1-2-10 直撃
1-2-10 直撃
「チェイング!」
とりあえず思いついた変身ワードを叫んで気合を入れ、体感時間遅延を発動させる。
使っていてわかったが、このスキルは素晴らしい点が2つある。
1つはミートポイントを自由に変えられること。
攻撃は、ボクシングのパンチでも剣道の面打ちでもなるべく脱力しておいて攻撃が当たる瞬間だけ力むのが最も効率が良い。
このスキルはグラディエーターが敵の皮膚に当たり肉に食い込む瞬間まで把握できるので全力を込めるその一瞬手前まで脱力していられる。
攻撃のスピードが上がり、攻撃に全力が乗るようになる。
一撃の質が格段に上がるのだ。
防御においても、敵が攻撃のために力む手前で武器を払ったり、敵が力んだ際に数センチ身を引いて相手の全力の力みが空ぶった瞬間に横から武器を払って攻撃を受け流すこともできる。
もう1つは急所を正確に狙えること。
遅延している時間の中で狙いを微調整しながら攻撃できるため、相手の弱点一点を狙い撃ちにできる。
今回はこれを利用して針の穴に糸を通すように正確に、オーガのこん棒を握る親指を撃砕する!
「グガアッ」
グラディエーターを突き込むとオーガがこん棒を落としてのけぞった。
全力で振り下ろした勢いが親指の骨一点に跳ね返ってきたのだ、間違いなく骨は砕けただろう。
360度視野で状況を確認するとコーンウルフはオーガがダメージを受けたことに驚き、攻撃を止めて逃げ腰になっている。
うーん良い、戦場で敵が弱気になってくれるのはすごく良いぞ。
怯んだ隙に武器を手槍に持ち替えてオーガに突き込むが、これは後ろに飛び退って避けられた。
ここにきて柵が邪魔だな、追撃できない。
オーガは憤怒の表情でこちらをにらみつけながらこん棒を拾い――親指の痛みでそれを取り落とした。
よしよし、ダメージは確実に入っているな。
それを見たコーンウルフ達がさらに逃げ腰になっている。
オーガは左手でこん棒を拾い直すと、今度は突進しながら大きく横に振るい、柵を破壊した。
今度はグラディエーターが届かない位置を狙われたので迎撃できない。
こいつ別に頭が悪いわけではないのか。……まあコーンウルフを手なずける知能があるわけだしな。
さあ、ここまでは良い感じだ。
「コーンウルフが引いた。孤立したオーガに、みんなで一斉に射かけてくれ!」
「おう!」
声をかけると、猟師たちがすぐに弓を引き絞り、オーガに狙いを定めた。
この有利な状況を活かして、このまま押し切る!