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第105話 キツネ耳は嫌いじゃない

 俺たちはテレポートでサウザー山脈中腹にあった山小屋の前まで戻る。この超常現象にミツキが唖然としていた。


「本当にテレポートだったのか……転移魔法が使えるのはタマモ様ぐらいだと思っていたが」


「クーコも使えるのかよ……」


 というか、テレポートに唖然としてたんじゃなくて俺が使えることに唖然としてたのね。そうか、でもクーコは時空魔道士の固有魔法のクロノスタシスを使っていたからテレポートも使えるのは自然か。


「では、タマモ様をお呼びする」


「ん? 呼ぶってどうやって……?」


「こうやってだ」


 そういうとミツキはこれでもかというほどの魔力を垂れ流していく。テレパシー的なものも狼煙的なものも使わないであくまでもこれで気付いてもらうそうだ。お前ら知恵があるくせに脳筋すぎるだろ。そう思っていたら虚空から気配もなくクーコが現れた。マジか。


「ミツキの魔力反応を感じて来てみれば……まさかそっちから来てくれるとはのう? 探しに行く手間が省けたわ」


 案の定ブチギレてるよ。けどミツキ曰くクーコは人間と仲良くしたいみたいだから。頼むミツキ。上手く説得してくれ、他力本願作戦だ。


「タマモ様! この方たちは敵ではありません!」


「なんじゃミツキ、もしや飼い慣らされたか?」


 クーコはまるで『鑑定』しているような目でミツキを観察している。とてもじゃないが味方を見る目じゃない。あれえ、なんか雲行き怪しくね? 


「ふむ……、『テイム』されているわけではないようじゃの……」


「はい。タマモ様の視た通りです」


「そうか」


 するとクーコの闘気が収まった。良かった、戦闘にはならなそうだ。


「してミツキよ。なぜこやつらが敵でないと?」


「それは、先程テンマ殿のお宅にお邪魔していたのですが……そこに超越種の女の子がいたんです」


「なんじゃと!?」


 超越種という言葉にクーコが本気で驚いているように見えた。ミツキだけじゃなくてクーコまでそんな反応をするということはどうやらココは本当に特別な存在らしい。ちなみに俺はまだその凄さがいまいち分かってない。


「なぁ、超越種ってどう凄いんだ?」


 空気が凍るってこういうことを言うんだろうか。クーコは俺の質問にこいつマジかって顔をしていた。


「ミツキよ。この男はこれを本気で言っておるのか?」


「おそらくは……」


 ちょっと待て! 俺だけじゃなくてみんなも分かってないから! あくまでも俺は代表して聞いてるだけだからな!?


「もしやお主らもそうなのか? はぁ……仕方ないのぅ。よいか? 超越種というのは同じ種でも進化によって位相が高次元へと引き上げられた存在じゃ。簡単な話、お主ら人間族が天使になるようなものじゃな……ってなんじゃみんなしてそんな複雑な表情をして」


「タマモ様……それは皆様を『天眼』で視ればお分かりになるかと」


「ミツキまでそのような反応を……ちょいと失礼するぞ」


 クーコがそういうと背筋が冷たくなるような感覚に襲われる。なんらかのスキルだろうか、見られているというか全てを見透かされているような不快な感じだ。少なくとも事前に一言断りの言葉が無ければすぐにレジストしていたな。そんなことを考えていたらクーコが「な、な、な……!」と素っ頓狂な声を出していた。


「なんじゃこれは!? おいミツキ! どうなっておるんじゃ!」


「いえ、私にキレられましても……」


「あぁぁぁ!!! ミツキは分かっとらん! じゃからはよう天眼を使えるようになれと言うとるんじゃ!」


 ミツキに詰め寄るクーコ。そんなクーコに対してミツキはドがつくほどの正論を慇懃な態度で返した。それが気に食わなかったのかクーコは子供みたいに地団駄を踏んだ。いい年して恥ずかしくないのか。


「天使どころではないわ! 特にテンマと言ったか? こやつ神格を有しておるではないか!? なんで神族がこんなところにおるんじゃ!!??」


「え、神族? 俺って神様なの?」 


「なんで本人が分かっておらんのじゃあああ!!!」


 クーコが発狂している。怒りで冷静さを失っているのか一部人化が解けてキツネの耳と尻尾が出てきた。アンガーコントロールは6秒我慢するといいらしいぞ。


「やはりそうだったのか……」

「うんうん。どうりで人間離れしてるわけだよ」

「むしろ人間のフリをした神様と言われた方が納得できますね」


 ほらみんなから人外認定されちゃったよ。というか薄々人間じゃないと思われてんじゃん。いや、そんな神の使いになった記憶なんかないし俺人間だからね?


