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第100話 サウザー山脈の前に

 サウザー山脈は帝国領の最南部のいわゆる自然的国境というやつで、帝都からは直線距離で約1000キロも離れている。例え馬車を使っても1日2日で走破できるような距離ではない。


「明日でようやくサウザー山脈だな」


 1週間近くかかってようやく山脈も見えてきたところだ。この辺りまで来ると帝都のような大都市はなく、ある程度大きな街がちらほらといった感じで、あとは冒険者ギルドもないような村がほとんどだった。そういう村にはご飯を食べる定食屋すらなかったりするので、俺たちはこの辺りで1番大きい街で一度休憩をすることにした。


「防衛都市ゼータにようこそ。外から来る冒険者さんは珍しいね」


 門番が言うには、この街にも冒険者ギルドはあるそうだが冒険者という職業自体はそこまで機能していないそうだ。なんでもこの街には冒険者よりもモンスターに備えている組織があるのだという。


「ここは鎧を着た兵士が多いんだな」


 今話をしている門番もまたその鎧を着た兵士の1人である。


「防衛都市ゼータは、サウザー山脈からモンスターが溢れ出す『スタンピード』に備えた都市だからな。これでも俺やそこらにいる鎧を着ているのは帝国の正規兵だよ。ここには常時3000の兵士が備えている」


「3000か。凄い人数だな」


「あぁ、Bランクモンスターのスタンピードでも対処できる数だ」


 サウザー山脈はAランクやSランクのモンスターが跋扈する魔境ではあるが、山麓にはBランクやCランクの比較的狩猟しやすい(それでも非戦闘職には脅威ではあるが)モンスターも存在している。またAランク以上ともなると生息域は山の中腹、スタンピードで溢れ出てくるほど浅いところにはいないそうだ。


「これより南に街はあるのか?」


「ここから数十キロ離れたサウザー山脈の麓に小さな集落があるみたいだが、俺も詳しくは知らない。ただ、この街よりも南に住むのはお勧めしないぜ? ここはスタンピードが起こった時に非戦闘員が逃げられることを想定してつくられた街だ。逆に言うと、ここより南はスタンピードに呑み込まれる可能性がある」


 なるほど……しかしそんな危険なところで暮らしている人がいるというのも不思議な話だな。


「ありがとう。今日はこれで美味い酒でも飲んでくれ」


「おっ、気前がいいな兄ちゃん! また次の機会があれば今度は俺に奢らせてくれよ!」


 俺たちにとってこの街はアウェーだからな。少しでも心象を良くしておくに越したことはない。ただでさえ俺たちは男1人に女4人と悪目立ちするからな。ここに来るまでも変な因縁をつけてくるやつらがいたが、余所者が面倒を起こすなと被害者の俺たちを厄介者扱いするところもあった。


 まぁそういう人たちは俺たちがSランク冒険者で帝国議会からの指名依頼の最中であると告げると土下座して勘弁してくださいと懇願してきたけどな。ちゃんと依頼を妨害してきたと報告するから沙汰を待ってくれな。


 とはいえそういう手続きをするのも面倒くさいし、1万ゴールドで買収できるなら安いものだ。


 門番の男に教えてもらったレストランで食事をする。陸続きとはいえ帝都と1000キロも離れれば食文化も違った。


「食後はお茶かコーヒーかどちらにしますか?」


「コーヒーで」


 驚いたことにコーヒーの文化が根付いている。そういえば南の方の交易品と言っていたがこの辺りでも栽培しているのだろうか。そういえばカレンちゃんの商会が大規模なコーヒー農園を南方の都市に作ったという話を風の噂で聞いた。現地の人を雇って商品作物を育てると聞くとどことなくプランテーション農業を彷彿とさせるがフェアトレードはされているのだろうか。過酷な児童労働なんて当たり前の世界だからな。そんな話をしたらみんなから尊敬の眼差しを向けられた。


「そんなこと考えたこともなかったな」


「そうだね〜。私たちが元いた冒険者パーティではどれが安いとか高いとかそんなことばかり気にしてたよね〜」


「限りある活動資金でやりくりしなければならない冒険者なら仕方がないかと。しかし流石はテンマ様。為政者としても優れているのですね」


 いや、そんな大層な話じゃないと思うんだが……こうも絶賛されるとむず痒いものがあるな。


「いやまぁ俺は所詮偽善者だけどな」


「お兄様は孤児院にも多額の寄付をされているではないですか。偽善と自虐するには人を助けすぎですよ」


「そうですね。たとえテンマ様のそれが称賛されたいがための偽善だったとしても、称賛されるだけの成果を残しているのは事実ですから」


 もう何を言ってもよいしょされてしまう。よいしょの達人しかいないな。いかがわしいお店よりも煽てられてるんじゃないか?


「まぁそんなことはいいや。とりあえず明日は麓の村に行ってそれから山に入る。そういえばアロエは明日は学校だったな」


「はい」


「一回帰らないとだね〜」


 ここから帝都までは片道6日の道のりだが、それでも問題ない。なんと『テレポート』は片道数百キロの瞬間移動も可能だった。その代わり魔力がゴリッゴリに消費されるので使用後に倦怠感に襲われる。今のレベルだと使用後は1時間くらい仮眠が必要だ。


「じゃ、今日は防衛都市ゼータに来たということで」


 実際のところテレポートがあるのでこうやっていちいち街に立ち寄るのは時間のロスだが、街に立ち寄ることでマッピングが出来る。


 こうやって一度立ち寄っておけば次からはテレポートで好きな時に遊びにこれるからな。ゆくゆくはこの世界のすべての街を好きな時に飛び回れるようになるのだろうか。便利だけどなんかそれはそれで味気ないな。


「お兄様? どうかしたんですか?」


 っと、ぼーっとしてたら心配させてしまったな。まぁ今は遠慮なくこのチートスキルを使わせてもらおう。


「『テレポート』」


 そして俺たちは帝都にある屋敷に戻る。分かっていたことだがテレポートで飛んだ瞬間から一気に疲労感が襲ってきた。


「じゃあ俺は仮眠してくる」


「お兄様、ありがとうございます。ゆっくりおやすみください」


「一応俺たちは帝都にいないことになってるから、外には出ないように」


 分かっているとは思うけど一応ね。ギルドの人、とくにユキカゼに見られるとややこしいことになる。俺は2階にある自分の部屋に戻ろうと階段を登ったところ、ミーナたちもついてきた。ミーナたちの部屋も2階なのでみんなも自分の部屋に戻るのかな? と思ったけどどうも違うらしい。


「お供します」

「私も」

「私も〜」


「お前ら……」


 今は断る元気もない。言っとくけど何もしないぞ。寝るだけだからな。


「あ、あわわわわ………!」


「みんな仲良しなの〜」


 俺の部屋に入っていくところを見ていたアロエとココが色々な誤解をしてそうだけど。ダメだ。それを訂正するのもめんどくさい。


 ちなみに寝る時はミーナを右、フィーを左に抱きながらトワの膝枕で寝た。多分俺は世界一幸せな男だと思う。

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