第十段:庭の七竈(一)
一
好きなストーリーは、夢のあるストーリー。不思議な世界のお話。ほんわかあたたかくて、読んだ後、お風呂にのんびりつかっている気分にさせてくれるのがええんや。
苦手なストーリーは、現実の暗い部分を描いたストーリー。誰も幸せになれないストーリー。結末を乗り越えたら、果てしなく広い荒れ地にぽつんとおるような、寂しい気分になる。そんなんは、つらいわぁ。
うちがストーリーを作るとしたら、やっぱり夢がつまってて、皆が面白いて思える、元気がわいてくるものにする。カーテンコールに、主人公、脇役、悪役が手と手つないでニコニコして出てくるんが、理想やわ。せやから、日ごろあった事をひとつもこぼさへんように、記憶の海に沈めていくんやよ。いつか、ストーリーを書く時のために。海の底の、真珠の取っ手がつけられたサンゴのキャビネットに、沈めた思い出がしまってる。どれもこれもキラキラしてて、カラフルなんやよ。開けたら、胸がときめいてしまう宝物ばかり。そのなかには、イヤやった事もあるけど、キャビネットにしまったら光りかがやくんやわ。あはは……、イメージするだけでもはしゃいでまいそうやわ。
うち、作家になるんが夢なんや。家族からは、冗談半分で「食べてかれへん」とか「浮ついてるんちがうか」て言われるけど、あきらめへんねん。うちはあの人みたいに、誰かの心に響く文章を作りたいんや。うちに、笑顔になれるおまじないを教えてくれた、あの人みたいに。




