第106話 超長距離テレポート
初回投稿日から一年が経ったそうです。更新頻度少なめですが今後ともよろしくお願いします。
拙作ですが他作品もお願いします。
完結した主人公が最強なやつ
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女装して女子校に通う男の娘の話
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クーコの騒動のせいで忘れていた。そういえば俺たちってサウザー山脈のモンスターの素材を回収しにきたんだった。その話をするとクーコは「うーむ」と考え込んだ。
「下手に刺激すると村の周りのモンスターが活発化しスタンピードが発生する可能性があるからのぉ」
「じゃああんまり山には入らない方がいいのか?」
スタンピードか。つい最近その単語を聞いたので記憶に新しい。俺としては俺たちが依頼を遂行することでクーコの村に迷惑がかかるなら依頼は達成できなくても良いと思っている。まぁ違約金とかのランクダウンのペナルティはあるだろうが、逆にその程度だから依頼失敗でもいいという考えもできる。
「いや、そういうわけでもない。スタンピードは起きる時は起きるものじゃからな。例えばサウザー山脈を構成する山の一つに『ヘルヘイム』という山があるんじゃが、そのヘルヘイムの山頂にいる『ヘルヘイムドラゴン』が活動期に入るとスタンピードが発生するんじゃ。まぁワシでも時間をかければ倒せんことはないが、ワシとこやつの戦闘の余波でスタンピードが起きる可能性があるんじゃ。そうなったらスタンピードに対応できるのがミツキしかおらんくなるからのぉ。そうじゃな……お主らがあれを倒してくれるなら山に入るのは大歓迎じゃ」
ヘルヘイムドラゴンかぁ……倒してくれって簡単に言うけど山頂のモンスターってことはつまりこの山脈全域でも頂点に君臨するようなやつってことだよな?
「タマモ様、あれを倒しても問題ないのですか? 以前ヘルヘイムドラゴンがいなくなったら他の山から支配者のいない土地を求めてモンスターが流れてくるとタマモ様からお聞きしましたが、それもスタンピードの引き金になるのでは?」
なるほど。なんか生態系の話と似ているな。おそらく他の山にもヘルヘイムドラゴンのような山のヌシ、絶対的な捕食者がいるのだろう。その生活圏から逃れようと移動してくるモンスターが本来の生態系を壊すということだな。ミツキはクーコにその危険性を問いかけるが、なんでもこれはそもそもクーコからの受け売りらしい。しかしクーコも自分で言ったことを忘れているわけではなかった。
「そこはヘルヘイムドラゴンの代わりにワシがヘルヘイムのヌシになれば良いだけの話じゃ。他所から流れてくるモンスターは追い返しておればそのうちこちらに来るのを諦めるじゃろう」
たしかにポイズンサーペントとかそこら辺のモンスターが群れになってきてもクーコなら問題ないだろうけど、そんなクーコが時間をかけないと倒せないヘルヘイムドラゴンってなかなか強くね? まぁでもそんな素材なら帝国も満足するだろうな。
「ヘルヘイムドラゴンの鱗や爪を使った装備には『冥闇の加護』というスキルがつく。闇属性攻撃の被ダメージを50パーセント軽減させるほか、状態異常攻撃を完全無効化、さらにデバフ成功率の増加と3つも効果があるのじゃ」
おお。それなら王国で納品しまくってたモンスターの素材にも劣らないだろう。いや、なんならそれよりも優秀だな。でもなんで倒してもないモンスターのスキルが分かるんだ?
「ヘルヘイムドラゴンは100年に1度脱皮して鱗を入れ替えるんじゃが、その時に落とした鱗を運良く発見した冒険者がいたんじゃ。それを用いて作られた装備が当時物凄く話題になったんじゃが、言われてみるとしばらく見ておらんのぅ。そういえばどこかの国の宝物庫に伝説の防具として大切に保管されているなんて話があったかもしれん」
「えぇ……なんか勿体無い」
「全くじゃ。装備してなんぼじゃろうに」
まぁ実際宝の持ち腐れだなって思うけど、よくよく考えてみたら美術館とか博物館に鎧や甲冑って展示されてるんだよな。たまに本物があるのは誰かが保管していたからなわけで、そう考えたら武器や防具を保管するのって割とありふれた話なのかもしれない。とはいえ俺も勿体無いと思うけど。鎧や甲冑とヘルヘイムドラゴンの装備とでは同じ防具というカテゴリでも実用性が違う。
銃が発達し戦争の様式が変わったことで廃れた鎧や甲冑とは違い、ヘルヘイムドラゴンの装備は現役、いやそれよりも高い性能を発揮するオーパーツ的な立ち位置だ。それを使えばダンジョン攻略なんかにも使えたのでは? と思うが、まぁ国が個人に支給するには厳しいか。そのまま逃げられるとかならまだしも、ダンジョン攻略に出た部隊が全滅して装備ごとダンジョンに呑まれましたとかそんなことになったら洒落にならないし。
まぁそんなことはいいか。いやよくないわ。その装備を持ってる国ってまさか王国じゃないよな? ヘルヘイムドラゴンの素材を提供するってことはヘルヘイムドラゴンの装備の価値が下がるってことと同じ意味だからな。流石に奥さんの国の伝説を1つ潰すのは気が引ける。
「なぁトワ、これって王国の宝物庫だったりしないよな?」
「さぁ? 宝物庫には興味が無かったので……あったらあったで良いのではないですか?」
「おいおい」
そんな適当でいいのか? 一応世界で唯一の防具って考えたら結構な損失になると思うけど。
「冗談です。目録に目を通したことがありますが、そのようなものは無かったと把握しています。まぁ記載漏れやわたしの記憶違いが無ければの話ですが」
そのあやふやのままやっちゃっていいの? なんか俺が気になるから一回王城行かない? テレポートもあることだしさ。でも流石に全員は厳しいな。申し訳ないが俺とトワだけで行かせてもらおう。
「ちょっとトワと確認してくる。みんなどっかで時間潰しててくれ」
「このような場所で時間を潰せる娯楽があるわけないじゃろ。仕方ない、村にあるワシの屋敷に来るが良い」
「助かる」
ありがたい申し出があったのでその言葉に甘えてミーナとフィーはクーコに任せるとしよう。じゃあ俺はトワと王城に行くかな。さて、王城のどこに転移するかだな。いきなり玉座の間に行くのはファンキーすぎるのでどこか手頃な部屋とかがあればいいんだけど……あ、俺とトワが最初に会ったとことか?
