第111話 達成報告
帝都に帰ってまず俺たちはギルドに向かった。俺たちが依頼を受けてから1週間と少ししか経っていないのでギルドマスターのユキカゼは「出発の準備が出来たんか? 挨拶に来るなんて殊勝な心掛けやな」と何やら見当違いなことを言ってきた。とりあえずその勘違いを訂正してやる。
「いや、もう行って帰ってきた」
「ん? サウザー山脈までどう見積もっても片道7日はかかるやろ。いくらウチが出不精でもそんなことくらいは分かるで」
その計算は間違ってないけど俺たちの場合は帰りは一瞬だからな。これでもゆっくりしたくらいだ。まぁテレポート無しでも強行軍で行けば2週間以内いけなくはないだろうけど。
「まぁいいや、とりあえず持ってきたモンスターを見てくれないか?」
「……ほんなら解体場でええか?」
ユキカゼは俺たちがサウザー山脈まで往復してきたというのを信じていないみたいだ。あんま期待できそうにないなぁと顔に書いてあった。
解体場には他の冒険者たちの姿もちらほらと見受けられた。帝国最大のギルドということもあってSランクや Aランクの素材を持ち込んでいる冒険者もいた。ここで一つモンスターのランクについてだが、ギルドではモンスター1体1体をSランクのモンスターやAランクのモンスターという風に区別している。その区別の方法は鑑定したときに表示される素材のレア度によって決められている。
レア度1の素材になるモンスターはFランク、レア度2はEランクと順々に上がっていって、レア度7以上は全てSランクといった感じだ。
ギルドには査定を専門にしている鑑定士がいるのだが、俺たちが行った時には鑑定士の男はちょうど他のパーティの査定をしているところだった。
「うぉ、マンティコアだ」
「すげぇ、レア度10のSランクモンスター。俺も倒してみてえなぁ」
「やめとけやめとけ。お前じゃ命が100個あっても足りねえよ」
Sランクのパーティが新人と思しき若い冒険者たちから羨望の眼差しを受けている。査定が終わったタイミングでユキカゼは鑑定士の男に声をかけにいった。
「ブラッドはん。ちょっとええか?」
「ギルマス、なんだサボりか?」
ブラッドと呼ばれた男はユキカゼに仕事しろよと注意する。それに対して「今日は違うわ!」と突っ込んでいるあたりいつもはサボっているらしい。
「これも指名依頼の一環や。次この子らの持ってきた素材を見てくれんか?」
ユキカゼは次に並んでいたパーティに「ごめんなぁ」と一方的に断りを入れる。ギルドマスターにそんなこと言われたら「あ、うっす」としか言えないみたいで快く譲ってくれた。まぁそのせいで「ギルドマスターから指名依頼を受けているって何者なんだ?」と目立ってしまっているが。
「ギルマスが目をかけてる冒険者か。仕事柄帝都にいるSランクの顔と名前は全部覚えているつもりだったんだがな」
「『装備壊し』って言えば分かるやろ?」
「へぇ〜、こいつが一時期話題になったあの?」
あ、もう俺に対する認識ってギルドの職員の間ではそれなのか。まさかこんな定着しているとは思わなかった。
「俺はブラッドってんだ。あんたたちのことは噂には聞いてるぜ。といっても、全然解体場に来ないから都市伝説か何かだと思ってたけどな」
まぁ俺たちはそこまで冒険者ギルドを利用してなかったからな。ダンジョンでレベル上げはしてたけど素材なんてガン無視だったし。
「ほな、早速始めよか」
「分かった。とりあえずモンスターのランクとか気にしないで適当に次々出していくぞ」
とりあえず手始めにアイテムボックスからポイズンサーペント、アラクネクィーン、マンティスリーパーと取り出していく。
「ちょ、ちょ、ちょい待ちぃ! あんた一体どんだけ持ってきたんや!? というかなんやこの馬鹿みたいなアイテムボックスの容量は!?」
何故かユキカゼから静止の声がかかるが、まだまだ序の口なのにこんなテンポで止められてたら日が暮れてしまう。
