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0-1 ギフト


……毘沙門天?

目を覚ますと目の前に毘沙門天が立っていた。

いかつい武器を持っているし、鎧も盾もフル装備だ。


「ショウゴよお前は人生を終えたが、その時の記憶があるか?」


毘沙門天が重々しく語りかけてくる。

人生を……終えた? 記憶?


「あっ」


唐突にフラッシュバックする光景。

巨大なトラックがこちらに向かってくる。


「思い出したようだな。あまり悲しむことはないぞ。お前の記憶は消えるが、お前の魂は次の人生を歩んでいく」


「はい……」


慰められているのだろうか? 毘沙門天さんの言い方は不愉快な感じではないが、多少事務的な成分を感じる。


「お前は生前沢山の善行を積んだ。我々の量りでいう30000単位だ」


「はい、えー、30000単位ですか?


「うむ、我はお前たちの言葉で伝えるのがうまくないのだが……そうだな。30000ぽいんと。というと分かりやすいか」


「は、はい。30000ポイントですか」


「その30000ぽいんとを、次の一生の強みとして用いることができるが。どうする」


この毘沙門天さん。事務的なのかと思ったら違うな。

これはたどたどしいんだ。

説明も足りないし、言葉もうまく選べていないように感じる。


「あの、強みとして用いるというのは、具体的にはどういう?」


「うむ。どう伝えるかな……つまり、特技を持って次の人生を始められるということだ」


「特技を。つまり才能や素質を持って生まれるということですか?」


「うむうむ。それだ。なにか今までの人生でうまくいかなかったことや欲した特技があれば、それを与えよう」


そう言って毘沙門天さんは強者がよくやる、温かい笑みを浮かべた。

そこで少し考えてみる。

良い人生……と断言もしづらいけど、まあまあ一生懸命に生きた。

最期も、まあ、人助けをして迎えたわけだし、納得はしている。


そして次の人生か。どんな能力があれば次の人生をもっと有意義に過ごせるだろう……。


「あ、あの、僕は赤面症といいますか、家族以外と話す時にどうも視線が泳いでしまいまして。それを改善することはできますでしょうか」


「視線が泳ぐ? それはより多くの情報を得ようとする気持ちのあらわれだろう。悪いこととも思わんが」


「そ、そのー、どうにもそれがコンプレックスでして。それがなければ次の人生がもっと素敵なものになるかと思うんです」


「なるほど。まあ本人がそう言うならば是非もないぞ。視線が泳がぬでもよいように計らおう」



「あ、ありがとうございます」


「これで残りは20000単位だ。他に何か、欲する特技はあるか?」


視線が泳がなくなるので10000ポイントなのか。これが多いのか少ないのかわからないけど、長らくの悩みが解決するのは素直に嬉しいな。


「あ、あの。もう一つは手遊びについてなのですが。どうも人と話す時に緊張してしまって。手が動いてしまうんです。服の裾をいじってしまったり、指を絡めたり、貧乏ゆすりをしたり。これが嫌だったのですがこれはなんとかなりますでしょうか」


「緊張している時に指を動かす。体を動かす。どちらもそう悪いことではないと思うがな? 我は武を尊ぶが、体が居着けば思考も居着く。お前はそれを本能的に回避しているのだよ。立派な働きだ」


「ど、どうにもそれがコンプレックスでして。なんとかなりませんでしょうか?」


「ああもちろん、我々はお前の善行に報いる。お前がそれを望むならそれを叶えよう。お前が無駄と感じる体の動きを省けるように計らう」


「あ、ありがとうございます」


すごいぞ。これは次の人生は良いものになりそうだ。


「残り10000単位である。欲するところを述べよ」


「えっと、それでは、この『話し出し』なんですが。どうしても『どもって』しまうのです。あ、とかえーっと、とか話しはじめにつけてしまいまして。これも治そうとしてもなかなか治らなくて困っているのですが、これは治りますでしょうか」


「ふむ……」


すると今まで泰然としていた毘沙門天さんが急に暗い顔になった


「ふむ、正直に言うが実は我は書画や歌舞などに疎くてな……流暢な言葉というのはその枠組みの1つなのだが。なかなか、どうやってその特技を与えたものかうまく思いつかんな」


「そ、そうですか」


「うむ、すまない。……いや、まて。我々がこうしてお前たち人間と話しているのは我々の持つ『翻訳』の特技だ。我が与えられる特技の範疇だな。では我の、自分の意思を相手の言語に翻訳して伝える力を与えよう」


「ありがとうございます!」


「残り5000ぽいんとだ」


「もう十分ですが……そうだ、なにかおすすめなどありますか?」


そもそもどんな項目があるかも知らない自分よりも、専門家におすすめを聞いた方が良いことありそうだ。


「そうだな……短剣の1つもあると便利だろう。『グラディエーター』などどうだ? 不壊属性が付いていて使い勝手がいいぞ。ちょうど5000ぽいんとだ」


「それではそれをお願いします」


短剣なんか必要かな? とも思うけど。

ボーイスカウトやブッシュクラフトアウトドアなんかではなにはなくともナイフが大事だというし、せっかくのおすすめだからそれをお願いしてみよう。


「これらの贈り物は全てお前の善行の賜物だ。次の人生も善く生きるようにな」


「しかと心に刻みました。必ず」


「では次の人生に送るぞ。さらばだ」


毘沙門天さんが手をかざすと体が緑色の光に包まれるのが分かった。


ふ、と気が遠くなっていく。

よし、つぎの人生も……がんば……る、ぞ



***



「あれ? ダーリン。この部屋でなにしてるの?」


「おうハニー。最近お前が忙しそうなのが気になってな。少し手伝おうと思って、今、仕事を一つ肩代わりしておいたぞ」


「ダーリンって本当に気が利くよね。嬉しい。愛してるわ」


「はっはっはっ、おいおい、そう抱き着かれると困ってしまうな」


「ふふ、困ることないじゃない。それでなにをやってくれていたの?」


「魂の転生をやっておいたぞ。これ、この案件だ」


「嬉しいわ。ありがとう。これ……これ、すごいことになってるわね」


「ん? なにか間違っていたか?」


「次の世界がどんなところかとか、説明した?」


「む、そういえば忘れてしまったな」


「『心眼』と『行動最適化』ね。どうしてこのスキルを贈ったの?」


「眼を動かさずに情報を得たい。動きの無駄と思うところを省きたい。と言われてな」


「そう、すごく……武人志望な魂だったのね。『翻訳』を与える時は、ちゃんと学習リセットをした?」


「学習リセットとはなんだったかな?」


「私たちの特技は私たちの癖を学習しているから、与えるときにはその癖をリセットして与えないといけないのよ」


「そういえば昔研修でそんなことを聞いた気もするな」


「まあ、武人志望な魂なら、ダーリンのしゃべり方でも……いいかな? いいことにしましょうか。うん。あれ? ダーリン、魂はちゃんと記憶を消して赤ん坊として送った?」


「むっ」


「…………ダーリン。手伝ってくれるのは嬉しいけれど。もう一度魂の転生研修を受けてきてくれる?」


「そうだな。そうしよう」


「まあ、過ぎたことはしょうがないわよね。それに、ダーリンが気を使ってくれたことが嬉しいわ。ありがとう。愛してるわ」


チュっ


「はっはっはっ、おいおいそう抱き着かれると困ってしまうな。はっはっはっ」

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