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102話 麓の村

 翌日。朝の早い時間にゼータの街までテレポートで移動した俺たちは特に目立ったトラブルもなくお昼前にはサウザー山脈の麓の村とやらに到着することが出来た。村には外敵の侵入を防ぐための堀や柵などはなく、どこからでも簡単に出入りすることが出来た。


「出入りしやすいのは便利だが……これではモンスターも入り放題ではないか?」


 ミーナがみんなが思っていることを代弁してくれる。冒険者ギルドでモンスターに畑が荒らされて困っているという趣旨の依頼は山ほど見た。これでは外敵からの侵入にあまりに無防備すぎる。


「歓迎されていないな」


「そうみたいですね」


 村に入ってから数人の村人に会ったが、誰も俺たちに話しかけて来ない。俺の勝手な偏見で田舎は都会には無い風習があって余所者に厳しいって印象があるんだけど、まさにその通りだった。


「あ、あれ!」


 フィーが指差した先には2つの尻尾を持ったキツネ『二尾』がいた。Fランクモンスターなのでそこまで脅威というわけではないが、それでもモンスターはモンスターだ。


「いや待て、様子が変じゃないか?」


 二尾は村人や畑を襲おうとしないし、村人もそれを分かっているかのように何もしない。それどころか村人は家から食べ物を持ってきて二尾に与えていた。


「俺たちは二尾以下か」


 歓迎されていないのは分かっていたがまさかモンスターよりも歓迎されないとは思わなかった。


「お主ら、この村になんのようじゃ?」


 ここにきて初めて俺たちに話しかけてくるものが現れた。若い女性? いや妙齢の女性? これは俺が異世界人だからかもしれないけど素朴な田舎の村に金髪のロングヘアーが場違いに感じる。偉そうな態度だけど偉い人なのだろうか、と思ったら遠巻きに俺たちを監視していた村人から村長というワードが聞こえてきた。え、村長にしては若くないか? 少なくとも遠巻きに見ている男の人よりは若く見える。世襲制なのだろうか。


「俺たちは冒険者だ。帝国からの依頼でサウザー山脈の調査に来た」


 嘘をつく必要もないので正直に答える。これは最強の免罪符だからな。いや犯罪行為は免れないけど。悪いことをしていないならこれでなんでも通用する。


「帝国の依頼じゃと?」


 女性の俺たちを見る目が険しいものになる。真偽を探っているのだろうか。まぁ俺たちみたいなのが国から正規の依頼を受けて来ましたと言っても疑いたくなるのは分かる。企業名を頑なに言わない訪問販売に通ずる怪しさだ。何の話をしているんだ俺は。


「嘘は言っておらんようじゃな。まだ若いのに大したものじゃ」


 しかし村長はすんなりと信じてくれた。もしかしなくても『看破』スキル持ちか? まさかこんな嘘発見器のような使い方をしてくるなんて。これはスキルだけじゃなくて個人の技量もあるだろうな。少なくとも俺には出来ない。なんとなくだけどトワなら出来そうだ。奇謀、策略、腹芸なんでもござれだから。


「ワシはこの村で村長をしとるクーコというものじゃ。村の者の不躾な視線には不快感を覚えたじゃろう。代表として謝罪する」


「いや、余所者に警戒するのは正しい反応だ。まさか二尾よりも歓迎されていないとは思わなかったけどな」


 俺はただ純粋な感想を言っただけなのだが、クーコは何が面白かったのか「くっくっく」と笑っていた。


「まぁそうなるじゃろうな。他所から来たらそりゃ分からぬわな。ここは『キツネ教』を信仰しておるんじゃよ」


 なんだそのふざけた名前の宗教は……とか言ったらダメですよねぇ! 信仰が1番怖いんだから。みんな間違っても口を滑らすなよ?


