-或る少年の物語- その2
「なぁんも出てこねぇと暇だなぁ。魔獣でもなんでも出てきてくれればいいのによぉ。」
少年は一人ぼやく。多少なりとも自分の破壊欲を満たせると期待して森の奥地にきたわけだが、未だ魔獣と思われるものに出くわしてはいなかった。
村を出てから2-3日が経過しようとしている中、わかったことは森の奥地に行けば行くほどに日が通らなくなり薄暗さが増していくことであった。
「まぁ、植物食って魔獣の成り損ないみたいなもん食ってるから食料には困らないけどよ。味はとんでもなく不味いんだが…。」
少年は先刻仕留めた獣の肉を食しながら続けてぼやく。
しかし、少年のぼんやりとした時間はすぐに終わりを迎えた。少しずつだが、未開の森林地帯が少年へ牙を剥き始めていた。
「ん…?なんだこの匂い?割と近いな。あんまいい匂いじゃなぇな。」
少年も人一倍きく嗅覚から異変を即座に察知した。匂いが強くなる方向をじっと見つめ、魔力を右の掌に集め臨戦態勢をとる。
「こんなところで匂い出すやつなんて間違いなく魔獣ってやつだろうな。ようやく遠慮なくぶちのめせるやつが現れたってわけか。じゃぁよぉ…。」
少年は匂いの方向に照準を合わせる。
「消し飛んでみろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
少年はありったけの魔力を匂いのする方向に放出した。紫色の炎は少年の目の前を一瞬にして焼き尽くし激しい轟音が森の奥地に響き渡る。匂いを発していたであろう魔獣は右の半身が丸ごと消し飛んだ形で少年の眼前に姿を現す。
「グルルゥ…」
敵意を残した真っ赤な眼差しを少年に向けながら魔獣はゆっくりと倒れ伏した。少年は初めて自分の破壊欲のみで生命を奪った。しかし少年の心はさして動くこともなかった。
「こんなもんか。特に感動ってものもないな。初めてってのは何においても期待を超えてはこないって本に書いてあったしな。」
少年は魔獣の死体を眺めながら呟く。魔獣は四足歩行を行うと思われる風貌をしていた。体毛は焼け焦げた可能性もあるが黒色であり、鋭い爪が前脚には見てとれた。初めて見る魔獣の死体を観察し、今後の戦闘時に役立てようと少年は考えていた。瞬間、少年の嗅覚が先刻の匂いとは比べ物にならない数、濃さの匂いを感知する。
「おいおい…。いくら魔獣をぶちのめしたいって言ってもよぉ。ここまでの数がいきなり来るとは思わねぇだろ…。」
先程の轟音に釣られて、そこかしこから夥しい数の魔獣と思われるものの匂いが少年目掛けて迫ってくる。
そこからは少年と久々に人間と思われるものの魔力を察知した魔獣達の壮絶な戦いが始まった―――。