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第109話 ヘルヘイムドラゴン

 ヘルヘイムドラゴンを討伐しに行く前に、クーコはスタンピードが発生する可能性についての話をするために村の人を広場に集めた。スタンピードの対応にはクーコにミツキ、それに戦闘能力の高い妖狐族が当たるという話と、今日は村から出ずに集会所に避難するようにという指示が出た。スタンピードの話を伝聞でしか知らない者はやはり不安そうだが、それでもクーコの信頼は厚く反対の意見はでなかった。


 村人たちが続々と集会所に避難していく中で、1人の女の子がある妖狐の前に出ていった。あれは昨日の女の子と四尾だ。


「ねぇ、コンちゃんも戦うの?」


「くぅ」


「そっか……無事に帰ってきてね」


 そう言ってが女の子が四尾に抱きついた途端、白い光が四尾の身体を包んだ。するとキツネのシルエットをしていた光の像はに次第に大きくなりながら人の形へと変化していった。


「ふぇ……? ふぇぇぇぇ!!!!????」


 身長150センチ程度の女の子に対して170センチくらいにまで成長した四尾。しかも四尾は少女のような顔つきではなく、少なくとも女子大生か新社会人くらいの風貌をしている。急にお姉さんになってしまった四尾に女の子は動揺を隠せず情けない声を出して叫んでいた。


「こりゃめでたい。五尾に進化したか」


 クーコの言葉で気付いた。たしかに尻尾の数が増えている。


「コンちゃん……?」


「ねぇルゥちゃん、いつものを頼んでもいい?」


「え?」


 何のことか分からないと当惑する女の子に対して寂しそうな表情を浮かべる四尾、もとい五尾。


「いつもはルゥちゃんからキスしてくれるのに、今日はしてくれないの?」


「き、き、き、キス!? だめだよ! ちゅーは好きな人としないと!」


「なら問題ないわね」


「んんんぅ〜!!!」


 五尾はルゥと呼ばれた女の子の顎をクイッと持ちあげると流れるようにしてキスをした。身長差があるとはいえ咄嗟にそんなやり方するか? このキツネ、さてはイケメンか? 


「ま、まっへぇ……おくひのにゃか……にゃめないでぇ……」


 そのまま舌を絡めるディープなキスに移行する。周囲に人がいようがお構いなしといやらしい水音をたてながら2人の世界に浸っている。2人の世界というか五尾1人が暴走してるだけか。ディープキスが終わると半開きになったルゥの口から艶めかしい唾液が糸を引いて垂れた。


「コンよ。魔力供給が済んだならルゥを離してやれ」


「はっ……! ごめんねルゥちゃん! いつもの調子で吸っちゃった!」


 クーコの言葉で五尾はルゥがあられもない状態になっていることにようやく気がついた。改めてアロエを連れて来なくてよかった。


「コンよ。進化したのは喜ばしいことじゃが、あまりルゥに無理をさせてやるなよ? 特にお主らは相性が良すぎるみたいじゃからな。お主はルゥを集会所まで連れて行ってから合流せい」


「はーい」


 そういうと五尾はルゥをお姫様抱っこして集会所の方へと歩いて行った。あの子たちまた一悶着ありそうなんだけどほっといていいの?


「若いのぉ」


 クーコはそう言うと五尾が向かった方とは逆の村の外へと行ってしまった。


「では、健闘を祈る」


 ミツキも持ち場へと向かうみたいだ。まぁうん、いいならいいんだよ。さて、俺たちもヘルヘイムドラゴンを倒しに行くか。


 ヘルヘイムドラゴンは俺たちがクーコに案内された山とはまた別の山の山頂付近を根城にしている。まぁここまで山々が集合している地域どこが山と山の境界なのかもわからないのだが。高度3000メートルまで来てようやく山頂が見えてきた。ここまで来ると道中のモンスターのレベルも随分と上がっている。


「『ストゥルムウス』だ」


 こいつもポイズンサーペントと同じで王都のダンジョンで見かけたモンスターだ。ポイズンサーペントが51階層、ストゥルムウスは63階層。王都のダンジョンの63階層なんてつい先日初めて攻略されたばかりだからな。この辺り一帯が未踏破領域なんて呼ばれるわけだ。


「気付かれてるね〜」


 ストゥルムウスは臨戦態勢を取ると周囲に風のバリアを纏う。ストゥルムウスの強いところは空を飛んでいるため近接武器が圧倒的に不利というのは言うまでもなく、更にこの風のバリアのせいで威力の低い遠距離攻撃が無効化されてしまうというところだ。