「キツネ教……あ、だから二尾を退治する人がいなかったのですね」


「おキツネ様を退治するなんてとんでもない!」


 トワの純粋を装った反応に村人からそんな言葉が飛んできた。え、トワが何を考えてその発言をしたのか気になるんだけど。


「モンスターを倒すことを生業としている冒険者には理解ができんかもしらんがな」


「いや、そうでもないよ」


 こっちだってリッチの妹分がいる身だからな。だから知能のあるモンスターとなら共生は可能だと思っている。ただ『一尾』や『二尾』には知能らしさを感じたことが無かったから驚いた。しかし遠くでは村の子供と遊んでいる一尾の姿も確認できた。


「可愛い……」


「もふもふだよね〜」


 たしかに悪さをしないのならペットとして飼ってもいいかもしれない。イヌの仲間だし。ざっくりしすぎ? 感染症が心配だけど『キュア』とか最悪『エクスヒール』で治療出来るだろうし。


 そんなことを考えているとフィーがまた何か見つけたみたいだ。


「ちょ、『四尾』!?」


 フィーが驚いた声をあげたのは村に四尾がやってきたからだ。尻尾が4つに成長しただけでなく体長も70センチほどまでに成長している。そして一尾や二尾との最大の違いは四尾は魔法を使うということだ。ギルドではBランクモンスターで登録されている。


「あ、コンちゃんだ〜」


 そんな危険なモンスターに俺たちと年齢がそこまで変わらなそうな女の人が駆け寄って行く。その女の人は躊躇うことなく四尾に抱きついた。


「うはー、今日ももふもふだね〜」


 四尾は嬉しそうに「くぅ〜」と鳴いていた。完全に懐柔されているように見える。


「山麓には『アグリーベア』や『ワイルドボア』のようなモンスターもおるが四尾の敵ではない。奴らもそれが分かっておるからこの村には近付かんのじゃ」


 つまり四尾がこの村を守っているってことか。キツネを信仰する理由もわかる。


「分かった。山に入ってもキツネは倒さないようにするよ」


「そうしてくれるとありがたいのぉ」


 流石に村の守り神を倒して経験値うめぇなんて言えるほど人の心は失っていないつもりだ。


 俺たちはクーコから指示された山道を使用して山に入る。曰く、過去に帝国が調査のために開拓した道があるらしい。この周辺にはそういう山道がいくつもあるそうだが、だいたいがAランクモンスターの生息域に差し掛かる中腹で途切れているらしい。


「『フォレストウルフ』の群れだ」


 群れになるとBランク相当のフォレストウルフが山麓で出てくる。開拓しながら戦わなければならないのはストレスだろう。過去にこの道を開拓した兵士たちの苦労がわかる。まぁSランク冒険者の1人でもいれば違ったんだろうけど。


「『グラビティ』」


 トワが指を鳴らすとフォレストウルフの群れが一瞬でぺしゃんこになった。とんだスプラッター映像だよ。絶対トワは怒らせたらダメだな。


 2時間ほど山登りを続けると辺りに木が一切無い開けた場所に出た。標高でいうと800メートル程度なので山腹というにはまだ少し早いのだが、どうやらここから先の山道はないみたいだ。それはここにいるモンスターが原因だろう。


「ポイズンサーペントか」


 ダンジョン51階層のボスモンスターだ。どうやらここはポイズンサーペントの根城らしい。Sランク相当のモンスターがこんな早い段階で出てくるとは思わなかった。


「『天堕』」


 あ、これちょっと前にダンジョンで見たやつだ。もうミーナ1人でもボッコボコに出来るのはすでに証明済みだ。


「『クルーエルスタブ』」

「『アルケー(風)』、『アルケー(水)』、複合魔法『テンペスタ』」


 そこにフィーとトワまで加わったらもうオーバーキルだよ。やめたげてよぉ! と言いたくなるような光景だ。


「終わったぞ」


「おう、見りゃ分かる」


 ポイズンサーペントがいたところには隕石でも落ちてきたのかと言わんばかりの大きなクレーターが出来上がっていた。そしてこの倒したポイズンサーペントはというと。


「この程度のモンスターならばわざわざ持って帰らなくても良いのでは?」


 たしかに王都のダンジョンで素材はいつでも手に入るからなぁ。そういうわけでこのまま放置することにした。


「ここから道が無いのはどうする?」


 出来ないことはないが道無き道を歩くのはややめんどくさい。2時間近く歩いてこれだからな。もっと手っ取り早く登る方法は無いものか。


「そうだテンマ君! 下級天使のスキル!」


「あ! その手があったか!」


 下級天使で得たスキルといえば『飛行』だ。街中で全く使えないせいで忘れていた。早速『飛行』スキルを使うと背中からこれでもかと言わんばかりの大きさの羽が生えた。いつ見ても慣れないな。元々自分に無い器官なのに動かし方とかが理解できてしまっているのがなんとなく気持ち悪い。


「じゃあこれで手っ取り早く中腹まで行くか」

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