-或る少年の物語- その7
「やっと出した言葉がそれかよ…人間かどうか疑われるの普通に傷つくんですけど…。まぁ人間じゃねぇかな。むしろお前が何者かの方がこっちは興味津々だって話だよ。」
少年は小言を吐きつつも返答する。
「あとお前ナイフ出しといて普通に殴ってくるの性格悪すぎんだよ」
「………」
魔人は言葉を吐いたと思うとまた沈黙した。少年は続ける。
「ナイフってんなら…、俺もこんなの使ってみようかなぁ?」
少年は笑みを浮かべながら右手から魔力を放出し魔人のナイフの形を模した状態で物質化する。
それは青白い光を帯びながら少年の右手に収まっている。
「来ないならこっちから行くけどいいよなぁ〜!?」
少年は地面を蹴り魔人に肉薄する。右手を振り上げ魔人の左肩から袈裟斬りにする軌道を描くが魔人はナイフで受け止めた。
ギィィンッッッッッ
と鈍い金属のぶつかり合う音が響き、何度かナイフでの斬り合いが続く。
(んー。なかなか武器使った戦いも面白いなぁ。)
少年はナイフでの肉弾戦をしながら思う。
ピシッ…
「!?」
魔人のナイフにヒビが入る。
「流石に俺の特別製の方が性能良さそうだなぁっ!?っっとぉ…」
少年は畳み掛けようとして足を止め後ろに下がる。
ボロッ…
少年のナイフも形が徐々に崩れてきていた。
(崩壊し始めたか…、思ったより早かったな。)
「魔獣とは訳が違う…か…」
少年は魔人を睨みながら呟いた。魔人も無表情の仮面越しに少年を見つめている。ひび割れたナイフを捨て魔人は懐から新しい黒色ナイフを取り出す。
(ストックがあるのか…、いやあれもあいつが魔力で作り出してると思った方がいいか。いずれにしてもまだ手の内がわからんな…。)
フッと少年が笑うと同時に激しい打ち合いが再開される。
ボロボロボロボロ…
打ち合いの中で少年のナイフは崩壊の速度が増していく。少年が自身のナイフに一瞬視線を落とした時…
「うおっ!?」
魔人の背後に魔法陣が展開され圧縮された魔力が少年の右の脇腹を抉り地面に真円の穴を開ける。
怯んだ少年に追撃のために右手のナイフで斬りかかるが少年はそれを左手で受け止めて右手のナイフを逆手に持ち魔人の脇腹を狙う。魔人は左手の肘でナイフを避けて少年の手を受け止めた。少年はニヤリと笑い受け止められた慣性を利用しナイフを鋭く投げた。
「ッッッ」
魔人は少年の左手の側部が物質化された魔力で覆われていることに気づき驚きつつも投げられたナイフを体を捻って交わす。
サシュッ
魔人のローブを掠るがナイフは外れ魔人の背後へと通過していく。
『発』
「ッ!?」
瞬間、魔人の背後で魔力が爆裂し魔人の背中を襲う。
「これで痛み分けって感じだなぁ?」
魔人を盾にし爆裂をやり過ごした少年の強烈な旋し蹴りが魔人の腹部に叩き込まれた。
「ゴフッ…」
魔人は威力を殺しきれずそのまま背後に弾け飛んで倒れた。
「ふぅ…殴り合いしながら魔力で攻撃するとかお前なかなか器用じゃねぇか…」
少年は脇腹を庇いながら魔人の方を見る。
魔人は仰向けに倒れながら動かない。
「おいおい、これじゃまだやられないのはわかってるぜ?」
問いかけるも魔人は動かない。
「まぁ動かないなら俺もやることあるけど…ね…」
少年は魔人の方を見つつ右手で空間を切り裂き亜空間の門を形成する。
ボリボリ
少年は座りながら自身の魔力塊を頬張り始めた。