-或る少年の物語- その4
「魔法の物質化…。初めてならこんなもんか?デザインはちと悪趣味になっちまったが…。」
少年は左手の魔像を眺めながら言う。
「さぁて、どんな感じになんのかなぁ?」
少年は邪悪な笑みを浮かべて魔像を自分の立っている木の幹に突き刺した。
一方で下の魔獣達も少年の魔力に釣られて集まり出しており、今では数十体もの魔獣が木の上の少年を赤い目でじっと睨みつけている。少年は魔獣達に視線を落とし、
『発』
少年は静かに魔法の言を唱えた。
瞬間、魔像は自動で魔法陣を展開し少年の眼下に群がる魔獣へ対して魔力の弾丸による掃射を開始した。
魔力弾は地面に軽く傷をつける程度の威力であるが魔獣に致命傷を負わせるには十分な威力があった。知恵のない魔獣達は魔力弾の餌食となり一斉に屍へと変わっていくこととなった。
「んー。これもまぁ初めてにしては上々だな。威力の調整も勘だったが悪くねぇな。」
少年は眼下の魔獣達が魔像からの魔弾掃射により一掃されていくのを一頻り眺めたのち、空へと視線を移した。
「俺の肩に傷つけてくれてよぉ…。おめおめ生かして帰すわけねぇよなぁ?」
少年は鳥型の魔獣達を睨みつけてつぶやいた。だが、言葉とは裏腹に先程の魔力塊を取り込んだ際に魔力による肉体の再生能力の向上が肩の傷を既に癒していた。
少年は右手に魔力を込めた。魔力は少年の掌で物質化され雷を帯びた槍のような形になる。
「お返しだ。思う存分楽しめやクソ鳥ゴラァ!?」
少年は木の上から跳躍し、さらに頭上を滞空している鳥型魔獣達に照準を合わせる。
鳥型魔獣達は突如として現れた獲物に対して即座に臨戦態勢を取り、羽を黄色に光らせ始める。
「魔獣が一丁前に魔法を使ってんのか…。まぁ関係ねえけど、なぁ!?」
少年は槍を魔獣達に向けて投擲した。槍は高速で鳥型魔獣へ飛来していき遠距離攻撃を想定していなかった鳥型魔獣の胴体を貫いた。
「ギィッ!?」
胴体を槍で貫かれた魔獣は力なく高度を落とし始める。規則正しく並んで滞空し、索敵していた鳥型魔獣達はパニックになり攻撃を受けた味方の魔獣から距離を取ろうとさらに上空へ飛翔しようとした瞬間…
『発』
槍から高密度の魔力が放出され青白い魔力が駆け巡り空中の周囲一体を球形に飲み込んだ。
飛翔しようとしていた鳥型魔獣達は跡形もなく消し飛んでいた。
「物質化した魔法に別の魔法を組み込むこともできたな。こっちもなかなかいい感じだなぁ。不意打ちかましてきたボケぶちのめせて一先ずは満足だな。」
少年は落下しながら自身の魔法のできに満足していた。
物質化した魔法へ別種の魔法の付与。これもすでに高度な魔法の域を逸脱した神業に等しい技術だが、少年の起源魔法がこれを可能としていた。しかし自分以外の魔法を使える存在を鳥型魔獣以外で遭遇した事のない少年は未だ気づく事はない。
「よっ」
手から魔力をロープのように伸ばし巨木の枝に巻きつけ着地し、魔像を突き刺した木の地点に再び少年は戻った。
巨木の幹に突き立てた魔像は魔力の減少により半透明になり消えつつある。
魔獣は魔像からの自動魔力弾掃射を受け群れの大半は屍となっていた。辛うじて生き残った魔獣は既に片手で数えられる程度しか残っていなかった。
「もう魔像の魔力も残ってないか、まぁ下も大体片付いたしこいつもお役御免だな。」
少年は魔像を引き抜くと魔獣の生き残りがいる方へ投げた。
魔獣の目の前に落ちると魔像内の残りの魔力が放出され半径5mほどを爆炎が包んだ。
「これでひと段落だな。さぁて、俺が相手してた魔獣の調査でも敢行するかなぁ。」
少年は目下に広がる夥しい魔獣の死体を見て笑った。対象はなんであれ少年は齢15であり、無邪気で好奇心旺盛な年頃でもある。それがたとえ、魔獣の死体に対象が向いたとしても…。
「ひでぇ匂いだな…。どれどれ…。」
少年は手頃な木の枝を見つけ魔獣の死体を傷口から開いていく。無差別に攻撃を受けた魔獣の死体はかなり状態も悪い。素人目では魔獣のどの臓器がヒトのどの臓器に当たるのかは皆目検討もつかない。しかし、調べて行くうちに、綺麗な魔獣の死体を数体発見した。どの死体も、眉間に当たる部分や体幹の中心を一発だけ魔力弾で撃ち抜かれている。
「この綺麗な死体は…。流石の魔獣も頭を撃ち抜かれる死ぬみてぇだな。次からは効率的に倒せそうだ。腹の方を撃たれた魔獣はなんで一発で死んでんだ?」
少年は腹を撃ち抜かれて死んだ魔獣の傷口を探り始めた。数分ほどで魔獣の体の中心から綺麗な結晶を発見した。結晶は水色で縦長の八面体の構造をとっており中心に穴が空いていた。
「綺麗な結晶だなぁ。魔力弾がたまたまこの結晶を撃ち抜いて魔獣は絶命したってことなんかな。わかんねぇけど、魔獣には確かにヒトの心臓と似たような核になる部分があるってことか。腹を撃ち抜かれて死んだ魔獣は3体。誤差はあれど、いずれも体の中心ってところか。わかりやすいけど狙いずれぇな…。」
考察が一通り終わったところで少年の腹がなった。ここで少年は魔獣の群れとの戦闘で食事を取れていないことに気づいた。
「おっと、腹減ったなぁ。飯つってもここら辺じゃ…。いや、いけるか…?」
少年の額に汗が流れる。これからこの魔獣の死体を食すかもしれない現実を冷静に考えていた。
「鳥の魔獣の方が食うんだったらよかったなぁ。」
少年は鳥型魔獣を滅殺したのはやりすぎだったと後悔したのだった。




