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第108話 新加入

 目当ての物が無かったとトワパパに鍵を返したところ、何を勘違いしたのかトワパパは「トワのお眼鏡に叶う品は無かったか」とどこか残念そうな顔をしていた。まぁ今回はあったらダメだったんだけどね。そんなことを言っても何言ってんだコイツってなるだけだから言わないけど。


 ちなみにトワパパは「今日は泊まっていくのか?」とワクワクしていたがトワは「無いとは思いますが、万が一があるかもしれないので」とバッサリ断った。まぁ処刑されかけてたのもほんの数ヶ月前の話だからな。それを持ち出されてしまっては仕方がないとトワパパがガックリと落ち込んでいた。

 同時に「ユリウスとヴォルフガングは余計なことを……クソッ、仕事3000倍だ……!」とも言っていたので明日以降のトワの兄は大変なことになっているだろう。


 まぁそんなこんなやり取りがあったんだけど。


「……マ様……テンマ様……大丈夫ですか?」


「すまん……あまりのキツさに走馬灯が……」


 テレポートで戻ってきたらこれだ。もしかしてまた俺は気絶していたのか?


「良かった、目が覚めたのか」


「テンマ君、大丈夫?」


 あれ? ミーナとフィーがいる。というかここどこだ。いつの間にこんな家の中に来たんだろう。


「なんじゃ、もう起きたんか」


「とんでもない回復力だな」


 クーコとミツキまでいる。というかこの2人はあれだな。キツネ耳と尻尾があるせいでまるで現実感がないな。実は俺キツネって好きなんだよね。犬にも猫にもない魅力があるって言うかさ。クーコでもミツキでもどっちでもいいからもふもふさせてくんねぇかな。


「テンマ殿、何かよからぬことを考えていないか?」


 鋭いって思ったけど別によからぬことは考えてなくね? 犬や猫を見た時だって人によっては触りたいと思うだろう。それの延長線上と考えれば至って正常な思考なはずだ。


「テンマ、セクハラだぞ」


「テンマ君……さっきまで気絶してたんだよ?」


「まだ足りないんですか?」


 何も言ってないのに酷い言いようだ。え? 心の声出てた? トワの発言にミーナとフィーが「「まだ?」」と首を傾げたがそこは深掘りするな。俺も記憶ないから。


「くっくっく、まぁ良いではないか。英雄というものは得てして色を好むものじゃ」


「タマモ様は他人事だと思って……」


「実際他人事じゃからな。まぁ、安心せい。こやつはワシが見てきた人間の中も群を抜いておる。3000年も生きておれば勇者なんて呼ばれる奴が複数人おったが、そんな紛い物とは比べるのも烏滸がましいほどの逸物じゃ。それはミツキも分かっておるじゃろ?」


 なんかとんでもないスケールで俺が頂点みたいになってるんだけど。ミツキも「まぁそれは……」って感じでクーコの言うことを否定しないし、もしかして俺頑張りすぎた?


「勇者って御伽話とかに出てくるあの勇者だよね……?」


「私たちが子供の頃に読み聞かせてもらったあれか?」


 子供の頃のヒーローを紛い物と言われてショックを受ける2人。そんな思い出なんか知らないクーコが「こやつらは何を落ち込んでるんじゃ?」と首を傾げていた。


「じゃあ私たちが子供の頃に聞いた女神の祝福を受けた勇者の話はなんだったの!?」


「なんじゃそれは? 勇者なんぞある程度のレベルとステータスがあれば誰でもなれるんじゃぞ? 実際、過去の勇者には女神の祝福はおろか神格を一つも保有していた者はおらんかった」


「そうですね。私も1000年前の勇者は目にしましたが、正直ポイズンサーペントを倒せるかどうかという程度でしたね」


「ポイズンサーペントならここにいる全員倒せるぞ……?」


 とはいえポイズンサーペントはダンジョンでいうところの51階層のモンスターだからな。状態異常無効装備か状態異常回復スキルでしっかり対策していればレベル200くらいでギリギリ倒せるか。聖剣デュランダルの装備可能レベルが200だったから勇者もそのくらいだった可能性があるな。


「というか、お主らも聖剣を装備して『聖剣スキル』を使用すれば勇者が解放されるはずじゃぞ」


 マジか。ついさっき聖剣手に取ったのに。勇者になるつもりはないけど職業が解放されるなら欲しかったな。まぁいいや、また今度装備させてもらおう。


「あ、そうだ。宝物庫にヘルヘイムドラゴンの装備は無かったぞ」


 気絶してて忘れてたけど当初の目的はそれなんだよな。これでヘルヘイムドラゴンを倒して依頼達成出来る。しかしもう夜も遅いからな。それに俺もまだ本調子じゃないから今日は休んで明日かな。


「僥倖じゃな。もう遅いから今日はここに泊まって明日行ってくると良い」


「ならお言葉に甘えさせてもらおうかな」


 正直言って物凄くありがたい提案だ。それにさりげなく気を遣われた気がする。ここでクーコが『疲れてないか?』と聞いてから『休んでいくか?』と聞くと俺はクーコが気を遣ってくれたと思うだろう。そう思わせないようにその工程をすっ飛ばして最初から『休んでいけ』と言ったんじゃないかな? 俺が勝手にそう思ってるだけかも知れないけどね。けど、そうだとしたら俺もそういう大人の対応ができるように見習っていきたいね。


「うむ。遠慮なく性交してくれても構わんぞ」


 うん、これは見習わなくていいな。誰が人の家でやるかよ。俺たちのことなんだと思ってるんだ。




 翌日。目が覚めると何故かミツキがクーコに怒られていた。最初はヒソヒソと会話をしていたので何を言っているのかよく聞こえなかったが、ヒートアップして声が大きくなったので内容が把握できるようになった。


