-或る少年の物語- その6
わずかに蒼炎が残り、砂煙が徐々に晴れてくる大地に影が一つ…。
「せっかく大見得切ったのによぉ…。やっぱりなんも残ってねぇじゃねぇか。」
少年は言葉を虚しく吐き捨てた。
魔像を中心として半径300m程の森林が更地となっており、少年の異質な魔力に引き寄せられた魔獣達は1体たりとも生存していなかった。木々が鬱蒼と生い茂り、陽の光すら薄くなっていた場所に陽の光が差し、久々の直の太陽を少年は目にした。
「今朝だったのか。太陽ってこんなに明るかったんだなぁ。んー。ここからどうするかなぁ。もう大抵の魔獣は散々相手して飽きちまったからなぁ。まぁ、この森の全貌を確認したら街にでもいってみるか。」
少年は呟きながら森のさらに奥と思われる方向へ更地を歩き出した。
「なんだ…?この匂いは…。」
少年は異質な匂いを察知した。その匂いは徐々に強くなっていき、自身の背後に強烈な気配があることに気がつく。
「魔獣は残らず死滅したと思ったけど?」
少年は振り返り気配の方をじっと睨む。
陽光が照らす更地。不自然な黒い影が集積していく。影はやがて立体的になっていき人間のような形になっていく。漆黒のローブに身を包み、2mほどの身長。線は細めの人型の影。顔と思われる部分には無表情の白い仮面がついている。明らかに少年に敵意を示している強烈な殺気を放っていた。
「背後に出るなら、その殺気は隠さないとな?」
少年は笑顔で語りかける。
(魔獣じゃ…ない?獣って感じはしない。魔人…?しっかしとんでもねぇ殺気だな)
少年の額には笑顔と裏腹に汗がじわっと滲む。
「…………。」
魔人は何も応えない。魔人はローブの裏から黒色のナイフを取り出し、少年の視界から姿が消える。
「かなり早いな。」
少年が呟くと、背後から魔人の手刀が少年の首へ振り下ろされた。
「だから…。背後に回るならその殺気隠さないとダメっつったろ。」
少年は魔人の手刀よりも速く右足で魔人の腹部へ蹴り込んでいた。魔人は手刀をやめ、即座に蹴りを右手で受け止める。
「……。!?」
少年の右足が光を帯びる。魔人は受け止めている右手を離し退避しようとした瞬間
「それじゃぁ、躱せねぇなぁ。」
少年は邪悪な笑みを浮かべながら、受け止められた右足を蹴り抜いた。
瞬間、蹴り抜いた右足底から圧縮された魔力が放出され魔人の下腹部に直撃する。
すかさず少年は追撃に右手での突きを踏み込んで魔人の仮面へ叩き込む。
「・・・・・・・・・ッッッッッッッ!!」
魔人は顔を抑えて大きく後方へ飛び退き少年から距離をとった。
「一本ってところじゃねぇか?結構効くだろ。」
「・・・・・・」
少年は魔人へ語りかけるも魔人からの応答はない。
「あんまり黙りこくってるともう一発仮面にぶち込むぞコラ?」
少年は少しイラついた様子で再度仮面の魔人に語りかけた。
「オマエハナニモノダ…。ニンゲンデハナイノカ…?」
魔人はついに少年へその重い口を開いた。