第140話 戦争が地方に及ぼす影響
昨日はあの流れのまま三回戦まで突入してしまい、お風呂に入ってからさらにもう一回戦としていたら完全に夕食を逃してしまった。まぁ二人して疲れ果ててそれどころじゃなかったので、示し合わせることもなく睡眠が優先された。
そして泥のように眠って目が覚めたら時刻は11時。朝早くから行動を始めなければならないということもないが、流石に追加でもう一泊というほどのんびりはしてられない。
「飯食ったら行こうか」
受付嬢から教えてもらったレストランが昼間も営業をしていたのでそこで昼食を取った。雰囲気のあるレストランで女性受けが良さそうなところだった。少なくとも俺一人じゃ入れなかったな。
昼食を終えて冒険者ギルドに預けていた馬車を取りに行く。正午を回ったというのにギルド内には結構な数の冒険者がいた。
「こんな時間に賑わっているのは珍しいな」
「そうなのか?」
「あぁ、新規の依頼は朝に更新されるからな。早い者勝ちだから冒険者は朝に目掛けてギルドに……って何で知らないんだ!?」
「いや、だって俺そんなこと考えたことなかったし。常設の依頼ばっかやってたぞ」
「そういえばお前はそういうやつだったな」
スライムとかウルフとか、文字通り死ぬほど狩りまくってたからな。ミーナも俺と出会ったばかりの頃を思い出したのかどこか遠い目をしていた。
「まぁだからお昼時ともなると、常設されている依頼か、あるいはリターンの見合わない大変な依頼しか残っていないというのが常識だ」
なるほど。その冒険者の常識というのは分かったけど、じゃあこの活気はなんなんだ? まぁ知ってる人に聞けば早いか。そういうわけで昨日もいた受付嬢さんに話を聞いてみた。
「聖国との戦争に傭兵として参加する冒険者のための乗り合い馬車が出るんですよ」
「傭兵か、そんな依頼もあるのか」
そういえば冒険者は国に帰属していないから勝ちそうな陣営につくみたいなことをフィーが言っていた気がする。
この依頼書によると、なんでもCランク以上の冒険者に参加資格があり、報酬はランクによって変動するそうだ。Cランクなら1日あたり5万ゴールド、Bランクなら10万ゴールド、Aランクだと30万ゴールドとなかなかの大盤振る舞いだ。
あまり報酬を安くしたら誰も助っ人に来てくれないからな。いや、来ないだけならまだいいが、もしかすると聖国側に味方する可能性がある。そう考えると高報酬で縛り付けるのは効果的だろう。
「バルムンク卿も参加されるんですか?」
俺が依頼書をじっと眺めていると、受付嬢さんは気を遣ってくれたのか周囲の冒険者に聞こえないように小声で話しかけてくれる。流石は人気職業、そのくらいの配慮は当然か。
「あー、まぁこれとは別口で」
「やっぱり、バルムンク卿ともなると皇室から直接依頼されてるんですね……!」
俺とベネトナシュとの関係を知っている人なら自然とその結論に行き着くだろう。まぁ実際は自主的に動いているだけなんだけど、なんか受付嬢さんが目をキラキラとさせながら言ってくるもんだから訂正しにくかった。
ギルドの冒険者たちを尻目に、俺たちは先んじて街を出発することにした。
「うむ、乗り合い馬車よりずっと早いな」
「そりゃな」
乗っている人数も違えば車体の機構も違う。軍や乗り合い馬車は徒歩程度の速度しか出せないが、俺たちは馬を軽快に走らせることが出来る。これだけで単純に3倍くらいの差が出ているはずだ。
馬を休ませるために1時間に1回休憩を挟む。休憩している時にふと思ったが、帝都方面に向かう馬車はたびたび見かけるが、同じ方向の馬車は全く見かけない。それこそ俺たちが出発した街とはまた別の街から出発した冒険者の乗り合い馬車くらいだった。
「戦火に巻き込まれる可能性があるもんな」
当然といえば当然だな。この時期に国境側から帝都方面に向かって避難する者はいても、帝都側から国境方面に移住や旅行する者はいない。そして帝都から離れれば離れるほど、その弊害は如実に現れる。
帝都を出発してから10日目。国境を防衛する要塞までは残り数十キロ、何も起きなければ明日には到着する予定だ。逆に言えば、要塞が突破されれば1日で到着出来てしまうほどの距離にあるこの町は、戦争の影響をモロに受けていた。
「活気がないな」
「あぁ、小さい町にしても人の気配が少ない」
それだけ避難している人が多いということだ。そんな中で何故かオープンしている食事処があったので入ってみた。
「いらっしゃい。悪いね。商人が来なくて品薄だから料理はこっちで勝手に決めさせてもらってるよ」
店内に入ると店主からだろうか、厨房からそんな声が投げかけられる。しかしそんな状態でも店内には意外と人が集まっていた。
「はい、日替わりね」
席についた俺たちの前に野菜の天ぷらを添えたうどんのような麺類とミネストローネ風のスープが提供される。商人が来ないのでメニューは店主やお客さんの畑で育てている野菜がメインになっているらしい。
「美味いな」
「だろ? 親父さん、俺たちみたいなのが食いっぱぐれねえように店開けてくれてんだ」
客の一人が語りかけてくる。聞けば、店主は避難することも出来たが、どうしても町を離れられない事情がある人たちのために、町に残って店を開け続けることを決めたらしい。美味しい料理が食べられないと心も休まらないだろうという粋な計らいだった。
そうこうしているうちにお客さんたちも食材を持ち寄るというシステムがいつの間にか出来ていたそうだが、そんな状況でも客の顔に悲壮感はなく、なんなら楽しんでいるようにも見えた。
窮地を共に乗り越える仲間との絆というやつだろうか、まぁそんな連帯感が生まれるのは分からなくもない。
「じゃあ俺たちもそのルールに従わないとな」
俺は会計時にアイテムボックスから大量の肉や野菜、塩や砂糖といった調味料、そしてお酒などの嗜好品を取り出して提供する。ついでに1万ゴールド金貨を100枚ほど小さな袋に入れて手渡した。
「気持ち程度だがな」
「な、な、な……」
いい歳をしたおっさんがフリーズした。まぁお金はともかく物資は少し奮発してしまったな。ミーナから、それは私たちの1ヶ月分の食糧じゃないか? という視線が向けられるがやってしまったものは仕方ない。はい、すみません。あとで帝都までひとっ飛びしてきます。
まぁでもこれは応援をしたかったという気持ちが大きい。俺も常日頃からミーナたちの憩いの場所を作っていきたいと考えているからな、そういう場所を作りたいという店主に勝手にシンパシーを感じていた。ちょっと敬意を表するあまりにやり過ぎてしまった感は否めない。
あまり恩着せがましくなるのも嫌だったので店主や客が放心しているうちに店を出る。店を出ると案の定ミーナに怒られた。
「格好つけすぎだ。まったく……」
いや、でもあれは格好つける場面だったから仕方ない。
というか偽善なんて格好つけてなんぼだろう。
それに、偽善も善だからな。あれだけ食糧があれば、あの店にいた人たちが戦争の間ひもじい思いをすることはない。
まったく、などと言って呆れた態度を取りつつも、その表情がどこか誇らしげなのは、俺のやっていることを理解しているからだろう。
「いつも好き勝手してごめんな」
「別に責めているわけでは……。むしろ私としてはテンマのその自由なところが好きというか……って何を言わせるんだ!」
明日から戦地に向かうとか関係なく、今日の夜も可愛がってやったのは言うまでもない。




