表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/168

第110話 魔力回復薬

 ヘルヘイムドラゴンとストゥルムウスの素材を回収しつつ魔力回復薬をがぶ飲みする。これが不味いんだわ。ケールというか草というか、ようは青汁みたいな味だ。それも人が飲みやすいように調整されていない味がする。ちなみに同じく魔力欠乏状態のトワはというと飲んでいない。まぁ俺さえ回復すればテレポートで帰れるからな。


「回収が終わったぞ」


「あれ? もう?」


 魔力回復薬のえぐみと闘っている間に終わっていたみたいだ。まだテレポートが使えるほど回復してないからちょっと待って欲しいんだけど。とりあえずこのまま自然回復するの待ってちゃダメかな? ダメだよなぁ……仕方がないのでアイテムボックスから魔力回復薬をもう一本取り出した。取り出しただけで飲むとは言っていない。


「テンマ、そんな食い入るように魔力回復薬を見つめてどうした?」


「1本飲めたんだから2本目もいけるって!」


 お前ら他人事だと思って酷くない? そんな帰納法みたいな話じゃないから。1本は飲んだんだから許してくれよ。もうこれ飲みたくねえよ。


「……」


「テンマ様……」


 なんだその目は……俺が飲むまでテコでも動かないって目をしてる。飲むしかないのか。


「やっぱ不味いなぁこれ……」


「まぁこればかりはな」


 魔力回復薬は不味いというのが常識とはいえ不味すぎだろ。テレポートとか頻用するのはわかってるから美味しい魔力回復薬とか作れるなら作りたいな。


「じゃあ帰るか」


 テレポート先はクーコの屋敷でいいだろう。これでテレポートしたらまた魔力切れになるけどもう魔力回復薬は飲まねぇからな。そういえばスタンピードは大丈夫だったのだろうか。大丈夫じゃなかったらその時は加勢しないとだから飲まないとな。




 テレポートでクーコの屋敷に戻る。今更だけどダイナミック不法侵入だな。村の外にすれば良かった。


「外は静かですね。戦闘をしている感じではなさそうですが……」


 スタンピードはどうなったんだろうか。まぁそんな村の中で戦ってるなんてことはないだろうし、とりあえず様子を見に行くか。俺たちが外に出てまず目にしたのは広場に積み上がった大量のモンスターの亡骸だった。


「これは……」

「はぇ〜……すっごい」


 俺たちがヘルヘイムドラゴンの戦い始めてからそんなに時間は経っていないはずなんだが……。そこにはモンスターの素材を収集する妖狐族とそれを指揮するミツキの姿もあった。


「解体組は引き続き作業を続行。回収組、ドロップアイテムの回収も忘れないように!」


「「はっ!」


 まるで軍隊だな。戦闘というよりその事後処理に奔走しているという感じか。


「なんだ、主殿か。随分と早かったんだな」


 俺たちが帰ってきたことに気付くとミツキは作業の手を止めてこちらへとやってくる。遅すぎるよりはいいだろ。たった1時間程度でこんなモンスターの山が積み上がってるんだから。その積み上げられたモンスターの山にはBランクのアグリーベアやワイルドボアの姿もあった。それも1体や2体ではなく数十体と。


「妖狐族強くね?」


 それに対して妖狐族の方には大した負傷者もいないように見える。統率も取れているみたいだし、運だけじゃないことは明らかだ。こういうのを完勝というんだろうな。


「まぁほとんどタマモ様お一人でやったんだがな」


 違ったわ。1人化け物がいただけだったわ。そりゃそうか。Bランク程度のモンスターがいくら束になったところでクーコが止まるとは思えないし。実際自分たちに置き換えてみればなんとなく分かる。そのクーコはどこにと思ったらちょうど村の外から帰ってくるのが見えた。


「おお主様。やはり帰ってきておったか。モンスターの勢いが落ちてきたからそうじゃと思ったわ」


 そう言うとクーコはアイテムボックスからモンスターをぽいぽいと放り出す。こっちはアグリーベアやワイルドボアではなく、ポイズンサーペントやアラクネクィーンなど冒険者ギルドでいわゆるSランクと称されるモンスターばかりであった。


「タマモ様。これらのモンスターは従来のスタンピードには見られなかったはずですが……まさか何らかの非常事態が?」


「ん? なんか素材が必要とか言っとったじゃろ? そのあたりから適当に見繕ってきたんじゃが?」


「え? 素材ですか?」


 ミツキのそんなわざわざスタンピードの最中に狩りに行かなくても……という心情が言外に伝わってきた。しかしクーコはミツキのその態度にわざとらしく呆れて見せた。


「何を言っとるんじゃ。これはミツキのためでもあるんじゃぞ? どうせお主のことじゃから失念しているんじゃろうが、輿入れするなら土産の一つでも用意するのは常識じゃろう?」


