第139話 ミーナとペア
「よし、じゃあ行くか。全員無理だけはしないように」
「あぁ、テンマも気をつけろよ?」
「テンマ君の場合心配するだけ無駄だろうけどね〜」
俺たちは出立に伴い各自アイテムボックスに数十日分の食糧を用意していた。アイテムボックスの容量はステータスに依存しているためここまで詰め込めるのは俺たちくらいなものだろう。
「まさかワシらがどこかの国に肩入れすることになるとはのぉ」
「タマモ様が旦那様の愛した国を守るのは割と想像の範囲内……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、なにも」
とても今から戦争に行くという雰囲気ではない。まぁそこらの兵士ごときに遅れを取らない安心感のあるメンバーということもある。
ちなみに前線に向かうのは俺、ミーナ、フィー、トワ、クーコ、ミツキの6人だ。そして最終的には2人ペアで行動することになっている。
「あの、主従漫才中すみません」
「しとらんわ」
「してないが?」
トワのこれはボケなのか本心なのか、トワは2人のツッコミをスルーして行き先の確認を始めた。
「では帝国西部、聖国方面にテンマ様とミーナお姉様。北部、公国方面には私とフィーお姉様、そして東部のエレメンタリオ連合国にクーコ様とミツキさん」
このチームに分けたのも意味があって、これなら各チームに『時空魔道士』がいるので何かあれば『テレポート』で屋敷に戻ってベネトナシュに伝えることが可能だ。
「では、戦争を終わらせにいきましょう」
これからしばらくは俺とミーナの2人旅だ。聖国軍と帝国軍の行軍速度を考えればそこまで急ぎということはないが、俺たちはそもそも軍が出発してから10日ほど遅れて出立している。まぁこっちは馬車を使えるので彼らの道程を5倍近い速度で進めるからな。それでも両者が接敵する前には到着しなければならないので、あんまりのんびりもしてられないんだけどな。
けれど目立った戦闘もなく、ゆったりと旅行気分なのは確かだ。とても戦争に行く雰囲気ではない。
「まさかこうして2人で行動する時が来るとはな」
2人で御者台に乗っていると、ミーナも同じ気分なのか肩を寄せてくる。こうやって甘えてくれるのは嬉しい。
「賑やかなのもいいけど、たまにはこういうのもいいな」
普段から蔑ろにしているつもりはないけれど、やっぱり2人きりの方がちゃんとミーナに向き合えている気がする。
「なら、1ヶ月とは言わないからみんなとも2人きりで旅行してやってくれ。フィーもトワも本当はこっちに来たがってたんだ」
「あー、そうだな」
しかし相変わらず仲がいいな。きっと帰ったら俺のスケジュールは旅行の予定で埋まっているんだろうな。まぁ殺伐としているよりは断然いいんだけど。
出発してから数時間ほどすると日が傾いてきた。現地についたら必然的に野宿になるのでその準備はあるが、今はまだその必要もないので日が暮れる前に街に入ることにした。
帝都から1日で移動できる街ということもあって、街の規模はそこそこに大きい。俺たちはまずギルドに行き馬車を預かってもらうことにした。
ギルドの中は時間も時間なので冒険者たちの姿はない。受付嬢も日勤が終わるのか、カウンターでは受付嬢も帰り支度をしていた。
その受付嬢が俺たちの姿を見て一瞬嫌そうな顔をしたのは見逃していない。残業が嫌な気持ちは分かるけどな。
「終業前にすまない。馬車を預かってもらいたいんだが」
しかし俺はそれを指摘せずあえて下手に出た。
接客業をしていると本当に色々な人を見ることになる。特に、荒くれ者の多い冒険者ギルドで受付嬢をしていれば不快な思いをすることも多いだろう。
だからこそ、こうして申し訳ない気持ちを出せば、一瞬嫌な顔をしてしまったという罪悪感から親身に対応してくれるようになるのだ。
「はい。ではこちらの用紙にサインと、ギルドカードをお預かりします」
「はいはい」
サインをしてギルドカードを手渡すと受付嬢の顔が変わる。帝都ではもう有名になりすぎたからな。このやり取りも新鮮だ。
「ば、バルムンク卿……! た、大変失礼致しました! こちらお返しいたします!」
その名前はこの街にも知られてるのね。ネットがないから情報伝達の手段のほとんどが口コミなのに凄い拡散力だ。
「あのぉ……良かったらサインを頂いてもよろしいでしょうか?」
「え、サイン?」
