女、マリアンヌ・マルティノと申します。て、テンマ様はマルティノ家についてご存じでしょうか?」


「いや、知らないな。不勉強ですまない」


「め、滅相もございません! マルティノ家は、これまで何人もの『聖女』を輩出してきた家系で、聖マルティノ伝説という初代様の活躍を語り継いだ物語があるほどの名門なんです……。そんな家で聖女候補として育てられていた私ですが、5年前の儀式で聖女の資質がないと判明しました。それ以来マルティノ家で出来損ないと呼ばれ、家族や使用人からも疎まれています」


「それは、穏やかじゃないな」


 漫画みたいな話だけど、同情を引くための嘘を言っているという雰囲気でもない。家に居場所が無いというのは想像を絶するほどの辛さだろうな。


「婚約者とかはいないのか?」


「だ、第二王子と婚約していましたが、聖女の資質が無いと判明したことで婚約破棄されてしまいました。唯一家から出られる学園では、王家から婚約破棄された令嬢として扱われ、さらに新たに『聖女候補』として彼と婚約した2つ下の妹が入学したため私の居場所はますます無くなりました」


 漫画か? 漫画なのか? 


「せ、聖国では、貴族は戦争の際に一家から一人以上戦争に参加する義務があります。今回の戦争は私を追い出す良い口実になったみたいです。お父様やお母様は出来損ないの私が生きているのがよほど都合が悪いのでしょう……本来侯爵家であれば指揮官としての参加するのが通例なのですが、私は前線の一小隊長として参戦させられました」


 ひでぇな。つまりあわよくば死んでこいってことだろ? そんな鬼畜な所業も厭わない奴らが安全地帯でほくそ笑んでると思うと虫唾が走る。ダメだな、なんかもう怒りすら込み上げてきた。


 なんとか助けてあげたいな。


「待てよ、逆に考えるんだ。これは帝国に亡命するチャンスだと」


「え?」


 話を聞く限り、侯爵家の連中はマリアンヌを排除したかったように思える。だからこのまま聖国に戻ってもまともな暮らしが出来るとは思わない。それなら帝国で自由になった方が幸せだろう。


「で、でも私そんなお金もないし……住む場所も食べる物も、上手くやっていく自信もないです……」


「俺が言い出したことだ。全部俺が用意してやる」


「えぇぇ……!!?? で、でも、テンマ様の負担になるんじゃ……」


 これだけで分かるけど、きっとマリアンヌはものすごく良い子なんだろうな。


「全然大丈夫だ。こんなんでも成り上がり貴族だからな。最近話題の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)って聞いて心当たりはない?」


「ど、ドラゴンスレイヤー……? あっ、たしか最近皇帝から直々に拝領された……も、もしかしてテンマ様があのバルムンク様なのですか……!?」


「そうそう」


 うわ、すげー。インターネットもない世界なのに数百キロ離れた他国にまで名前が広がってるよ。商魂逞しい大手の商会が、キャラバンを率いて国境を超える大掛かりな商売をしているおかげだろうな。


「いやらしい話になるけど、俺からしたら女の子1人支援することなんて全く負担じゃないんだよね。マリアンヌが望むなら、このまま帝国に亡命する手助けをしてあげるけど、どうする?」


 どれだけ辛い思いをしていたとしても、そう簡単に決断は出来ないか。無理もない。聖女候補として育てられていた時は、きっと家族や使用人からも愛されていたはずだ。帝国に行くということは、また元の関係に戻れるかもしれないという希望を完全に断ち切るということだ。


「ううぅぅぅ………ぐすっ……。私、これでも頑張ってたんですよぉ……。頑張っていれば、いつかお父様やお母様も認めてくれるんじゃないかって……」


 たとえ酷な環境でも、その日が来ることを信じて必死に耐えてきたんだろう。あちら側に歩み寄る気がない以上、マリアンヌのそれは世間で言うところの無駄な努力だったのかもしれない。しかし、頑張ってきた経験は決して無駄にはならないはずだ。

 いきなりその叶わない努力に見切りをつけろと言われても、素直にはいそうですかと飲み込むのは難しいだろう。むしろこの涙は、これまでの気持ちに踏ん切りをつけ、前に進むためにも必要な儀式だ。


 ひとしきり慰めてあげると落ち着いた。なんだかんだ1時間くらいマリアンヌの身の上話を聞いていたな。

 そのマリアンヌは話しているうちに覚悟が決まったのか、姿勢を正すように座り直すと三つ指をついてお辞儀をした。


「お願いします。どうか私を助けてください」


 王妃教育の賜物だろうか。礼の一つをとってもその所作の洗練具合から厳しく指導されてきたことが分かる。


「もちろんタダでとは申しません。未経験ではありますが、王妃教育の一環で一通りの房中術は学んでおります。伽係……いえ、性奴隷で構いません。情けをかけて頂きたく存じます」


「あー、そういうのいいから。もっと自分を大切にしろよ」


 それに伽係とか性奴隷とか、俺が怒られるんだよなぁ。というか、弱みにつけ込んでそういうことをするのは流石にクズすぎる。なのでここは余裕のある大人の対応で断ったのだが、すると何故かさっきまでの自己肯定感の低い状態に戻ってしまった。


「や、やっぱり私なんかでは欲情しませんか……? た、たしかに私は同年代の子より小柄ですけど、ほ、ほら見てください、おっぱいはあります……。だ、だから見捨てないでください……お願いします……あなたの役に立ちたいんです……」


「分かった、分かったから服を着てくれ。充分魅力的だからちょっと落ち着いてくれ」


 俺の静止も虚しく、マリアンヌは上半身裸になってしまった。下に手をかけたところで腕を掴んで強制的にストップさせた。

 いや、これはなかなか厄介だな……素人判断でしかないけど、多分メンタル的なやつだろう。家族や使用人たちに疎まれていたトラウマか、マリアンヌは見捨てられることを極度に恐れている。

 たしか、境界性パーソナリティ障害だったか? 自傷行為なんかで人の気を引いたりするやつだ。彼女の場合は特に性的被虐に強くその傾向が出ているのだろう。

 性欲の捌け口になるということは、人間の本能とも言える三代欲求の一つを向けられるということだ。だからこそ、簡単には見捨てられないだろうという安心感を得ることが出来る。まぁそんな感じだろう。


「ほ、本当に魅力的だと思っているなら、ちゃんと触ってください……」


「うぉい、ちょっと待ってくれ!」


 なんでいつの間にか俺が詰められてんの? もういいか、触るだけで満足してくれるなら触っちゃうか?

 行くか、これは仕方ないから。誰に言い訳をしているのか分からないが、とりあえず触らないことには話が進まなそうなので恐る恐るマリアンヌの胸に触れた。


「ダメです。もっと強くしてください……」


 まさかのダメだしを食らってしまった。マリアンヌは俺の手の上に手を重ねると、押し付けるようにして無理やり揉みしだかせてきた。クソ、悔しいけど柔らけえ……。


「あの……男の人って興奮するとおっきくなるんですよね?」


 マリアンヌの目線がテントをはっている俺のズボンに釘付けになっている。だって仕方ないじゃん、俺だって健全な男の子なんだから。


「責任を取らせてください」


「い、いいから! ほんとこういうのはロクなことにならないから!」


 脱がそうとしてくるマリアンヌとそれに抵抗する俺。これ逆だろ普通。マジでダメだって。こう言う時に限って帰ってくるんだから。


「ほお〜? 私たちが仕事している間に随分と親睦を深めたようだな」


 あ、終わった。

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