「うっ……!」


「嘆かわしい……。結婚を夢見ていた昔のお主なら忘れていなかったじゃろうが、月日の流れというのは残酷じゃな」


 ミツキが、「私がタマモ様に常識を説かれた……?」とショックを受けていた。その様子を見たクーコが更に勝ち誇ったような笑みを浮かべていたけど、いやどこの世界にモンスターを土産に持参する嫁がいるんだよ。


「そういうわけじゃから主様、遠慮せず受け取るのじゃ」


「助かるよ」


 まぁありがたく受け取るんですけどね。こんなんいくらあってもいいからな。これだけあれば帝都ギルドに要求された水準も達しているんじゃないか?


「さて、あとはヘルヘイムの掌握じゃが、これには数日はかかるじゃろう。そういうわけじゃから主様、ワシはゴタゴタが落ち着き次第そちらに向かうのじゃ」


 そういえば山のヌシみたいなポジションになるって言ってたな。その間に俺たちも俺たちのゴタゴタを片付けるか。


「ではテンマ様。これを」


「ん? トワさん? 何故今これを?」


 そう言われてトワから差し出されたのは魔力回復薬。なんでぇ!?


「テレポートには魔力が足りないと思いまして」


「鬼だな」

「うん、たまにだけどトワって人の心ないよね」


 なんというか合理的すぎるんだよな。休憩したら回復するんだから待ってくれればいいじゃん。そんな俺たちのやりとりをクーコとミツキが首を傾げて見ていた。


「主殿、それは何だ?」


「え? 何って魔力回復薬だけど?」


 もしかして知らないのだろうか。妖狐族は物理よりも魔法を頻用しているみたいだから知ってたら使ってそうだな。


「主様、これを飲むのじゃ」


 今度はクーコに何か容器に入ったポーション? を渡される。澄んだ青色をした液体だが……とりあえず鑑定をしてみる。


【魔力回復薬(特級)】


 魔力回復薬じゃねぇか! お前ふざけんなよ! 危うく見た目に騙されるところだったわ。


「まぁまぁ、ここは騙されたと思って飲んでみるがよい」


「まぁそこまで言うなら……」


 けどこれで不味かったらもう信頼が地どころか地獄まで堕ちるからな。2度と勧められたものを最初に食べないまである。いや、そんな器量の狭い男にはなりたくないな。ちゃんと食べるぞ。


「なんだかんだテンマは毒を勧められても飲みそうだな」

「テンマ君、惜しい人を亡くしたよ」

「まったく、残された側の気持ちも考えていただきたいものです」


 勝手に殺すな。まだ飲んでないし毒を勧められて飲むわけないだろ。たしかに魔力回復薬は毒みたいな味するけど、いや実際に毒を飲んだことないから味なんてわかんないけど。


「飲むぞ」


 ミーナたちが見守る中、俺は意を決して魔力回復薬を飲んだ。もうそれこそヘドロの味のような最悪の味を想定しておいて飲んだ。ヘドロ飲んだことないけど。まぁ期待しなきゃだいたい美味しく感じるだろ。それを下回ったら知らん。


「ん……!? なんだこれ美味いぞ!?」


 決死の覚悟で臨んだけどそんな覚悟は必要無かった。毒やヘドロと比較してじゃなく普通に美味しいぞこれ。表現するのに1番近いのはスポーツ飲料みたいな味だ。しかも魔力(MP)がいつもの草100パーセント魔力回復薬の3倍近く回復している。なんならほぼ全回復だ。


「どうじゃ? これが本当の魔力回復薬じゃ」


「すげぇよ。マジで今まで飲んでたあれは何だったんだ」


「それは素人がその辺の薬草を適当に混ぜただけの低級ポーションじゃな。『学者』のスキル『調合術』を用いれば中級ポーション。上級職の『研究者』になると『調合術・改』にグレードアップし上級ポーションが作れるようになる」


 学者かぁ。そういえばアロエを学校に連れて行った時にそんな職業を見たな。どうやったら解放されるのか条件がいまいち分かってないやつだ。


「学者ですか……。そういえばわたしの職業一覧にもいつでしたか追加されていましたね」


 えっ!? その情報初耳なんだけど!? 


「学者の解放条件は1000人から知に秀でていると認められることじゃ」


 開放条件が特殊すぎる! なんならクーコはなんで分かった? 


「まぁこれは後から天眼で調べて分かったことじゃがな。ちなみに上級職の研究者にクラスアップするには1万人。更に最上級職の賢者になるには10万人必要じゃ」


 10万人か。そもそも10万人から認知されるのが無理なんだけど。流石にこれはちょっと諦めるしかなさそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