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第五段:鯉しなば(四)

※登場人物の言葉に、一部現代に不適切な呼称・表現がございますが、当人にとっては悪意無き使用のため、そのままにしております。

     四

 トコ、どうなっちゃったんだな……? んと、なっちゃんにノートを届けにいこうとして、田原本さんに会ってヤなカンジになって走ってたら、なっちゃんのサークルの先生にぶつかって、バラバラ~になっだヌシさんの絵を、先生が拾っでなんか叫んで、光っで、くらくらしで……。

「ここ、どこなんだな?」

 今、トコがいるとこは、ぼんやり暗~い静かなとこ。ときどき泡がわいでて、緑っぽいふわふわしたほこりみたいなんが浮いてる。ぬるいけど、ちょっどだけ冷たいんだな。水の中にいるカンジなんだな。なんで、こんなとこに来たんだろ?

「学校らへんにいだのに……?」

「あらやだん、新入りさんかしらん?」

 ハっ! 誰かいんの? 声がした方を向いてみだら、一匹のお魚さんがヒレをゆらゆらさせて、トコを見てたんだな。

「あなだは……?」

「あたくし? あたくしはねん、コギ子よん」

 口の両端に、長~いおひげを一本ずつ生やしてるお魚さん。体の色は、あんましきれいっていえながった。黄色っぽいんだげど、なんか汚れでて、さびてるカンジだったんだな。

「あんたはニューカマーだけどん、こっちはニューハーフなのん」

「は~」

 お魚さん、変わったしゃべり方してるんだな。オジさんみだいな声で、オバさんみだいな言葉づかいなんだな。ニューハーフっでことは、オカマさんなのか~? あれ? お魚さんてしゃべれるん? トコ、なんかワケ分かんなくなったんだな!

 トコ、状況がつかめなぐって混乱してるのに、お魚さんは全然気にしてないでおしゃべりを続けてたんだな。

「人間には『鯉』と呼ばれてるけどん、そういう言い方はノーなのねん。一つのカテゴリーにくくられるのん、あたくし気に入らないのよん。名前で呼んでほしいわん。だけどん、人間にはあたくしの言っていることが通じないからん、やきもきするのよねん。最近ではん、『ヌシ』と呼んでくれるコがいるのよん」

「ヌシ!? あなだがあの、ヌシさんなんだか!?」

 たんまげたんだな! まっさか、目の前でペラペラお話してるお魚さんが、あのヌシさんだったなんてさ。ヌシさん、「そうよん」て誇らしげにヒレをふったんだな。

「なっちゃんが毎日見に行ってるって、大好きだって言ってたんだな!」

 大好き、のとこで、ヌシさんはおひげとシッポをピンって立てたんだな。

「いやん、あのコ、なっちゃんというのねん。カワイイ女の子よねん。特に、あの頭の横らへんから飛び出てるポニテ、イケてるポイントなのねん、芸術よねん!」

 わ~! なっちゃんのこと、よ~ぐ見てるんだな! トコ、ヌシさんと気が合いそうなんだな。

「んだ、んだ! なっちゃんといえば、ポニテなんだな~!」

「共感してくれるなんて、うれしいのねん。なっちゃんはねん、いつも来てくれるたびに、ごはんを持ってきてくれるのよん。『ヌシ、いっぱい食えよっ』とねん。雨や雪の日は、葉っぱをかぶせてくれたのよん。あたくし、胸が熱くなったわん。元気で、とても心優しいコなのねん。あの類の人間に会えたのん、久しぶりだわん」

