第131話 クーコの受難
アルガルド公爵の裁判も終わったことで、ようやくパーティから始まった貴族のいざこざから解放された気がする。ようやく最近のバタバタしていたのが落ち着いたって感じだ。
そうそう、そんなわけで今日からベネトナシュがこっちに引っ越して来ることになっている。まぁ前からちょくちょく来てはいたからな、ベネトナシュ用の部屋や家具なんかは用意してあるので引っ越しでバタバタすることはないだろう。
「雨が降りそうだな」
めでたい日だというのにあまり天気は芳しくない。本格的に雨が降る前に来れるといいのだが。
「あっ! 来られましたよ!」
っと、どうやらちょうど到着したみたいだな。外の様子を伺っていたアロエにつられて外を確認すると、目立たないよう皇室の紋章などが施されていないお忍び用の馬車から着の身着のままのベネトナシュが降りてきた。
しかし、何をしているのかベネトナシュは門の前で小さく円を描くようにフラフラと歩き出しなかなか家に入ってこない。ずっとあのままにしてたら不審者がいるって通報されそうだし、仕方ないから玄関まで迎えに行くか。
「や、やぁテンマ君。今日もいい天気だねぇ」
「いや、めっちゃ曇りなんだが?」
開口一番からまるで見当違いなことを言い始めた。なんか今日のベネトナシュは一段とおかしいというか、どことなく浮き足立っている気がする。
「ベネトナシュ様、もしかして緊張しているのですか?」
「ま、まさか! き、き、き、緊張なんてボクには無縁の単語さ! 子作りだってどんときたまえ!」
「あぁ……なるほど」
「そういうことね」
OK、とりあえずテンパってるのは分かった。というか、みんなもこれだけで察してやるなよ。
「結婚した男女が同じ屋根の下に暮らして何も起こらないはずがないだろう!?」
「それは間違いないですが……」
ほら見たことか、とまるで鬼の首を取ったように言ってくる。小学生か。俺たち夫婦だから、別に悪いことはしてないからな?
「ベネトナシュよ、孫の顔を見せてやるのも親孝行じゃよ?」
「それも不可解だ! 孫の顔はいつ見られるかな、なんて父も母も盛り上がっていたが、どうして親というのは孫の顔をああも見たがるんだい!?」
知らん、親っていうのはそういう生き物なんだよ。
「でもナアシュ姉様の場合は親孝行を抜きにしても皇室の血を残すという大切なお役目があるのでは……?」
「あ、アロエ君……キミ以外と容赦ないんだねぇ……。ふふふっ、可愛い妹の新しい一面が知れて嬉しいよ」
年下のアロエに正論をぶつけられてる。まるでベネトナシュに皇族としての責任感が無いみたいだ。まぁ婚約破棄になった後も新しい婚約者を探すどころか縁談を全拒否していたらしいからその点だけ見れば全くもってその通りなんだけど。
「責任とか義務感はともかくとして、別に俺はそういうことを強要するつもりはないぞ」
「あぁいや、別にボクもやりたくないとか興味がないわけではないんだよ? テンマ君のことは好ましく思っているし、結婚相手がキミで良かったと思っている。ただ、上手く出来るかも分からないし何より裸を見せ合うなんて恥ずかしいじゃないか……」
なんだ、今日のベネトナシュはおかしいだけじゃないぞ。恥じらっているところを不覚にも可愛いと思ってしまった。
「クーコさん」
「うむ、承った。のぉミツキ、そういえばお主もまだじゃったのぉ」
そう、実は俺はまだミツキには手を出していない。彼女から誘われていないというのもあるけど、そういえば元々はクーコが指南役をするって話だったっけ。
「ふーむ、分かった。そういうわけじゃから主様、今夜は2人を連れて部屋にゆくからの」
「いや、どういうわけか分からないんだけど」
クーコは今夜俺の部屋にミツキとベネトナシュを向かわせると脈略もなく宣言してくる。そんな夜這い宣言されても俺も反応に困るんだけど。まぁ1番困ってるのはミツキとベネトナシュなんだけど。
「こ、今夜!? もう少し心の準備をさせてくれないか!?」
「そうですよタマモ様! ベネトナシュ殿もこう仰っていることですし、また後日にしてもよいではありませんか!」
「今夜じゃ、2人とも逃げるでないぞ?」
2人の抵抗虚しく、最終的にはクーコの圧に負けて力なく首を縦に振ることになった。こんなんで大丈夫なのか?
夜、約束通り──というには半ば強制みたいな形はあったが──、3人は俺の寝室にやってきた。最初はミツキもベネトナシュもおっかなびっくりといった感じでどうなるかと思ったけど、いざ始まってみたらクーコの指南は必要なかった。
その2人はもう足腰が立たなくなってしまって今は俺のベッドで満足そうな顔をしながら寝ている。そこまでやったというのに俺の精力はまだ少し余裕がある。ほんとに精神力のステータスさまさまだ。
「話には聞いとったが、本当に2人相手でも問題ないんじゃの」
「まぁ、ミツキもベネトナシュもあの3人ほど積極的じゃないからな」
あの3人というのは言うまでもないがミーナ、フィー、トワのことだ。ミツキとベネトナシュは受け身な分こっちが主導権が握れたのだが、しかしそのせいでペース配分を間違えてしまい俺が不完全燃焼で終わってしまった。まぁ2人を満足させられたので良しとしよう。
「まだ溜まってそうじゃの」
今日はこれで終わりだと思ったらクーコが握ってきたのでびっくりしてしまった。
「クーコ!?」
「すまんな。ワシはこれくらいしかしてやれん」
操を立てているからと言っていたけど、だからこそクーコの方からこういうことをしてくるとは思わなかった。入れなきゃセーフってこと?
「ほれ、舌を出すんじゃ」
「ふぁっ!?」
驚いて口を開けたところに強引に口を塞がれた。違う! 許可したわけじゃない! そうツッコむ間も無くいきなり舌を捩じ込んできた。いいのか!? これもういたしてるのと大差ないだろ!? それとも俺の経験が浅すぎるだけなのか?
しかしそんなことを考えている余裕もなく、俺はクーコにされるがまま絶頂へと導かれたのであった。
side クーコ
ミツキもベネトナシュも初めてにしては頑張った方かの。しかし、まさか主様がここまでとは思わなんだ。強烈なオスの臭いにまだ頭がクラクラしておる。手に染みついたこの臭いはしばらく取れないじゃろうな。
「ダメじゃ……これ以上は戻れんくなる」
久しく味わっていなかった感覚じゃ。なんじゃ、ワシもメスじゃったと強制的に分からされた気分じゃ。じゃが、こうやって理性のブレーキが効くうちはまだ良い。でももし、このタガが外れてしまったら……。
「あぁ、怖いのぉ……」
ひとたび身体を許せば、かつて愛したあの日々が、いや、愛しておったこと自体が嘘になってしまう気がする。そんなのは嫌じゃ、ワシはあやつのことも嘘にはしたくない。
こうしている間も、手に染みついたオスの臭いがメスの本能を掻き立ててくる。屈服したい、屈服したい、屈服したい、屈服したい、と強いオスに組み伏せられ、なすがままに犯されることを身体が求めておる。あぁ、いっそ堕落してしまえばこんなことを考えないで済むのかの。




