1-2-7 献策
1-2-7 献策
カンッ カンッ カンッ
明け方の村に鐘の音が響いた。
後で聞いたところによると『緊急事態・全村人武器を持って村長宅に集合』の合図だそうだ。
何事かと慌ててやって来た村人たちはざっくり50人弱。
子供はリリを除いて2人。それ以外は全員大人だ。
「この村はコーンウルフに取り囲まれている」
村長が話し出すと村人たちが息を呑むのが分かった。
「物見やぐらで見る限り20匹には満たない。14~5だな」
「なんてこった、なんでこんなことに」
「冷夏で困ってるのは奴らも同じなのかもしれん。冬に備えて太り足りない個体を肥えさせるため、山から下りてきたのだろう」
「くそっ、戦うしかないのか」
「このまま村を通過するとは思えん、覚悟を決めろ」
戦闘訓練を受けているというのは本当なのだろう、村長に断言されて皆武器を握りしめ気合をいれている。
「だが、どう戦うかが問題だ。なにか案のある者はいるか?」
このまま作戦会議になだれ込むらしい。
「村長待ってくれ、そこにいる男は誰だい?」
「ああ、ショウゴ殿だ。リリとリダンの命の恩人だ。この村のために戦ってくれるそうだ」
「そんな、よそ者を村に入れたのか?」
「信用できるのか?」
数人が村長に詰め寄った。
まあ本当なら前線基地の村でよそ者がうろうろしてたらいかんよね。
「ああ、気骨ある若者と見た。責任はわたしが取る。今回の防衛を手伝ってもらうぞ」
「……」
何人か納得いってなさそうな人たちもいるが、村長が断言してくれたおかげでとりあえずは口を噤んでくれた。
「おおそうだ、ショウゴ殿は故郷では軍属だったのだったな。こうした場合の防衛に経験はあるかの?」
村長が話を振ってくれた。
良いところを見せて信用を勝ち取れってことなのだろう。
そうだな……
「俺の邦の獣と同じ習性かは分からないが、とりあえず家畜を一か所に集めるべきでしょう。腹が減っているのなら、コーンウルフ達はそれを狙ってくるはずです。」
「なるほど?」
「即席で二重に柵を作り、家畜たちをそこに入れておく。僕らは柵と柵の間に潜み、コーンウルフが柵にとりついたのを見計らって槍を突き込めば倒せるはずです」
「うーむ、しかし牛馬を集める間に襲われるのではないか?」
「腕の立つもので班をつくり、護衛しながら集めるしかないでしょうね」
「親父、危険だ。家畜は惜しいがやつら腹いっぱい食えばここから去っていくのではないか?」
村長の息子(といってもいい歳だが)が特に難を示している。
リスクは取りたくないよね。実際。
「その可能性もあります。ただ、あの系統の獣は頭がいいので一度良い思いをしたらごちそうを食べつくすまで居座る可能性が高いですね」
「俺らもご馳走か?」
「ちっ、ぞっとしねぇな」
「その作戦、本当にうまくいくのか?」
「結局は槍を突き込む勇気があるかどうかです。目の前の肉食獣に立ち向かっていくというのはかなりの恐怖ですから」
初年度兵が敵に向かってちゃんと銃を構えて撃つことは難しい。
臨時徴兵で訓練が足りていなければ4割もいないとされている。
この村の人たちの練度は分からないが、物腰を見ていると胆力のある人が多そうな気はする。
実際は分からないけど。
「ふむ……」
物見やぐらからの連絡では、今コーンウルフはぐるぐると村の周囲を回り状況を確かめているらしい。
「では3班に分けよう。一班は柵をつくる。裏の倉庫に資材がある。残りの二班は南北の家畜小屋へ行ってここへ連れてくる」
俺の意見が採用されてしまった。
責任重大だな。
俺はリダンさんたちと共に北の家畜小屋へ向かう班に組み込まれることになった。