「そだよね! なっちゃんは、思いやりのある子だよね!」

 ヌシさん、なっちゃんのいいとこすんげく分かっでるんだな。

「なっちゃんは、コワい子じゃないんだな。正直で、笑った顔がかわいぐて、風のよに走っでくカッコいいヒロインなんだな!」

「あんた、なっちゃんのこと、大好きなのねん」

 ヌシさんが口をパクパクさせて、ゆっくり宙返りしたんだな。

「んだ。トコ、なっちゃんとお友達になりたぐて、なりだくて……」

 のどの奥が、キュンて締めつけられたんだな。

「なりだいのに……!」

 目の周りがら、熱いもんが流れたんだな。お池の水と混ざって、すぐぬるくなるんだげど、コレ、トコの涙だったんだな。

「……っ、どしたら、お友達に、なれるん? トコ、バカだがら、なんにも、思いつかないだよ……」

 ダメだ、涙がどんどん出てくるんだな。止めないど、止めないどって抑えよとすればするほど流れてっていぐんだな。このままじゃ古池がトコの涙池に変わっちゃうだよ……。

 泣くのをこらえよどしでたら、ヌシさんが考え事しでるよに、くちびるをぐにゃって曲げたんだな。

「お友達になるためには、何かしないといけないのん?」

「えっ」

 意外なこと言われで、涙が引っこんだんだな。

「あたくしはねん、そうじゃないと思うのよん」

 ヌシさんが、んふふんって笑ってたんだな。ウソじゃないんだな。お魚さんにも、表情があるんだな。しがも、心に余裕があるよな笑い方だったんだよ。

「出会ったらもう、お友達なのよん。この広い世界で、限りある生涯の中で、会えたってことはん、その人と縁があったということなのよん。ということだからん、あんたとなっちゃんはん」

「とっくに、お友達になっでたんか?」

「そうよん」

 しっぽを大きく左右に揺らしで、ヌシさんは、んふふふんってハミングしてたんだな。

「あたくし、生きてていろんな出会いがあったわん。お仲間にん、人間にん、鬼や幽霊にん、神様にもん」

 そう言っでから、急にヌシさんはおどなしくなったんだな。

「でもん、その数だけお別れもあったわん……。一番悲しかったのわん、お仲間との別れよん。寿命が尽きたのはしかたないことだけどん、流行り病や戦で次々に死んでいったのわん地獄だったん。生まれたばかりの子どもたちがバタバタとむなしくなってねん、声にならない叫びをあげたわん」

 ヌシさんが、ため息ついたんだな。ため息は、いぐつかの泡になっで上がっていっだげど、すぐにこわれちゃったんだな。まるで、命がはかないってことをを教えてくれでるみたいだったんだな。

「そうしているうちにん、池にはあたくししかいなくなっていたわん。どれくらいの時間が経ったのかしらねん……。忘れてしまったわん。寂しさもいつのまにかどこかへいってしまったみたいん」

 トコ、胸がつまったんだな。何ていえばいいんだろ、かわいそだなっていうつまりじゃなぐって、もっど複雑なつまり……う~、ぴったり当てはまる言葉がないんだな。

「ヌシさん……」

「いいのよん。今ではなっちゃんがあたくしのお友達だからん。それにん、あんたもいるからねん」

 ヌシさん、トコの思ってること察してるよってカンジでにんまりしてたんだな。まぶたがあっだら、きっとウインクしてたはずなんだな。んで、胴体か腰かよぐ分かんないけど、体のまんなかをくねってしたんだな。

「一度出会えば、お友達。いいかしらん? あんたとなっちゃんはん、何もしなくたってお友達なのよん」

「んだ! ヌシさん、ありがとうなんだな!」

 すっきりした~! ヌシさんのおかげで、トコん中にうずまいてたもやもやが消えてったんだな。こんで、自信持ってなっちゃんに会いにいげる!

「おじゃましましたなんだな!」

 まだお別れしたぐないんだげど、帰るんだな! 早くノート、届けなきゃいけないもんね!

「だめん、行っちゃだめよん」

「んだ?」

 どしたんだな、ヌシさん? ヒレで手まねきしで、戻っできてってしてるんだな。

「あんた、まさかとは思ってたんだけどん……」

 ヌシさん、おなかの横から、ピッ、ピッ、ピッ! ってなんかをむしり取ったんだな。んで、取ったやつをちょっといじくって、トコに差し出してくれたんだな。それは、うろこだったんだな。三枚のうろこが、すきまなぐ重なっで、だえん形に整えられてたんだよ。ヌシさんの体から取ったもんとは想像つかないぐらいのきれいな金色で、光が届いてないのに、反射してきらきら光ってたんだな。

「これで自分の姿を、よおく見てん」

「…………!!」

 うろこの鏡に映っでたんは、トコじゃなぐて、ヌシさんのそっくりさんだったんだな……って、え? え! え~!?

「トコ、鯉さんになってるんだな~!!」






 信じらんないことが起きちゃっただよ。トコ、鯉さんになっちゃったんだな! なんで、なんでなんだな!?

