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第114話 sideアロエ 支援職?

 ダミアン先輩の用件はそれだけだったみたいで、「あんまり俺と喋ってると目立つだろ」とアレン君とフォルクス君のところに戻るように言ってくれました。


「なぁ……あれってダミアン先輩だよな? お前ダミアン先輩と面識あったのか?」


「いえ、ダミアン先輩とは初対面ですね」


「いやいやおかしいだろ! ダミアン先輩といえば現騎士団副団長ドルフさんの弟で、入学以来剣術の成績では常にトップ。騎士団からのオファーは間違いないと言われているんだぞ!?」


 まぁどう見ても学生レベルを超えてますしそのくらいはやるでしょう。この中でダミアン先輩にまともに張り合えるのはチャチャさんくらいですか。私はステータス差が無かったら勝てないですね。これでも騎士団の訓練に参加させてもらって多少技術は身についてきましたけど、やはり昔から齧っている人と比べれば付け焼き刃みたいなものですからね。チャチャさんやダミアン先輩から学ばせてもらいましょう。


 そんなことを考えているうちにどうやら担当の先生が来たみたいです。


「……って、えぇっ!?」


 そこにいたのは私がよく知る人でした。先輩たちも担当の先生については知らなかったみたいで騒然としてます。


「今年から剣術指導の担当になった、サクラ・カミイズミだ」


「マジか、本物……!?」

「でもサクラ団長って剣じゃなくて刀使ってなかったっけ?」

「たしかに……剣を使ってるイメージはないな」


 使う武器まで全員に知られているだなんて。流石、武闘会を2度制した実績は伊達じゃないということですね。けどサクラさん、いえ()()は刀だけでなく剣の腕も間違いないです。


「そう君たちが懸念するのも分かる。たしかに私自身は主に居合術を用いた戦闘スタイルだが、剣術がからっきしというわけではない。なにせここ3年ほどは私が団員たちに指導をしていたからな。剣と刀、得物が変わっても対人戦闘における基礎的な技術は大きくは変わらない。私個人としては君たちには剣だけではなく色々な武器に触れてもらいたいと思っている。本気で騎士団を目指しているやつには特にな」


 騎士団の仕事はもっぱら対人戦ですからね。様々な武器に対して経験値を高めておくのは入団前の準備段階として最適でしょう。流石は師匠ですね。


「ちょっといいっすか。俺たち貴族はこれでもガキん時から武闘会の出場者の剣術指導を受けてきてるんすよ? それこそ経験値だけで言ったら3年目の騎士にだって負けない自信がある」


「今更他の武器を触るなんて時間の無駄的な? そういうのは俺っちたちの剣を見てからにしてほしいっしょ」


 は? うざいんですけど。実戦経験もないイキリ貴族が、何を偉そうにいちゃもん付けてくれてんだ。お前らみたいなのはなんでこうも自己評価だけは高いのかな? 


「知ってる……? こういうやつが初陣で何も出来ないって……ふふっ……ふふふ……舐めた口を……」


「アロエさん、目が怖いよ?」


「いや口もだろ!? 耳腐ってんのか!?」


 おっと……いけません。つい本音が漏れてしまいました。師匠、そんなやつらの言うこと聞く必要ありませんからね! いつもみたいにやっちゃってください!


「剣を見ろか。たしかに君たちが言いたいことも分かる。新人たちの中には君たちみたいに血の気が多いやつも多いからな」


 師匠〜……分かっちゃだめなんですって……。師匠はそういう新人たちを完膚なきまでに叩きのめしてたじゃないですか! なんでいつもみたいにやらないんですか!


「とはいえだ、私と君たちでは実力差がありすぎる。入団後ならまだしも入団前の学生の君たちを本気で叩きのめす趣味は私にはない。そうだな……誰かと模擬戦をするのはどうだろう。なるべく手の内を知らない者の方がいい。誰か立候補者は──」


「はい!」


 はい! はいはいはいはい!!! 私やります! 


「ちょっ……!」


「お前、専門外って言ってただろ!」


 専門外だけどさぁ……別にステータスで叩きのめすくらいはできますよ? これでもお兄様と地獄のダンジョン周回やってたわけですから、私だってそろそろレベル200です。それにステータスが無くても騎士団で鍛えてもらってます。増長したガキの1人や2人、師匠の代わりに痛めつけてやります……ってなんで師匠は私から目を逸らすんですか!?


