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第143話 捕虜? 痴女?

 一応女の子は捕虜ということなので自由にすることは出来ず、大変申し訳ないが天幕の中で両手足を拘束きて監視させてもらっている。監視なんて仕事は基本的に上官がやるようなことではないが、そんな仕事でも率先してやる理解のある上司を演出した。

 まぁ実際は俺が持ってきた仕事なのでただのマッチポンプでしかないんだが、まぁ余計な仕事を増やしやがってと思われてなければいいや。


 さて、そういうわけで目が覚めるのを待っているのだが、もう辺りが真っ暗だというのに全く目を覚ます気配がない。スリープは黒魔道士のデバフ魔法の中でも強力な部類だけど、いくら魔法抵抗力が低くてもここまで効くものか?


「むにゃむにゃ……」


 というか、ここに連れてきた時より熟睡してるんだが? 気持ちよさそうに寝てるところ申し訳ないんだけど、このまま起きるのを待ってたらミーナたちも動き出しちゃうんだよな。

 作戦では相手をここまで釣り出す予定もあるのでここで寝かせたままにしておくのは可哀想だろう。

 寝てたら誰も助けが来なくて焼死してましたとか、いやそんなバカなと思うかもしれないけどそんな万が一があるかもしれない。


「起きれますか?」


 俺は声かけをしながら肩をゆする。なんて声をかければいいのか分からなかったから意識を確認してる人みたいになってしまった。


「んぅ……クレア……あと5分……」


 うーん、テンプレみたいな寝言。でも俺はそのクレアさんじゃないんだよなぁ。


「おーい、行軍中だぞ〜」


「はっ! し、失礼しましゅ! って、あれ……? は、はわわ……! あ、あなたは誰ですか……」


 急いで起きあがろうとしたけど両手は後ろで拘束されている上に両足まで縛られているからな。女の子は状況が飲み込めていないのか、なんでこんなことになっているのかと困惑していた。


「俺はテンマ。一応帝国の人間だ。悪いけど君を捕虜にさせてもらった」


 捕虜という単語を聞いて状況を察したらしい。眠たそうにしていた顔も一瞬で血の気が引いたように青ざめた。


「て、帝国の人……!? ふぇぇぇ、私のことどうするつもりですかぁ……?」


 目に涙を浮かべながら恐る恐る問いかけてくる。まぁ敵に捉えられた女兵士なんてロクな目に遭わなそうだしな。その展開だけで何千何万の薄い本が作られたか。


「今はちょっと難しいけど、時期が来たらちゃんと解放してあげるから大人しくしててくれる?」


「でも、あなたにそれをするメリットがないじゃないですか……」


 おぉ、意外と冷静だな。まぁ本当なら交渉のカードに使ったりするんだろうけど、シンプルに可哀想じゃん? 俺としては別に捕虜なんていてもいなくても関係ないし。だから裏なんてないんだけど、彼女はそうは思わないみたいだ。


「はっ……! そうやって淡い希望を持たせておいて、その希望が断たれた時の顔が絶望に歪む瞬間が見たいんですね……く、狂ってます……」


「うん、全然違うよ?」


 狂ってるのはお前の思考回路だよ。そんなこと微塵も考えてなかったわ。俺は明確に否定したんだけど、なんか自分の世界に入ってしまっているのか、小さい声でぶつぶつと何かを唱えている。


「涙を流す私を見て嗜虐心に火がついたら、はちきれんばかりに怒張させた一物を取り出してまるで性欲処理の道具みたいにして犯すんだ……官能小説みたいに……!」 


 耳を澄ましてよく聞いてみるととんでもないことを言っていた。聞き間違いかと思ったわ。なんだよこの子、大人しい顔して脳内真っピンクじゃねえか。というか、『私に乱暴する気でしょう?』と似たようなテンプレがこっちにもあるんだな。


「あっ……」


 くだらないことを考えて現実逃避していると女の子のお腹が鳴った。いや、恥ずかしそうにしてるけど恥じらうにはもう遅くない?


「軽食で我慢してくれ」


 アイテムボックスにサンドイッチが入っているからそれを取り出す。俺の非常食なんだけどな。携帯食じゃ満足できないのは分かっていたから火を使わなくても美味いものを大量に用意しておいたんだ。


「手を拘束しているから食べられないな」


 サンドイッチの生みの親とも言われている伯爵は、食事のためにゲームを中断するのを嫌うほどのギャンブル狂で、カードゲームの最中にも片手で食べられるような食事を用意させていたというが、どうやら両手を拘束されることまでは想定していなかったみたいだ。


 仕方がないので少しずつちぎって食べさせてあげる。なんだか小動物に餌をやっている気分だ。次々とちぎっては食べさせて、そして最後の一欠片を口に運んだ時だった。サンドイッチを運んでいた指が女の子の唇に当たってしまった。


「あ、ごめん」


 すぐに引っ込めれば良かったのだが、食べさせようという意識が強かったのでそこまで気が回らなかった。

 しかし何を考えたのか、女の子は俺の指を咥えはじめた。


「ちょっ……」


 いやらしく水音を立てて舐めしゃぶってくる。抜こうと思ったらダメだと言わんばかりに吸いつかれた。


「おいこのエロ女……!」


「お、お気に召しませんでしたか……?」


 お気に召すかぁ! 急に何をおっ始めるつもりだったんだ? 


「も、申し訳ございません。なんでも致しますから命だけは……」


 床に頭を擦り付ける姿を見て俺は誤解していたことを悟った。人権意識の低い世界で捕虜になるということはそういうことか。捕虜に対して人道的な扱いをしなければならないなんて条約もないんだから。


「本当に何もしないから安心してくれ」


「な、なんて紳士的な方なのでしょう。……こんな私に優しくしてくれるなんて……もしかしてこの人が私の運命の人? で、でも私たち敵同士なのに……」


 女の子は自分の早とちりだと分かると、ぽっ、と顔を赤らめる。ん? なんだこの反応? チラッと目が合うだけで照れたような愛らしい表情を見せる。とてもじゃないが捕虜にされた女の顔じゃない。


「そうか……ストックホルム症候群……!」

「???」


 ストックホルムホルム症候群とは、拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになるというものだ。これは本当に好きになっているのではなく、加害者に反抗的な態度を取るよりも、好意的な態度の方が生き残る可能性が高くなるという、極限の状況によって生じた一種の錯乱状態だ。

 おそらく潜在的な恐怖感がもたらしたものだろう。


 そりゃそうか。敵に捕まって監禁されて怖くないわけないもんな。

 うーん、本当はダメなんだろうけど、まぁ何か出来るということもないだろうし、拘束はしなくてもいいか。


「天幕の中なら自由にしていいぞ」


 軟禁状態ではあるが、監禁よりは心理的ストレスが少ないはずだ。


「申し訳ないんだけど解放はもうちょっと待ってくれ。さっきも言ったけど、時期が来たら無事に帰すからさ。あ、逃げようとか考えないでね」


「に、逃げません……帰っても私に居場所はありませんから」

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