「あんた、やはり人間だったのねん……」

 ヌシさんが、「最悪だわん」ってうなだれちゃったんだな。

「どしたら元に戻れるんだな!?」

「申し訳ないんだけどん、あたくしにはとてもん……」

 ヒレで頭をおさえて、ヌシさんは残念そにひげを垂れたんだな。

「あんた、(まじな)いをかけられたのねん。それもん、とてつもなく強くて厄介なものよん。軽ければん、あたくし自慢の法力(ほうりき)で解いてあげられるのにん」

「そんな~……」

 古池のスーパーイケメン・ヌシさんでも、ムリなんか……。トコ、呪われるよなことしてないだよ。もしかしで、なっちゃんとこの顧問の先生だか!? 体を光らせてたんは、(のろ)いをかけるためだったんか!? いんや、あんの先生は根に持つタイプじゃないと思うだよ。ああいうんは、去年卒業した八木(やぎ)先輩でたくさんなんだな。

「下手人を付き止めることもいいけどん、解き方が見つかるまでわん、しばらくその姿で生きていくしかないわん。大丈夫よん、あたくしが手とり足とり教えてあげるからん。ねん?」

「そ言われでもさ……」

 前向きに考えなきゃいけないんは、分かってるだよ。だげど、このままなっちゃんに会えないんはイヤなんだな。トコ、ドロ沼にはまった気分なんだな……。

「どろどろしょぼぼんなんだな…………」

「いやん、そんなにしょげないのん。けっこう楽な暮らしよん。ほらん、気分を入れ替えてあたくしとお散歩しましょん!」

 ヌシさんに誘われるがままに、古池をぐる~りと泳いでみたんだな。はじめはノリ気じゃながったげど、底とか、周りにただよってるやつとかみてぐと、もっどいろんなとこ泳いでみだくなっできたんだな。

 古池って、空高の裏庭にあるちっさな池、だけで片づけられるもんじゃなかったんだな。

 あっちこっちに、お宝が沈んであっただよ。例えばね~、古びた柱! ヌシさん情報だと、昔ここらへんに神社が建てられてたんだってさ。池の中に鳥居があっで、立派な神社だったんだげど、争いに巻き込まれで壊されちゃったそうなんだな。その鳥居の一部が、奇跡的にこんな形でのこされたんだよ。朱色がはげちゃってるけど、空満の歴史を物語ってるんだな。

 他には、碁盤が埋まっでたり、破れまくりの障子が倒れでたりしてたんだな。神社のそばに誰か住んでたんかな? その住んでた人は、ヌシさんと遊んだことあっだんかな? あっだかもしんないだね!

「お池の中っで、けっこう広いんだな~」

「でしょん?」

「なっちゃんにも見せてあげたいんだな」

 いつも古池をのぞきに行っでるなっちゃんでも、中がどうなってんのかは知らないはずなんだな。連れてったら、きっとなっちゃんたんまげるんだろな~。

「いつかできるといいわねん」

 ヌシさん、そ言って優しぐ笑ったんだな。そんでから、遠くを見てたんだな。古池って、先や周りが真っ暗で、何があるんか泳いでみないど分かんないんだな。よぐこんな寂しいとこに独りで住んでるんだな。

「トコちゃん」

 少し進んで、ヌシさんが止まったんだな。

「んだ?」

「鯉として生きてゆく上で、大事な約束があるわん」

 神妙な顔をしで、ヌシさんはズイってトコに近寄ったんだな。ひげの先があたってくすぐったいんだな。だげど、ここはガマンなんだな。

「どんだけ空腹で苦しくてもん、釣り針だけには引っかからないようにするのよん。ときどき池にん、おいしそうなにおいがするごはんが入ってくるのん。絶対に食べちゃだめよん! あれはトラップなのん。針が隠されているからん、食べたら最後、人間のお腹の中で成仏することになるわん」

「ひ~」

 トコの悲鳴に、ヌシさんは「うふふん」っておすまししたんだな。

「怖がりすぎてもいけないわん。食べないようにしなければいいのよん。そうすれば、好きなだけのびのびできるからん」

「はいなんだな! ……あ」

 胃ぶくろらへんから、ぐきゅ~ってマヌケでおかしな音がしたんだな。帰りに走ったがら、お弁当カロリーがあっという間に消費されちゃったんだな。今日のおかずはミックスベジタブルが主役で、あっさり系だったもんね。やっぱし肉じゃないともたないんだな。

