-或る少年の物語-
生まれた頃から人より強かった。
魔力の扱い方なんて人に教わらなくたってわかった。
ただ、魔の力なのだからと壊すためだけにその力を使った。
いつだって自分の手の中には力があった。それだけで十分だった。
周りの人の静止なんて聞かなかった。何より力を誇示するのが楽しかった。
「これだから魔法はやめられねえよ。何もかもが簡単に壊れていきやがる。」
少年は壊れた家屋を見て満足気につぶやく。
「もう少し出力をあげたりとかしてぇよなぁ。」
「出ていってくれ。」
少年の生まれた村の長が蓄えた白い髭に手を添えながら苦悶の表情を浮かべて少年の背後から語りかけた。
「まぁ、そうなるわな。こんだけいろんなもん壊してたらそろそろ言われる頃かなと思ってた。」
少年は落ち着いた様子で振り向かずに長に応えた。少年も自分の力をこの村が持て余していることを理解していた。
村の入り口に捨て置かれた子供。身寄りもなく、彼を庇う者など一人もいないだろうこともまた、少年はわかっていた。
「でもいいのかい?まだ成人していない少年を追い出すなんて村の外に知れたら大ごとだぜ?それにきっと、俺は今後もやること変わらないだろうしよ。」
少年は特に何も考えずに思ったことを口にした。
「お主を取り締まれるもっと適切な街や都市がある。そこにいってくれぬか?ここではもうお主の面倒を見ることはできぬ。近隣の村から壊れた家屋を修理する資材を調達することもそろそろ厳しいことになってきた。お主のおかげで儲かった奴もいるかも知れんがな。」
長は苦しい表情を変えずに少年に伝えた。
「あぁ、そうかい。捨て子だった俺をここまで育ててくれたことは感謝してるぜ。あんたはきっといい人だ。あと迷惑かけたことは申し訳ないと思ってるぜ。でもどうしてもこれはやめられねぇや。」
少年は正直な感謝の気持ちと謝罪を口にした。そして、少年は村の出口の方へと歩き出した。
「お主のその言葉、もう少し早く聞きたかったぞぃ。何も持たずに行くのか?」
これ以上村の損壊を悪化させなくて済むことへの安堵感と想像した以上に少年が素直に自分の要望を受け入れたことに対する驚きと、少年の今後を気の毒に思う憐憫と…。
さまざまな感情を抱えて長は少年の手ぶらで歩き出す背中に声をかけた。
「あぁ。何か欲しかったら多分自分でどうにかできそうだし。」
少年はやはり振り向かずに歩きながら片手をあげて長に応えた。
そして、何事もなかったように村を出た。
周辺を森林地帯に囲まれた村は豊かな自然と共生することでその運営を行なっていた。
森林地帯ではたびたび人を襲うような魔獣も報告されており、森の実りで人々の生活を豊かにすると共に、奥地は未だ開発の進んでいない危険地帯でもあった。無論、周辺の村々も森の奥地へ行こうとするものはいなかった。
しかし、およそ暴力しか持たぬ少年が大人しく街や都市へ行くこともなく。少年は未開発の森林奥地へと歩を進めるのであった。