「まだまだあるから次に行くぞ。千変万化の棺桶……」
「こいつぁ知らないモンスターだな……ってなんだこいつ、レア度20!?」
帝都ダンジョンの60階層に出てくるお面を被った棺桶型のモンスターだ。ブラッドのレア度20発言に周りで野次馬をしていた冒険者たちが一層ざわついた。
「マジかよ……レア度20なんて聞いたこともねぇよ」
「マンティコアの2倍か……もしかして歴代最高のレア度じゃないか?」
別にマンティコアの2倍だからといって強さも2倍というわけではないのだが、まぁそんなことは言ったところでだろう。そんな冒険者らの呟きを訂正したのはブラッドだった。
「いや、最近王国の方でストゥルムウスというレア度24のモンスターが搬入されている。だから歴代最高ってことはない」
「ストゥルムウスならこいつだな」
やはり飛竜は存在感がある。観衆から「おぉっ……!」と感嘆の声があがった。
「こんなんどこにおったんや……」
「噂には聞いたったけど〜」とユキカゼがストゥルムウスの死体を検分する。
「サウザー山脈を構成しているヘルヘイムという山の山頂付近だ。ちなみにヘルヘイムにはヘルヘイムドラゴンといういわゆるヌシみたいなドラゴンがいたんだが」
「ヘルヘイムドラゴン!? 聞いたことあるで、どこかの幸運な冒険者が脱皮した時の鱗を持ち帰って装備を作ったって話。ほんまにおるんか!」
「今はもういない。倒したからな」
「な、な、な、なんやこれぇぇぇぇ!!!」
さっきまで存在感を放っていたストゥルムウスが霞むほどのインパクト。一回りどころか二回りも三回りも大きく、その威圧感に腰を抜かす冒険者もいた。
「レア度37……ははっ……化け物かよ」
「なんやねんそのアホみたいな数字……というか人が戦って勝てるんか?」
レア度37か。流石はクーコが勧めてくるだけのことはあるな。
「ちなみにこれは売ったらいくらくらいになるんだ?」
「いくらって……こんな前代未聞なもんに具体的な相場なんてもんはないわ。せやからこういう場合はギルドでは3割増の法則を使って計算するんやけど……」
「3割増の法則?」
「レア度が1上がるごとに相場は1.3倍変わるとする計算方法だ。ストゥルムウスのレア度が24だから……ざっと計算してストゥルムウスのおよそ30倍が目安の値段になるな」
マジかよ。ストゥルムウスの現在の相場はわからないが少なくとも10億ゴールドくらいはしたはずだ。30倍ってことは300億……?
「で、帝国議会の金を抜くのにいくら必要なんだっけ?」
「4000億ゴールドですね」
「解散!」
無理無理無理! なんだよ4000億って頭悪すぎだろ! そもそもヘルヘイムドラゴンがストゥルムウスの30倍ってところも納得できないわ。あれはそんな次元じゃなかっただろ。
「ちょい待ちぃ! これはあくまで3割り増しの場合や! ウチも素人やなくてギルドマスターやからな、レア度が1上がったら敵の強さが1.3倍、だから相場も1.3倍なんて、そんな単純やないことぐらい分かっとる!」
「というと?」
いやそんなこと言ってもねえ……。4000億だよ? こんなんちょっとおまけしてどうこうなる次元じゃないから。
「レア度1ごとに1.3倍のところをちょっと上乗せして1.5倍や。ウチのこれまでの経験上そのくらいの価値があってもおかしくないはずや」
「1.5倍って倍率がちょっと変わっただけじゃないか?」
「そうだよ。そんなんでどうなるのさ!」
ミーナとフィーが不満を垂れるけどちょっと待てよ? これってつまり1.3の13乗が1.5の13乗になったってことだろ? それってどれくらい変わるんだ?
「200倍や……! 帝国軍部には2000億ゴールドふっかけてみせたる」
「な、な、な、なんだその馬鹿げた数字は?」
「1.3が1.5になっただけだよね!?」
マジかよ指数関数ってすげぇな。正直舐めてたわ。やっぱ13乗もするとそれだけ差が出るんだな。
で、あと2000億どうすんの?




