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第130話 判決

 ミーナ、フィー、アロエの3人にアルガルド公爵の裁判を見学したいかどうか聞いてみた。その時にクーコとトワの言葉を引用して、帝国の裁判がどのようなものかも説明すると、3人からは前向きな言葉が返ってきた。まぁ消化不良が解消されるというのならみんなも望むところということだろう。


「それにしても、クーコ殿は私たちのことをよく見てくれている」


「だよねー。この年になると気にかけてくれる人なんていないからさ、なんかちょっと甘えたくなっちゃうんだよねー」


 この提案がクーコからのものだと伝えると、2人は少し、いやだいぶ嬉しそうにしていた。クーコはミーナやフィーのことを、アロエやココと同じように扱うところがあるからな。


「トワさんからも頼りにされてますし、凄いですよね」


「トワもクーコと話しているときは楽しそうにしてるもんな。そういう意味ではトワもクーコには甘えているのかもしれない」


 トワとクーコはよく世界情勢や歴史について話している。俺もたまに参加させて貰っているが、本物の天才と生きる歴史書の会話に相槌を打つことくらいしかできない。


「しかし、そうなるとクーコ殿は誰に甘えればいいのだろうな」


 そうだよな。クーコは頼られ好きなところがあるからみんなから甘えられるのは嫌ではないだろうが、クーコだって誰かに甘えたいときはあるだろう。


「テンマ君、頑張るんだよ」


「そうだな。なんたって『主様』なんだから」


 こいつら、他人事だと思って……。ま、俺は俺に出来ることを精一杯やるだけだな。はぁ……裁判は物見遊山気分で行くつもりだったけど、ちゃんと社会勉強して帰りますか。



 アルガルド公爵の裁判は、普段は帝国議会が会議を行なっている会議場を使うことになった。公爵という皇室を除けば最上位に当たる地位を有する超大物貴族の裁判ということで、今回の裁判にはいくつかの例外があるそうだ。


「おや、テンマ君だけじゃなかったのかい?」


 会場に入ろうとしていたところ、その例外の1つが俺たちの前にやって来た。ベネトナシュ第二皇女および皇族の列席というのは、普通の裁判ではあり得ないことらしい。


「ベネトナシュちゃん、お疲れさまだったね」


「ありがとう。まぁこの忙しさも今日で幾分かは落ち着くだろうね」


 何がお疲れさまだったかと言うと、ベネトナシュはここ数週間、研究者という立場から鑑識の仕事を依頼されていたのだ。それも普段の研究業務もこなしながらの仕事だったので、相当ハードなスケジュールだったはずだ。一息ついたら頑張った奥さんに何か労ってあげないとな。


「それにしても、君たちは4人横並びで傍聴するつもりかい?」


「ん? ダメだったか?」


「ダメではないが、悪目立ちするだろう」


 別にルールやマナーがあるというわけではないが、基本的には家長が1人で来るものらしい。後学のためにと将来家督を継ぐことになる子供が同伴することもあるそうだが、それでも3人同伴というのは無いらしい。


「仕方ない、アロエ君はボクと来たまえ」


「えっ!? ちょっ!」


 そう言うとベネトナシュはアロエの腕をとり、半ば強引に皇族用に用意された席へと向かって行った。事態を察したアロエが青い顔をしていたが、まぁ少なくとも皇帝のヴァレンスや継承権第一位の第一皇子がリベラル寄りだから変なことにはならないだろう。



 適当に空いている席に横並びに座って裁判を傍聴する。今回の裁判には例外が多いと言ったが、ここにもその例外があった。


「リヴァル・アルガルド、貴殿はココット・ガーランド男爵令嬢ならびに、ジョン・ヴァルシオン、グリム・アンデンモア、ジャコフ・レンシャウ、ジャガーノート・マースウッド、ルイ・イヴォリンの以上6名を殺害した。相違ないか?」


「はい陛下。間違いありません」


 裁判官ではなくヴァレンスが罪状を読みあげている。こうやって皇帝が裁判を仕切るスタイルは、帝国の裁判の中で最も格式の高いものらしい。


「ココット・ガーランドの殺害に関しては先ほど陳述した5名の貴族派幹部により教唆されたものと認め、これに関しては無罪とする。しかし、帝国議会にも名を連ねていたヴァルシオン公爵を始め、その他重鎮たちを殺害し議会の進行を妨害したことは、帝国の経済成長を停滞させる行為に等しく、また、暗殺という手段を用いて安寧秩序を乱した罪は大きく、これを容認することは出来ない。過去の判例をなぞらえば死刑が妥当と思われるが、これに意見のある者は挙手を」


 驚いたことに帝国の裁判では傍聴席にも役割があるらしい。それだったら傍聴席じゃないか。いや俺は聞いてるだけだから傍聴でいいんだけど。そんなことを考えていたら1人の男性が手をあげていた。


「ロータス・ランページ侯爵。発言を許可する」


「はい。ランページ家にて調査したところ、アルガルド公爵が殺害した5名の貴族派幹部は、ココット・ガーランド男爵令嬢を害するよう公爵に指示した際、公爵の家族を人質にしていたことが判明いたしました。また、かつての貴族派ではこのような非人道的な行為が蔓延しており、公爵はそのことを憂いておられました。ガーランドの御令嬢に次ぐ新たな犠牲者が現れなかったのは、ひとえにアルガルド公爵の革命の功績と愚考いたします。よって、公爵の減刑を求めます」