「む……? 確かに神格を有しておるのに人間族じゃな……ベースは人間族ということか……?」


「ベースも何も元から人間のつもりなんだが」


「ふむ……では神か天使と対話したことはあるか?」


 対話ねぇ……天使って言われて真っ先に思いつくのはダンジョンの70階層にいたあいつらだけど……いやでもあれはホムンクルス? ってやつだったはずだ。前世では神様にお祈りをすることはあったけど、対話なんてしたことないし………いや待てよ? 前世?


「もしかしてあれって本物の天使だったのか……?」


 俺は前世でトラックに轢かれたあと、こっちの世界に来る前に天国みたいな場所に行ったんだ。その時に天使を自称する胡散臭い女がいたな。あのいきなり服を脱ぎ始めたやべぇ女だ。


「やはりな。神族でないとすれば神の使徒しか考えられん。ディバニティリッチなどという神格を有する存在がそう易々と生まれてくるとも思えん。お主の魔力を恒常的に吸収していたからと考えるのが自然じゃろう」


 これはちょっと肝に銘じておこう。下手をしたらココが得体の知れないものになっていた可能性もあったんだもんな。


「ふむ……そっちの3人も神の使徒の眷属になっとるな。お主らはまだ神格を得ていないみたいじゃが、その片鱗は見えてきておる。どうやらこっちも時間の問題みたいじゃな」


 なんてことだ……。俺だけが得体の知れないものになるのはいいけどみんなまで巻き込んでしまったみたいだ。


「ちょっと待て、ミーナたちは魔力の吸収なんてしてないぞ」


 よくよく考えてみればミーナたちは立派な人間なんだから魔力を吸収して成長みたいなことはないはずだ。さっきと話が違うじゃないか。いきなり矛盾しているんじゃないかと思ったが、そんな俺の指摘に対してクーコは「何を言っとるんじゃ?」と呆れた目をしていた。


「体液にだって魔力は含まれとるぞ、それも特に子種にはな」


「こ……子種!?」


「分かりやすく言うと精……」


「言わなくていい! 言わなくていいから!」


 ミーナとフィーが顔を真っ赤にしながらクーコの口を遮る。このキツネ分かってて言ってんな。恥ずかしがっているミーナとフィーを見てニヤニヤしている。いい趣味だな。


「なるほど。つまりテンマ様に精を注がれる度に蓄積されているということですね」


 トワさーん! あなたはなんでお腹を撫でながら言うの? あとその言い方だと俺の生殖能力に問題があるみたいだ。


「そもそもの話だ。その神格とやらは悪いものではないのだろ?」


「そうじゃな。と言っても神格を有している生物なんざそうお目にかかれるものでもないからの。ワシの場合だと固有スキルを無制限に使用できる『スキルマスター』という称号そのものが神格になっとる」


「固有スキルを無制限に?」


「まぁ見せた方が早いじゃろう。『シャドウアバター』」


 そういうとクーコの姿が2人に分身する。これはダークロードの固有スキルだ。


「そして、『天空闊歩』」


「おぉ……」


 分身したうちの片方のクーコが拳神の固有スキルを発動して空を飛び回り始めた。なるほど、ダークロードならダークロード、拳神なら拳神の固有スキルしか使えないという制限が無くなっているのか。


「あくまで制限がないのは本体だけじゃがな。分身体の方は従来通りシーフ系統のスキルしか使えん」


 今も目の前にいるクーコが教えてくれる。ということはこっちは分身体なのか。それでも本体は好き放題できるんだからめちゃくちゃだよ。


 しばらくすると本体の方のクーコも空から戻ってくる。スキルを解除したら分身体は消えた。


「ま、こんな感じじゃな」


 とりあえず俺たちに襲いかかってきた時に手を抜いてくれていたということは分かった。というか、俺は別にこんな世界のシステムに喧嘩を売るようなことしてないけどな。


「俺はスキルを無制限に使えるとかないけど、俺の神格って何なんだ?」


「ふむ……お主の場合は『異世界人』じゃな」


「あー……」


 なんか言葉が変だと思ったけど『異世界人』って称号の話か。たしかにあれは最初からあった称号だ。そのおかげで俺は人よりも経験値が2倍貰えるんだよな。うん、クーコみたいに戦闘面でぶっ壊れてるわけではないけど世界のシステムには十分喧嘩売ってたわ。


