第十一段:國見祭に行こう!(一)
一
本日の「おやすみ前の一冊」は、五つ星をつけたくなる傑作だった。よんどころない事情で虚無僧に扮する岡っ引きが、理詰めで下手人をお縄にかけてゆく小説だ。特に、第三章「汝、人を殺すなかれ」は頁をめくる手が止まらなかった。下手人のキリシタン婦人が犯した罪は罰するが、戒律を破ったことは許した。
「『なぜなら、あなたは神に仕える前に女性なのですから』か」
うん、まったくもって、ニクい。岡っ引きの三介さん、今度の寸劇で使えるかも。続刊が待ち遠しいなあ。
「ん?」
本棚の上に置いていた携帯電話の窓に、丸い光が点滅していた。メールを受信したようだ。
「夕陽ちゃんだ」
課外活動用の通信機に、メッセージ機能もあるんだけれど、文字数が限られているし、画面を触って打ち込むのがうまくできなくて敬遠しているんだよね。さて、どういったご用件でしょうか。
件名:夜分遅くにごめんね
本文:ふみちゃん、明日の國見祭、一緒に行きませんか(>_<)? 萌ちゃんもええかな? 10時にNR空満駅の改札前に待ち合わせでいいですか?
國見祭は、私が通う空満大学の学祭だ。去年は、入学したてで講義の課題やアルバイトの要領が悪くて忙しかったから、遊ぼう! どころじゃなかったんだよね。今年は、課外活動で出会った仲間と行こうって話になった。アルバイトは前もって休みを入れておいた。近所の本屋「石上書房」なんだけれど、営んでいる老夫婦が「大丈夫、明日も明後日もお客は指で数えられるよー」と快く受けてくれた。その代わり、しあさっての祝日は全日働くと約束した(ゆっくり旅でもしてきな、なんて言われたものの、けじめはつけておきたい私なのだ)。よし、返信だ。
件名:Re:夜分遅くにごめんね
本文:大丈夫だよ(^_^) 明日の10時ですね、行きます!
顔文字の適切な用法が、全然つかめていない。なんとなく、このあたりかな? って打っているけれども、まあ、送る相手が嫌な気持ちになっていないのだから、間違ってはいないのだろう。
明日の持ち物と、服装を確かめて、消灯。学校以外で友達に会うのは、いつぶりだったっけ。今、鏡を見たら、口角が上がっていると思う。たぶん。




