第138話 学生たちの不安 sideアロエ
side アロエ
「戦争の準備でお父さんも忙しいみたい」
「商人も大変ですね」
私たちが帝都に戻ってきた頃には、すでに市井にも宣戦布告の噂が広まっていました。貴族の子や商家の子が多く通う学校はその話題でもちきりです。
「ローザさん、元気がないですね……」
「え、えぇ……すみませんご心配をおかけしましたわね。お父様が対エレメンタリオ連合の指揮官に選ばれて、昨日お屋敷を出たばかりだったもので」
侯爵令嬢のローザさんも侯爵様が国境付近の防衛都市に配属になったのが不安だったみたいです。侯爵様であっても戦場に出なくてはいけないのは実力主義の名残でしょうか。
「それでも指揮官は本陣で構えている分まだマシですのよ。実際に戦場で戦うのは、十人隊長や百人隊長に選ばれた男爵家や子爵家の方ですわ」
クラスの方にも男爵家や子爵家の方、いっぱいいますよね……。だから皆さん今日はどことなく雰囲気が暗かったんですね。
「アレン君のところはどうなんですか?」
「現地で戦う他家の貴族には申し訳ないけど、公爵家のほとんどは帝都で地図を睨むのが仕事になりそうだね」
「いわゆる、後方支援というやつですわ」
あ、なるほど。まぁ公爵位は主に皇族の関係者に与えられた爵位みたいですし、いくら実力主義の風潮といえども前線に行くことはないみたいですね。
「卑怯だと思うかい?」
「いえ? だって公爵家の方々が戦場に出たとしても誰かは後方支援に回るわけじゃないですか。それをこんな時期にランダムで選んだとして、あいつは後方支援だから卑怯だ、なんていらぬ軋轢を生むくらいならば、最初から公爵家は身分が高いからと言われた方が皆さん納得できる思いますよ」
それに卑怯という声が上がったとしても、特定の個人に攻撃が行くより身分制度を恨んでくれる方がずっと健全ですよね。
「アロエさん……わたくしは間違っていましたわ。お父様が前線に行くと聞いた時、公爵家の方々が羨ましいと思ってしまいましたの」
「別にいいと思いますよ。ずるいのは間違いないですし」
「へ?」
とはいえ、それを非難すると皇族という理由で帝都に残るナアシュ姉様を非難しないとダブルスタンダードになっちゃいますからね。まぁナアシュ姉様はそんな批判も真摯に受け止めるのでしょうけど。
「僕はね、批判を受けるのも公爵家の責務だと思っているんだ。戦争はたとえ勝ったとしても多くの命が失われる。司令官として後方から指示を出しているだけの公爵家に黒い感情を持つなというのは余りにも傲慢だと思わないかい?」
「……!?」
驚きました。まさか同級生からまるでトワさんやナアシュ姉様を相手に討論している時のようなプレッシャーを感じるとは思いませんでした。
アレン君は既に人の上に立つ自覚とその覚悟があるということですか。
「損な役回りですね」
「そうだね。だけど降りかかる火の粉は払うしかない。負ければ、二度とこうして机を並べることも出来ないからね。僕にできることなんて限られているけど、もし仮に帝都まで攻めこまれるようなことになったら、僕は志願してでも戦いに行くつもりだ」
「ご立派な考えだと思います」
やはり、覚悟が違いますね。ローザさんを含めてクラスの多くは父親が出兵することを不安視するだけで、それ以降のことからは目を背けているように感じます。そりゃ国境付近まで出張っている人たちが、たかだか1回2回負けたくらいで帝都まで退却するようなことはないでしょうけど、でも最悪の事態になれば自分たちにも危険が及ぶかもしれないというのにまるで他人事です。
ただ、まぁ今回に限っては他人事でもいいと思います。
「ご立派な考えだとは思いますが、アレン君は少々悲観的すぎると思いますよ」
「そうかな? 仮に負け続ければ最後の最後に決戦になるのはここだよ?」
そうですね。多方面作戦ということで色々なところが戦場に選ばれるとは思いますが、どこの戦場でも退却戦を繰り返せば最終的には帝都に行き着くでしょう。けど、そもそもそんなことにはならないんです。
「仮定は大事ですが、絶対に起こらないをことを仮定しても意味ないですよ。なぜなら今回はお兄様たちも参戦しますから」
「『竜殺し』のバルムンク卿か。それはたしかに心強いが……それでも絶対かどうかなんて分からないだろう?」
強情ですね……。しかし私だって絶対と言い切れる自信があります。なぜなら、帝都まで攻め込まれるようなことになれば、帝国は降伏するからです。その際に、ナアシュ姉様を含め皇族は首を差し出す必要があるでしょう。
そんなことお兄様が許すはずないんですよ。お優しいお兄様は相手の兵士も戦争に巻き込まれた被害者だと不殺を心掛けるみたいですが、ナアシュ姉様の危機ともなれば話は別です。大量虐殺すらも厭わず、相手兵士を蹂躙することでしょう。きっと、ミーナさんやフィーさんもお兄様を支えるためにお兄様と同じ道を選ぶと思います。
「アレン君がまだ私の家族のことを甘く考えているということは分かりました。ついでにローザさんも」
「「えぇ……?」」
なぜか途中から一言も喋らなかったカレンちゃんが後方で腕を組みながらうんうんと頷いていました。流石はカレンちゃんです。