 アルガルド公爵を弁護する意見が出てきた。なるほど、俺たちの役割は裁判の見届け人であり弁護人でもあるのか。男性の主張が終わったところでまた別の人が挙手していた。


「どのような思惑があったにせよ、暗殺は重大な貴族協定違反であり、これを容認することは出来ない! よってアルガルド公爵の死刑判決には妥当性があると主張いたします!」


「そうだ!」


 今度は弾劾するような意見が出てきた。弁護だけがこっち側の仕事じゃないんだな。


「テンマ君、貴族協定って何?」


 うん、俺も知らない。というか、これ知らず知らずのうちに違反してしまう可能性があるから、そういうルールがあるなら後でベネトナシュに聞いておかないとだな。


「バルムンクさん。対立派閥だからと暗殺や嫌がらせを容認しちゃうと僕たちは24時間刺客を警戒しなきゃいけなくなっちゃうからね。それにそんな足の引っ張り合いをしてたら当然だけど国自体が弱くなっちゃう。まぁつまり貴族協定っていうのは、そういう諸々のことをやめましょうっていう紳士協定みたいなものですよ」


 俺たちが無知を晒していたら前に座ってた同年代くらいの男が教えてくれた。たしかパーティでも挨拶をしたな。同い年くらいの人は少なかったから覚えている。ランカスター公爵家の長男……だったかな? 俺たちに対しての態度で分かるように貴族派ではない。


「なるほど。そんなルールがあったんだな」


「貴族ってルールだったり派閥だったり暗黙の了解みたいなものが多くて大変ですよね。頑張ってください」


「あぁ、ありがとう」


 しかしその協定の話を聞いてからだと、また見方が変わるな。貴族たちが暗殺や謀殺を昔からタブー視しているのは分かったが、それでも多分俺が思っている以上にそれらの行為を忌避しているんだろう。


 アルガルド公爵は死刑か、それとも減刑か、議論が進む中でまた1人男が手を挙げた。その人物がどういう人物か俺は知らないが、周りの貴族たちがなんだか騒ついていた。


「あれはリベラル派の」

「死刑よりも重い罪を提案する気か?」

「いや、この機会に貴族派を徹底的に叩くつもりならあり得るぞ」


 何この人そんなやべぇやつなの? というか、死刑よりも重い罪って何だよ。その親族まで処刑とかか?


「ポルカ伯爵は元々は貴族ではなく伯爵令嬢の執事だったんですけど、その御令嬢と結婚して伯爵になった異色の経歴の持ち主なんですよ」


 へぇ、政略結婚じゃなくて恋愛結婚。しかも平民と貴族の身分違いの恋ってやつだろ? それはなんかドラマがありそうだな。その伯爵は何を語るんだろうな。


「私事で申し訳ありませんが、少し私の話を聞いていただけますでしょうか。みなさん知っておられます通り、私はもともと貴族ではありません。前当主にお仕える15歳までは、アルガルド公爵領に住んでおりました」


 良いとこの御令嬢の使用人をしていたというだけあって聞き心地の良い声をしている。話術が優れているとかそういうわけでもないのに、続きが気になるというか。


「さて、みなさんは今からちょうど25年ほど前、異常気象によって帝国全域で未曾有の大飢饉が発生したのを覚えていますでしょうか。当時はまだ私も子供だったので、それがどれほどの被害を出していたのかなんて理解できませんでしたが、父と母が公爵様のおかげでご飯が食べられると口にしていたのは良く覚えております」


 訂正、話術もすごかった。淡々と話をしているのに引き込まれてしまう。まるで講談を聴いているみたいだ。


「伯爵家に仕えて資料を読める立場になりましたので、当時のことを調べてみたことがあるのですが、そこで興味深いデータを発見しました。アルガルド公爵領の餓死者は、他の領地のに比べて圧倒的に少なかったのです。その理由は、公爵が早い段階で領庫を開放し、さらに私財を投じて王国や聖国といった近隣諸国をはじめ、遠国までアイテムボックス持ちの冒険者を派遣して食糧をかき集めて領民に配給したからです。私が今こうして生きているのもアルガルド公爵のおかげと言っても過言ではないでしょう。公爵は貴族協定を破り6名もの命を奪いましたが、それ以上に数万の領民の命を救っております。公爵がこれまで帝国に寄与した功績は計り知れず、その功績は減刑に足るものと私は考えます」


 ポルカ伯爵とやらの話に思うところがあったのか、ヴァレンスは指を顎に当てて思案するような態度を見せた。


「ポルカ伯爵の主張は分かった。たしかに公爵は先帝の代から実に50年以上、帝国のために命を尽くしてくれた。『貴族(ノブレス・)の矜持(オブ・リージュ)』を体現したまさに真の貴族であり、真の忠臣たる彼を死刑にするのは心苦しい。感情で判決を歪ませるのは暗愚だと謗る者もいるだろうが、この国の皇帝として無辜なる帝国民を救った功績には報いる必要がある。よって、リヴァル・アルガルドは終身刑とする! これは詔勅である!」


 ヴァレンスは、この判決は上意だと宣言した。なので、これ以上の議論の余地はなく、アルガルド公爵の終身刑があっさりと決まった。

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