「なーんだ。いい効果しかないなら気にしなくていいじゃん」


「そうですね。テンマ様はわたしたちが神格が得られるように頑張ってください」


「くっくっく、一体何を頑張るのかのぉ〜」


 下世話なキツネだ。さてはこいつ下ネタ大好きだな。


「そうじゃ、よかったらミツキも連れて行ってはくれんか?」


「た、タマモ様!? 一体何を……!?」


「ミツキ、お主は既に自分が成長限界を迎えていると思っているじゃろうが、ワシはそうは思っとらん。そしてその鍵になるのはその男じゃ」


つまり俺の魔力ならミツキをさらに成長させられる、ということだろうか。まぁ話の通じないモンスターってわけでもないし、むしろ金銭や権力に固執しない分だけ下手な人間より信頼出来そうだから俺としては協力してもいいと思うんだけど……自分の意思でならまだしも命令されてあったばかりの俺たちについて行くなんてミツキの方が嫌だろう。


「しかしタマモ様……」


案の定ミツキはちょっと待ってほしいとクーコを説得しようとする。そんなミツキを見てクーコは呆れた表情を浮かべた。


「ミツキよ。お主もそろそろ齢は1000を超えたか? 流石にそれで生娘というのもどうかと思うがの〜」


「き、き、生娘って! 何を仰っているのですか!?」


「別に間違ったことは言っとらんじゃろ。純潔を守っているといえば聞こえはよいが、お主の場合は完全な生き遅れじゃ」


「な、な、な……!」


生き遅れと言われたミツキは返す言葉がないのか口をぱくぱくとしている。それにしてもなんて会話をしてるんだこいつらは……戦闘になる可能性を見越してアロエを連れて来なかったけど違う意味で英断だったな。


「それを言うならタマモ様だって1000年近くご無沙汰ではないですか!」


「阿呆、ワシは亡き夫に操を立てとるだけじゃ。お主のような喪女と同列に語るでない。全く……そういうところを含めてお主は未熟なんじゃ。じゃからはよう強いオスに抱かれてメスとして成長してこいと言うておるんじゃ」


なんかそれっぽく言ってるけど因果関係めちゃくちゃだよ。というか強いオスってもしかして俺のことか? あれ、これ俺の意思も無視されてないか? まぁキツネ耳は好きだしやぶさかではないんだけどさ。


「テンマ、さては役得だと思ってはいないか?」


「テンマく〜ん?」


俺はなにも言ってない! 俺これでも節操はあるから!


「テンマ様の奥の管理について話し合っておいて良かったですね」


「あぁ、あのミーナが正妻でフィーとトワが側室ってやつだっけ?」


そういえば俺が王様から叙爵される前にトワがそんな話をしていたな。


「このようにわたしたちはルールを定めています。仮にミツキさんがテンマ様の奥に加わった場合、ミツキさんは第四夫人で序列は愛妾になります。これも例えばの話ですが、ミツキさんを第四夫人に迎えたあとに第五夫人を迎えることがあるかもしれません。その方が公爵令嬢やどこぞの国の王女といった有力者の場合はその方の序列は側室となり形式上はミツキさんの序列よりも上になります」


「そのような形式なぞどうでもよいわ。伽係でもよいから情けをかけてやってくれ」


伽係て……クーコは散々言ってるけどミツキはそれでいいのか?


「……っ!」


チラッとミツキを見ると向こうも俺を見ていたので目があってしまった。と思ったらすぐに目を逸らされた。え? なにその恋する乙女みたいな反応。


「くっくっく! なんじゃ、ミツキも満更でもないみたいじゃな! ならば話は早い! ミツキよ、抱かれて女になって……ん? どうしたんじゃミツキそんな顔を真っ赤にして」


「タマモ様、失礼します」


「あいたぁぁぁあああ!!!」


ミツキの平手打ちでクーコが5メートルくらい飛んでいく。そのあとクーコはこのことを話題にするのをやめた。

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