「あー、誰かいないか?」


「はいはいはいはいはい!!!!」


 あれ、無視……? それは無理があると思いますよ師匠。見てくださいよこの空気。なんで気付かないフリをしてるの? ってみんなが思ってます。


「…………じゃあ頼む」


「はい、任せてください」


 大船に乗った気持ちでいてください。ふふっ……ふふふ……。


「ダメだ、不安しかない……」



 そんなわけで先輩と模擬戦をすることになりました。


「なに後輩ちゃん。俺っちとやり合おうって、本気で言ってるわけ? これでも俺っち剣術の師匠から学生でこれなら優秀だって褒められてんだけど」


「はい。あ、全然遠慮しないで本気で来ていいですよ。というかむしろ殺すつもりで来てください。じゃないと訓練にならないので」


「は?」


「何を腑抜けた顔を、もしかして騎士団をチャンバラごっこの延長か何かと勘違いしてるんですか? あぁ、じゃないと3年目の騎士より強いだなんてそんな思い上がりな発言はできませんよね。そもそも先輩そんな強そうに見えませんし」


 騎士団の皆さんは本気で命のやり取りをしている対人戦のプロです。少なくともちょっと優秀な程度の学生が相手になるレベルではないんですよ。まぁ、ダミアン先輩みたいに飛び抜けて優秀なら話は別ですが……。


「はぁ!? 俺っちの何を見て──」


「体幹です。先輩の場合は重心が左足により過ぎなんですよ。先ほどお話ししたときもそうでしたから日常生活から染みついた癖でしょうね」


「たったそれだけのことで!」


「それだけで充分なんですよ。そんな弱点晒してる時点で不合格です」


 だから学生の割には優秀だって程度にしか評価されないんですよ。片足重心なんて、相手がいることを想定していたら普通できないでしょう。それに相手がご丁寧に剣だけで戦ってくれるとでも思ってるんですか? ほら、指摘されたばかりだと言うのに右足が隙だらけです。


「『サンダーボルト』」


「いってぇ……! 魔法を使ってくるなんて卑怯っしょ!?」


 卑怯? 咄嗟に右足に飛んできた攻撃を避けられないでしょうと忠告してあげただけなのですが。


「ちょっとセンセー!? あれは騎士道精神としてどうなんって話っしょ?」


「それが対人戦というものだ。むしろ相手が飛び道具や暗器を用いる可能性まで考慮して然るべきだろう。てっきりそれを踏まえた上で君の剣術を見せてくれると思っていたのだが」


 ほんと、騎士道精神を道徳か何かだと思っているのでしょうか。まぁ忠義を尽くすべき主君に対して忠義を尽くすという一部道徳心を説いているところがあるのは間違いないですが、少なくとも正々堂々とかそんな綺麗事を言っているわけではないです。


「どうしたんですか? 来ないなら私は魔法で攻撃し続けますよ?」


「くそっ……! うぉぉぉぉおおお!!!」


 あ、どうやらこれは本気で殺しにきてますね。このまま普通に剣で受けても良いのですが……レベルの差があるとはいえ支援職の『アイドル』と攻撃特化の『剣豪』、今の状態だと攻撃のステータスはどっこいどっこいなので普通に押し負ける可能性があります。


 そう、あくまで今のままでは……。


「民衆の胸に刻まれるは戦士たちの鬨の声。誇り、生き様、全てを賭して戦った勇敢なる戦士を讃えよ『闘いの唱』」


『吟遊詩人』の歌スキルでステータスにバフをかけます。ちなみにですが『アイドル』には歌スキルと踊りスキルの成功率と効果値を上昇させるという職業特性があります。こうなったら攻撃のステータスですらもはや大差がついているわけで……


「ぬるいです」


「なにっ!?」


 両手で振り下ろした剣を片手でも悠々と弾き返せます。パワー負けした先輩は弾いた衝撃で3歩ほどよろけるようにして後退りました。言いましたよね、体幹が弱いって。たったこれしきのことで隙を見せるなんて話になりませんよ。


 私はアイテムボックスから訓練用の木剣を取り出してもう一本の手に装備します。いわゆる二刀流スタイルですね。


「『ソードダンス』」


「ぐおぉぉ!!!」


 二刀流の時にだけ使用できる踊り子の踊りスキルを使い追撃します。乱舞のような攻撃は1撃1撃ごとに威力を増します。私は先輩自身を狙うのではなく、防御のため……というよりもなんとかなれとただ前に出された剣を目掛けて攻撃していました。先輩には既に押し返そうという気概はなく、どんどんどんどん後退していきます。


「体幹が弱いです……よ!」


 そして6度目の接触の時、先輩の剣は根元のあたりで綺麗に割れ、その剣身はクルクルと回転しながら放物線を描いていきました。


「終わりですね」


「あ……ああ……あ……」


 先輩は柄だけになった剣を見つめながら尻餅をつくようにしてへたり込みます。完全に戦意を喪失していますね。


「誰がここまでやれと……まぁいい。相手を見た目だけで判断すると痛い目を見るというのは分かっただろう。これが実戦じゃなくて良かったな」


 全くもってその通りです。師匠は痛い目と言葉を選んでいますけど実際は死ですからね。世の中には子供の犯罪者だっていますし、その子供に出し抜かれたら相手が子供だから油断していたなんて言うんでしょうか。


「フォルクス君は油断しちゃダメですからね」


「はい……なんか調子乗ってすみませんでした」


 フォルクス君はしおらしくなったかと思えば「誰か10分前の俺に早まるなと言ってくれぇ!」と悶えていました。でもアレン君が「僕は君のおかげで助かったよ」とフォルクス君を憐れむような目をしていたのは何故なんでしょうか。

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