そう思ったら脳内に情景が浮かんだ。よし、問題無さそうだ。
「終わったらすぐに帰ってくる。『テレポート』」
直後、俺の視界が真っ暗になった。
「……マ様……テンマ様……」
なんだ……何故か目の前が真っ暗で何も見えないんだが。それに身体も全く動かない。まるで自分の身体じゃないみたいだ。俺は今どうなっているんだ? まさか死んで魂だけの状態とかじゃないよな? こんな何もない空間で意識だけが残されているなんて冗談じゃないぞ。
「テンマ様、起きてください」
ん? なんか誰かが俺を呼んでる? 起きる? 起きるってなんだ? 俺は今起きてるじゃないか。
「『リジェネレーション』」
「はっ……! なんだ!? どこだここ!? えっ!? 服どこ?」
「おはようございます。ここはわたしの私室ですよ」
あ、そういえばテレポートの行き先をここに設定していたんだ。でもなんで俺は裸でベッドで寝てるんだ?
「覚えていませんか? 魔力欠乏で倒れられたんです。『沈黙』『暗黒』『スロウ』とステータス異常だらけでびっくりしましたよ」
マジか。そんなことになってたのか。いつもよりも長距離だったからその分反動も強く出たのか。心なしか倦怠感も強い気がする。1人で転移してたら大変なことになってたかもしれないな。トワがいてくれて良かった。まぁ良かったんだけど……。
「で、なんで俺は服を着てないんだ?」
俺に全裸で寝る習慣はないぞ。服はどこだと思ったら丁寧に椅子に掛けられていた。
「汗をかいていましたので。そのままでは気持ちが悪いかと」
そうか。その心遣いは嬉しいんだけどパンツまで脱がす必要はあったのか? こういう時って脱がすにしても上だけってのが相場じゃないか? いや、トワは俺のことを思ってしてくれたんだもんな。そんな他意なんてないだろう。
「男性は危機に瀕すると本能的に子孫を残そうと勃起するらしいですね」
「は!?」
その不穏な報告はなんだ。思わず布団の中で確認しちゃったけど別にギンギンになってないぞ?
「ご安心を。とても濃厚でしたよ」
事後かよ。何も安心出来ねぇわ、というか人が気絶してる時に何しちゃってんの? もしかしていつもより倦怠感が強いのはそのせいか!?
「まぁいいけどさ。それで宝物庫はどこにあるんだ?」
「宝物庫の鍵は父が持っています。まぁテンマ様なら解錠スキルでも開けられると思いますが」
「厄介なことになりそうだから正規の方法でいいよ」
出来るだろうし見つからないだろうけど、そんな横着して泥棒騒ぎにでもなったら大変だからな。怒られるのは城の衛兵だろうし、最悪解雇も有り得る。流石にこんなことで誰かの人生が壊れるのは可哀想だ。
「では父に頼みに……行く前にもう少しお休みしますか」
「あぁ……そうしてくれると助かる」
みんなも待ってるし早く動かなきゃと思いつつも気怠くて動けない。長距離テレポートを使った後はいつもこうだ。精神的な疲れというかステータスに表示されないステータス異常なんだろうな。というか俺服着てないわ……と思ったけど服を着るのも面倒だな。そんなことを考えていたらトワがベッドに入ってきた……ってなんでこの子は脱ぎ始めてるの!?
「僭越ながらわたしが添い寝をさせて頂きます」
「ちょぉぉぉい! 別にトワは服を脱がなくてもいいだろ!」
「??? 添い寝のマナーですよ」
そんなマナーは知らないんだけど。ツッコミを入れようと思った時には既にトワはパンツ一枚になっていた。そのままトワは恥じらいもなく肌と肌が触れ合うくらいまで接近してきた。いや、近い近い!
「2時間後に起こしますので」
「こんな吐息がかかるような至近距離でガッツリ見られてたら視線が気になって眠れんわ」
「それは盲点でした。失礼いたしました」
ふぅ、分かってくれたか。さ、早く布団から出て服を着るんだ……って急に俺の頭を抱きかかえてどうした? うん、それを胸のところに持っていって、一体この子は何してんの?
「こうすれば視線は気にならないのでは?」
たしかに視線は気にならないね。でもそれ以上に気になるところが出来ちゃったよね。でもこういう時に指摘するとさらに泥沼になるだけだって分かってるからもう何も言わない。
というか指摘した結果がこれだからもう片足どころか半身くらい泥沼に突っ込んでるけどね。
でも俺が今死ぬほど疲れてるってことは理解してるからさらに疲れるようなことはしてこない。というか俺がちゃんと心地よく寝られるように頭を撫でてくれている。服を脱いだのもこうやって抱きかかえた時に当たって肌感が悪くならないようにするためだろうな。素敵な奥さんだよ、ほんと。