 ストゥルムウスの装備には『制風』というスキルがデフォルトでついていて被ダメージが1割以下の攻撃なら完全に無効化することができるらしい。


 ストゥルムウスの素材なら帝国に高値で売りつけることが出来ると思うからこいつも持っていこう。


「トワ、火属性頼む」


「はい。『ヘルファイアー』」


 トワはストゥルムウスを発見した時点でいつでも魔法を使える準備をしていたみたいだ。ヘルファイアーは暗黒魔道士の『万物の根源(アルケー)』によってストックした火の『アルケー』を2つ消費して使う魔法だ。消費MPは黒魔道士で習得できる『メガファイアー』の15に対して150と10倍だが、その威力は10倍以上なのでコストパフォーマンスに優れている。


「グギャアアアアア!!!」


 ストゥルムウスは一瞬で勝機がないことを悟ったのか、悲鳴のような声をあげると背を向けて逃げ出そうとする。


「逃がさん! 『天堕』!」


 ミーナの追撃は飛び立とうとしたストゥルムウスの脳天に直撃する。強力な一撃に飛行能力を失ったストゥルムウスは無抵抗に落ちて行った。


「取りに行くか……」


「待って! あれ!」


 俺たちが『飛行』スキルを解除して降りようとした瞬間、山頂付近の洞窟から何かが飛び立ったのが見えた。


「あれが、『ヘルヘイムドラゴン』か!」


 目算でも20メートルほどある巨体が空を飛んでいる。ストゥルムウスが全長4メートルほどなのでサイズ感が圧倒的に違う。一般的に体重の重い鳥って飛ぶことができないはずなんだけどな、あれも『飛行』スキルの恩恵か。つまりそれを支えるための動力があるってことだ。


「とんでもない魔力量だな」


 俺たちの飛行スキルも魔力によって再現できている。ヘルヘイムドラゴンが空を飛んでいるのも魔力によるものだと考えるのが自然だ。


「来るぞ!」


 ヘルヘイムドラゴンは猛スピードで滑空突進を仕掛けてくる。ただの突進もこの巨体ならとんでもない威力だ。


「チッ……!」


 特に空中では踏ん張りがきかない。剣で受け止めようとした俺とミーナは大きく後方に飛ばされた。


「テンマ君!?」


「大丈夫だ」


 ミーナも天空闊歩を用いて上手く受け身を取っている。しかしただの突進だけでこれほどの威力とは……。


「テンマ様、時間を稼いで頂けますか? 『アポカリプス』を使います」


「分かった」


 アポカリプスは暗黒魔道士の魔法である『万物の根源』の中でも全ての属性をストックして放つ最強の複合魔法だ。魔法抵抗力の高いダイヤモンドゴーレムすら一撃で沈めるほどの超火力、レベル差を差し引いても俺たちの中で1番火力が出るだろう。時間を稼ぐのはいいが、別に倒してしまっても構わないだろう。


「『エクスカリバー・レプリカ』」


 俺と相性が良いのは上級天使で使用可能になったこの聖剣製成スキルだ。魔法で製成したレプリカ品とはいえ、一時的に聖剣の能力が使用できる。これによって『剣技』が解放されるので『剣神』のスキルも使えるようになるのだ。


「あんなに動かれると天堕も当てられない」


「私も『狙撃』にはあんまり自信がないなぁ……まぁやるだけやってみるけど……『ならず者の一撃(デスペラード)』」


 フィーはそういうとヘルヘイムドラゴンに向かって6センチほどの魔力弾を放つ。かなり地味な攻撃だが、エネルギーがその大きさまで圧縮されているだけなので威力は申し分ない。それどころか速さと貫通力にも特化しているので流石は『ダークロード』レベル5で習得出来るだけのことはある。最上級職で習得出来るスキルがガラクタなわけがなかった。


 フィーの放った魔力弾はヘルヘイムドラゴンの展開した障壁を破るとそのまま片翼の一部を穿った。ヘルヘイムドラゴンは咆哮をあげたが、どちらかというと痛みではなく怒りのように見えた。