「おなかすいたんだな……」

「あらやだん、ごはんの話したからかしらん。ちょっと待ってなさいん、適当に草でも取ってくるからん!」

 トコの反対方向にターンして、ヌシさんはものすんげ~素早さですっ飛んでったんだな。

「すいませんなんだな~……」

 次からは、自分でごはんを探しにいかないとなんだな。今日が初対面だげど、ヌシさんにはお世話になったんだな。

「鯉さん生活、これから頑張るんだな」

 お父さん、お母さんには心配かけるけど、トコ、しばらくは古池でたくましく生きるんだな。へっちゃらだよ、だって頼りになる大先輩がついてるもんね。

「んだ……?」

 なんだろ、どっかから香ばしいにおいがするんだな。アツアツできたての食べ物ってカンジなんだな。

「こっちかな」

 トコ、い~いにおいのする方へ泳いでいったんだな。んだら、そんなに遠くないとこににおいの元があったんだよ。上に浮かんでる丸~いもの!

「おいしそうなんだな……」

 肉団子かな? つみれかな? たこ焼きでもい~んだな! とにかく食べれるもんならなんでもオッケーなんだな! トコ、激はらぺこなんだよ!

「ちょっどくらいなら、いいだよね」

 んだ。一口食べたらソッコー逃げればい~んだな。針にひっかけなければ問題ナシなんだもんね。トコ、反射神経あるがら大丈夫!

「いただきますなんだな~!!」

 トコ、思いきって、だんごにかじりついたんだな! お……おいし~んだな!! 素材のうまみを活がしだ塩ベース! 油がしつこくなぐって、かみしめるたびにエキスがあふれてくるんだな。なんの肉なんかな? でもおいしい! そだ、ときどきシャキシャキしたもんが入っでくるげど、コレはみじん切りしだキュウリ、隠し味なんだな! 一口分だけ食いちぎってダッシュするはずだったんだげど、すんげくおいしくっで、止まんなくっで、一口だけじゃ終われなくなったんだな。ぜんぶ食べたくなっできただよ! おいしい、おいしい~って、調子に乗っで食べでたら、

「よっしゃっ! 一発成功っ!!」

「ハっ!?」

 トコ、外に引っぱり出されちゃったんだな! しまっだ、トラップにかかっちゃったんだな!! たんまげたこどに釣り上げたんは、トコが一番会いだかっだ……

「さすが(あお)(ねえ)特製の『即席激スゴ釣り竿』だなっ。さお竹とタコ糸にちょいとメカ足しただけで、レーダー付きの高性能釣り竿に早変わりよっ!」

 ……なっちゃんだったんだな。しがも、胸のあたりに黄緑のでっかいリボンを結んでて、すそにおんなじ色のフリフリがついだ、濃~い緑色のカワイイ制服みたいなんを着でたんだな。

「おーい、黄色。獲物つかまえたぞーっ」

 なっちゃんが、振り返っで手招きしてたんだな。呼ばれた人は、そんなに離れてないとこから、

「はいなぁ」

 ってやわらか~い返事しで、おっきい胸のメガネお姉さんが、タッ、タッ、タッ、ってこっちに来たんだな。なっちゃんと似たよなデザインだげど、ロングのひだスカートはいてたんだな。

「よかったぁ、無事やったんやね」

 メガネお姉さんじゃなぐて、黄色お姉さんが、トコの前でほっとした顔したんだな。そんで、宙ぶらりんになっでたトコを釣り糸から外しでくれたんだな。針があんましとがってなぐて助かっただよ~。

 でも、安心してる場合じゃながったんだな。黄色お姉さんは、トコを逃がしてくれると思っだら、そばにあっだ板の上に寝かせられたんだな。横向けにされで、右半身が板につけられちゃっでるんだよ。これがらトコ、どうなるんだな!?

「これが、まな板の上の鯉……ですか」

 なっちゃんと黄色お姉さんのとこへ、また誰か来たんだな。片目をフル回転させで使ってみだら、なっちゃんの親戚さんだったんだな。この人も、なっちゃんたちの色違いの服を着てたんだな。青色ってことは、この人が「(あお)(ねえ)」さんなんか。

 トコ、なっちゃんたちにむちゃくちゃ見られてるんだな……。嬉しいよな嬉しくないよな…。だって、まな板に乗せられてんだよ!? 考えたくないけど、トコ、もしかするど、もしかしで……。