「おいミツキ! 寝込みを襲えと言ったじゃろ!」


「無理ですよ! それならタマモ様が行けばいいじゃないですか!」


「阿呆! ワシは操を立てたと言うておるじゃろ!」


 別に聞きたくなかった。朝からなんて会話してんだコイツら……。今起きるとなんか気まずいからしばらく寝たふりをしてよう。


「恐れながら申し上げますが、タマモ様が女の幸せを捨てることをあの旦那様が望んでいるとは思いません」


「……あやつは優しいからの。それはミツキの言う通りかもしれんな」


「でしたら、タマモ様がテンマ殿との子を成すべきです。神格を有するお二人の子ともなれば、優秀な子が産まれるのは必然とも言えるでしょう。妖狐族のことを第一に考えてくださっているタマモ様なら真っ先に気付いていたはずです」


 あ、真面目な話だったのね……。なんか申し訳ない。でも俺が気まずいことには変わらないから寝たふりは継続させてもらう。


「それでもワシは子を成すつもりはない。それに、男に抱かれることが女の幸せと言うのならばミツキもずっとワシに仕えていないでその女の幸せとやらを覚えるべきじゃ」


「しかし、私では……」


「くどいぞ。はぁ……仕方がない。そんなに自信がないのなら手解きはしてやろう。しかるべき筋を通したらすぐに決行するからそのつもりでいるんじゃな」


 どうやら話はまとまったみたいだ。さて、話が終わったところで今なら起きるのに1番いいタイミングかな。


「テンマ様、やっぱり役得だとか思ってませんか?」


「ひぇ……」


 マジで心臓止まるかと思った。隣で寝ていたはずのトワがいつの間にか起きていた。視線から不穏な気配を感じるんだけど俺悪くないじゃん! くそ、こっちに来てからこんなんばっかだ!


「なんじゃ、起きとったのか」


「て、て、て、テンマ殿!? 私とタマモ様の話は聞いていないだろうな!?」


 そんな大きい声で話をしていたのにそれはちょっと無理があるだろ。俺としても反応に困るわ。聞く気がなくても聞こえてくるんだから


「それはもうがっつりと聞いておられましたよ」


「なっ!?」


 おいこら暴露するな。しかも言い方に悪意があるぞ。抗議の目を向けたら目を逸らされた。ぷいっ、じゃないが?


「管理人様が聞いておったなら話は早いのぉ。昨日ミツキをテンマの嫁にしてやってくれと言ったが、情事の際にはワシも指南役として共にしてもよいじゃろうか? 婚姻関係にない者を寝所に立ち入らせては秩序の意味がなくなってしまうことはワシも分かっておる」


「そうですね。奥を管理する立場としてはそのような行為を認めるわけにはいきません」


 あ、相変わらず俺の意思が介在する余地はないんだ。そしてトワも断るんだ。ならなんで俺はさっき非難の目を向けられたんだ。俺怒られ損じゃね? 


「ただし、クーコさんも伽係として奥に加入して頂ければその限りではないです。伽係ならば婚姻関係を結ぶ必要もありませんからね」


「くっくっく、個人的には認めたくないと顔に書いてあるぞ。案外可愛いところもあるではないか」


 この時のトワの顔は俺から見てもいつも通りのポーカーフェイスだったんだけど、クーコには何が見えてるの? 


「当たり前です。人が増えれば増えるほどテンマ様との時間が減るんですから」


「う、申し訳ない……しかし私は皆さんとテンマ殿との時間をそんなに多くは奪いませんので」


「阿呆、話は最後まで聞かんか。トワイライトは我々の奥入りに賛成しとるんじゃぞ」


 え? 今のやり取りでどうやったらそんな結論になるの? ミツキが「そんなわけないじゃないですか!」と反論したらクーコは「やれやれ」とダメな子を見るような目をしていた。安心しろミツキ、俺も分からん。


「奥という制度は外から見ればテンマ様のステータスを可視化したようなものです。お二人が加入することでテンマ様の威光が高まるというのなら反対する道理はありません」


「な? 可愛いじゃろ?」


 どこが!? さっき認めたくないって話してたばっかりじゃん。感情ぐっちゃぐちゃだよ、ストレスとか大丈夫か?


「ご安心を。我々が不利益を被る相手や不快感を感じるような相手からの提案ならば一考の余地もなく棄却します。最も、一考の余地があった時点で却下の対象と言いますか……まぁそのくらいには不快感はありませんよ」


「そ、そうなのか」


 いいならいいんだけど……。


「そんな勝手に決めてミーナとフィーは怒らないか?」


「それなら問題ないぞ」


「決定権はトワに一任してるからね〜」


 あ、ミーナとフィーも起きてきた。俺の知らないところでそういう話し合いがあったみたいだ。信頼関係が垣間見えたのは嬉しいけどトワの負担が大きくないか?


「私たちの人を見る目では不安があるからな」


「そそ。そういう意味ではクーコさんたちが来てくれたらトワの負担も少なくなるだろうから歓迎だよね〜」


 たしかに。クーコの鑑識眼はトワの表情の機微すら読めるんだから大抵の人に通用しそうだ。俺たちはあらゆる面でトワに世話になりっぱなしだったからな。


「それに俺たちが外に出ている間にアロエやココの相手をしてくれる人がいるのも安心だな」


「ふむ……そのようなことでよいのならいくらでも手を貸すぞ」


「わ、私は交渉事は苦手だがアロエ殿とココ殿の相手なら喜んで引き受けよう」


 こうして俺たちのパーティにミツキとクーコという新しい仲間が加わった。

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