サインならさっきした……と思ったら今度は色紙を差し出されている。まぁサインくらいならいいけど、まるで芸能人になった気分だな。とはいえ美人しかなれないと言われている受付嬢にちやほやされて悪い気分はしないけど。
「テンマ。あんまり鼻の下を伸ばしているとトワに報告するぞ」
「やめてください」
脅しだとしても効果絶対だよ。ミーナもそれが1番怖いって分かって言ってるからな。受付嬢は尻に敷かれている姿を見て苦笑いしている。今をときめくバルムンク卿にどんな幻想を抱いていたか知らないけど実態はこんなもんですよ。
「この街で治安の良い宿を教えてくれる?」
「あ、それでしたら……」
受付嬢にホテルの場所を教えてもらう。ついでに地元の人がちょっと贅沢をする時に行くおすすめのレストランも教えてもらった。
「ありがとう。助かったよ」
地元の人が言うのなら間違いがないだろう。俺たちは受付嬢に礼を言うと早速教えてもらった宿に向かう。
「随分と手慣れているじゃないか。私たちに隠れて女遊びをしてるんじゃないか?」
「してないのは分かってるだろ?」
ホテルに向かう道中でミーナが穏やかでないことを言ってくるが、声音を聞けば本気じゃないと分かる。俺たちのことをよく知らない人は、俺が受付嬢にちやほやされている姿を見て遊んでいるクソ野郎と思うかもしれないが、少なくともミーナたちに限ってそんな勘違いをすることはない。これは俺が信頼されているからとかそんな自惚れではなく、俺の行動が奥さんネットワークで筒抜けだからだ。
別に監視されているとかそういうわけじゃない。自然と誰かと一緒に行動しているから、一緒にいるみんなの時間を合わせると俺の1日の情報になるというだけだ。
それを踏まえて、分かるだろ? と俺が軽く冗談混じりに返すと、ミーナは少し悲しげな表情を浮かべて立ち止まった。
「ミーナ?」
「あぁ、テンマは初めて会った時からずっと誠実だ。しかし、だからこそ不安にもなる。普段あれだけ魅力的な女性に囲まれているんだ。もう私じゃ満足できていないんじゃないか?」
ミーナの視線は俺ではなく、脇道の何やら怪しげな雰囲気が漂う路地に向けられていた。大きな街ならば必ずある色街だ。
「我慢せずに行ってきてもいいんだぞ? みんなには黙っておいてやるから、たまにはプロの技で満足してこい」
「その必要はない」
思っていたよりも冷たい声が出た。ミーナに怒っているわけではない。ここまで言わせてしまった自分が情けなかった。
「行くぞ」
「お、おい!」
強引にミーナの手を引いて受付嬢から教えてもらったホテルに急ぐ。到着してみると、希望通りそのホテルは一般的な冒険者が使うような安宿ではなく、Bランク以上の冒険者や帝都に出張する地方貴族などが使用する高級ホテルだった。
「2人、一部屋で頼む」
チェックインの手続きを足早に済ませて与えられた部屋に入る。貴族が利用するということもあって各部屋にお風呂が備え付けられているが、そんなものに目をくれる暇もなくミーナをベッドに押し倒す。
「お、おい! 汚いぞ!」
「寝る時はもう一つのベッドを使えばいいだろ」
2人部屋だから当然ベッドは2つある。セミダブルほどの大きさのベッドなので2人で寝るにも十分だ。しかしミーナの言いたいことは違ったみたいだ。
「違う! 汗をかいた!」
「全然気にしないけどな」
なんだそんなことか。本当に気にしなくていいのに。その証拠に俺はミーナの首元に吸い付いた。
「私が気にするんだ大馬鹿者! あぁっ、こらっ、舐めるな」
そう言いつつも抵抗しないのでキスマークをつけてやる。首元のがっつり見える位置だ。2つ3つとつけていくと無理やり引き剥がされた。
「そっちばっかりじゃなくてこっちにもだ……んっ……」
今度はミーナの方からキスをしてくる。舌を絡める貪るようなキスだ。
呼吸をするために口を離すと艶めいた唾液が糸を引いて垂れてきた。
「気持ちよさそうな顔だな」
「ほぇ……」
ミーナはちょっとキスをだけで蕩けた顔をしている。この征服感が堪らない。
惚けている間に服を脱がしていく。しかし、されるがままにしていたミーナも前戯に突入しようとしたところでささやかな抵抗を見せた。
「だめだ、これだとまた私だけ満足してしまう……からなっ!」
「おっと……!」
するとミーナは俺の身体に手と足を絡めると、くるんと回転して180度体勢を入れ替えた。俺が下でミーナが上だ。
「大丈夫だ。もう濡れてる」
普段は受け身なミーナだが、どうやら今日のミーナは一味も二味も違うらしい。
これは、長い夜になりそうだ。