「わりとフツーなカンジだよな」

「でも、危機感、ない……です」

「そりゃこいつ、こーみえても元人間だからだろ」

「そう……ですか?」

「おうよ」

「人でも、この状況は、危機……」

「むう、言われてみりゃそーだっ」

「この人、鈍感……ですか?」

「鈍感だったらエサに猛スピードで食いつかねえだろ」

「……です」

「ブルー先輩、グリーン、長話のところ申し訳ないんですが」

 頭をくっつけあっで話してだなっちゃんと親戚さんに、黄色お姉さんがメガネを両手で上げながら中断させたんだな。

「レッドの情報からして、今回の安達太良先生現象は『雨月物語』の『夢応の鯉魚』です。鯉になった人を元に戻すには、ひどいかもしれませんけど、あれをやるしかないんですよぉ」

 トコ、つばを飲み込んじゃっただよ。あれ、って何なんだな!? ひどいことって、やっぱし……!

「要するに、さばく……ですね」

 さ・ば・く!? 親戚さん、今さらっと言ったけどさ、それ、切られるってことだよね!?

えっ、えっ、トコ、コロされるんだか~!?

「そうですぅ。やけど、うち、さばくん得意やないんですよぉ」

(わたくし)も……です」

「ごめんやけど、グリーン、お願いしてええ?」

「合点承知っ!」

 ちょちょちょ、ちょっどちょっど!! マジでする流れになってるんだな! しがもお魚さん目の前にしで「さばくん得意やない」ってのは、失礼だと思うんだげどさ~! これトコじゃながっだら、成仏できないで祟ってるだよ!

「黄色、いっとくけどよ、あたし、料理には自信あんだよなっ! 三枚おろしぐらいなら朝飯前よっ!」

 なっちゃん、ありがとうなんだな~!! ……じゃなかっだ、そんだらトコの命がキケンなんだよ! そんな自信まんまんに言われでも困るんだな。トコが食べる側だったら、頼もしい言葉なんだげど……。

「さて、どうすっかなー」

 なっちゃん、黄色お姉さんに渡されだ包丁をおもちゃみだいに振り回しでるんだな。

「焼き魚だろ、煮魚だろ、つみれだろ、カルパッチョだろ……。刺身にすんなら、ワサビとしょう油は絶対必須だろーなっ!」

「こいこくが、いい……」

「けどよ、一匹を六人で分けるって無理難題だよなっ。赤には、まゆみの介抱の礼で多めにするとして、あとは適当に切るかっ」

「こいこく、食べたい……」

「おかしらはまゆみ、そっからしっぽにかけて、赤、青姉、黄色、あたしだろ……あ、五人分になっちまうな。けどま、緊急事態っつーのに再テスト受けてるバカあきこには、骨やれば上等ってか」

「こいこく……」

「二人とも、えぇ加減にしてくださいよぉ!」

 また黄色お姉さんが止めに入ったんだな。

「グリーン、ざく切りでもみじん切りでもなんでもええから、早よさばいてくれへん? いちおう共同研究室からお借りしてるんやからぁ」

 って注意しで、黄色お姉さんは、マジメにやれー! ってカンジにほっぺたふくらませてたんだな。

「ったくよ、巨乳のわりには気は小せえよな。おうおう、切りゃいーんだろ、切りゃ」

 なっちゃん、肩をすくめたんだな。持ってる包丁の先が、すんげく恐ろしげに光ってるんだな……。

「よっしゃっ」

 気合を入れでから、なっちゃんがトコの真っ正面にしゃがんだんだな。そんで、左の手でトコの頭を押さえこんで、申し訳なさそなカンジでこう言ったんだな。

「鯉、わりいな。これもバッテラまゆみのせいだ。ちょいとばかしガマンしてくれ。安心しろ、てめえはあたしらが救ってやる」

 目をふさがれで声しかひろえなかっだげど、なっちゃんがどういう表情をしてるんかは、見なくでも分かったんだな。もう、いいだよ。

「いくぞっ、一刀両断っ!」

 この先に待ってるこど、トコ、一瞬で想像しちゃったんだな。刃が体ん中にえぐってきで、痛いんと一緒に黒っぽい血がピッてふいて、裂かれでいくんだよ。トコ、何等分かにされで、なっちゃんとお姉さんたちにおいしく食べてもらっで、成仏させられるんだな。

ヌシさん、約束破ってごめんなさいなんだな。でもトコ、なっちゃんにお料理されで食べられでもヤじゃないだよ。……ホントは、人間に戻って会いにいきたかっだげどさ。



























 バイバイなんだな、なっちゃん。











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