「あんまダメージになってないのかなぁ」


 ヘルヘイムドラゴンの角が紫色に怪しく光っている。怒ると角が光るのだろうか。そんなことを考えていたらゾワっと寒気がした。なんだ……なんか嫌な予感がするな。


 そう思った瞬間、ヘルヘイムドラゴンの角が強く光ると超高速の魔力弾が俺の右腕を吹き飛ばした。


「テンマ様!」


「はっ……!」


 トワの声に意識が呼び戻される。吹き飛ばされたと思った右腕もちゃんと付いている。今のは……? 幻覚か? その直後、ヘルヘイムドラゴンの角が強く光った。


「ふっ……!」


 右腕だ。理解する前に身体が動いていた。右腕を庇うように剣を振るとそこに何かを斬った手応えを感じた。そうか、さっきのは『看破』スキルが見せたイメージだったのか。


「っていうか、さっきの『ならず者の一撃(デスペラード)』だよな?」


 仮にもドラゴンの名を冠する生物が超高速の魔力弾なんて地味な攻撃してくるか普通。もっと炎のブレスとかだろ。


「まさか、フィーのスキルをコピーしたのか?」


 一度受けたスキルをコピーする能力があるのか。そんな相手にアポカリプスを撃っても大丈夫なのか? しかし『デスペラード』を撃たれ続けるのも面倒か。さっきは俺に来たから良かったが、ミーナとフィーが標的になった時に確実に守れるとは言い切れない。


「テンマ様、どうしますか?」


 トワもそれを理解しているからかストック状態で待機している。短期戦か、それとも長期戦か、悩ましいところだが……。


「トワ。頼む」


 俺が選択したのは短期戦だ。純白魔道士がいない今の状態で長期戦はやはり厳しいと思ったからだ。万が一にもミーナやフィーが大怪我をしたら嫌だからというのもある。


「いきます。『アポカリプス』」


 全ての色を混ぜ合わせたら黒になる、なんてことを思い出した。さて、この一撃で決まれば話は早いんだけどな。まぁそんな上手く行くはずもなく、禍々しい黒色光線を前にヘルヘイムドラゴンの角が光った。


 アポカリプスが来るか!? そう身構えたがヘルヘイムドラゴンから放たれたのは強大な炎のブレスだった。拮抗しているか、いや、みるみるうちにアポカリプスが炎ブレスを飲み込んでいく。


「グガァァァァァァアアアア!!!!」


 アポカリプスが直撃する。流石は魔法抵抗力の高いダイヤモンドゴーレムを一撃で滅する魔法だ。相殺されたとはいえ良いダメージを与えたみたいだ。


「やったか!?」


 ミーナ、それはこういう場面では使ってはいけないフラグというやつだ。ほらめっちゃ角が今までにないくらい光ってる。ちょっと待て、これヤバいやつじゃね?


 おそらくヘルヘイムドラゴンの中での脅威判定が覆ったのだろう。ヘルヘイムドラゴンはトワに向かってアポカリプスを放った。


「トワ!」


 アポカリプスは強大な魔法だが一気にMPを使用するためその反動がでかい。そもそも反動を抜きにしても防御に回す分なんて残っていない。一度経験済みの俺は分かっていたのですぐ動くことができた。


「『抗魔剣』」


 俺はトワの前に出てアポカリプスを相殺する。しかし『抗魔剣』で相殺できる量は俺の魔力と精神力に限られている。MPがゴリゴリ削られているが、耐えられるか? 多少の、いやかなりのダメージも覚悟しなきゃダメかもな。


「テンマ! もう少し耐えてくれ!」


「!?」


 俺とヘルヘイムドラゴンが膠着状態のところにフリーになったミーナが天堕を構える。ヘルヘイムドラゴンの頭ほどの大きさになるまで練り込んでいる。けどもう俺のMPが尽きるぞ。このペースだと3秒ももたないか。そんな危機迫る状況、どう打開したものかと考えていたらこの場には似つかない歌が聞こえてきた。


「ら〜ら〜ら〜♪」


 当たり前だがこんな状況で呑気に歌を歌っているわけじゃない。スキル『活力の歌』だ。切れかけたMPが多少ではあるが回復する。その多少でも時間が稼げるなら十分だ。


「『天堕』」


 ヘルヘイムドラゴンの頭蓋ほどの大きさにまで溜めたミーナの天堕が炸裂する。脳天を直撃したミーナの一撃はヘルヘイムドラゴンの角を破壊した。


「魔力切れはお互い様だったみたいだな」


 飛行能力を失ったヘルヘイムドラゴンが無抵抗に落ちていく。一瞬ヒヤっとしたけど、まぁなんとかなったな。


【称号『ドラゴンスレイヤー』を獲得しました】


 お、新しい称号も手に入った。ってことは完全にヘルヘイムドラゴンは力尽きたってことか。分かりやすくて助かるな。

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