第四段:ねてもさめても(四)
四
図書館での戦いを終えて、うち達スーパーヒロインズ! は食堂へと向かってたんや。
「ふう、まったくもって疲れちゃったよ」
「大和さんたら、ふらふらね。授業大変だったの?」
「いや、そんなんじゃないんですけど」
「そう? さっき、夢で大和さんが、ふみかレッドになって大奮闘していたのよねー。桜が満開で、幻想的な世界だったのよ」
「へ、へえ」
あらま、ふみちゃん、汗かいてるわ。先生が見てはった夢がほんまやったなんて、言われへんもんなぁ。安達太良先生は、不思議な事が起こったら眠ってまうんやけど、その時にうち達が戦ってるところを夢として見てるんやよ。眠ってもうたら不思議な事が起こるんかもしれへんけど、卵が先かにわとりが先かゆう話になるなぁ。謎めいてるわぁ。
「萌子ハ二限ハードだッタんスよ。日文ノ基礎演デまサカのテストがアッたんデス☆」
「あー、翻刻の小テストね。時には抜き打ちでやらないと、お手並み拝見できないでしょ。与謝野さんは、ちゃんと身についているかしら。来週返すから、楽しみになさいな」
「ハイ。萌子、本気デやリまシタよ! 翻刻愛、大放出シタっス。必修落トスわけニハいかナイっスカラ☆」
てへへー、て萌ちゃんが舌を出して笑いやった。戦いでは桜を怖がってて、口をきかれへんかったんやけど、またしゃべれるようになったんやね。良かったぁ。
「さ、今日は私のおごりよ。遠慮なく好きなものを頼みなさい!」
『ラジャー!』
安達太良先生にごちそうしてもらうんかぁ。めっちゃラッキーやわぁ。皆、何食べよか考えてるみたいやね。うちは、せやなぁ……。洋食ランチやな。今日はパスタかオムライスか、どっちやろ。楽しみやわぁ。
「夕陽さん……」
唯音先輩が、うちのところへ寄ってきはった。ちょっと照れてはる?
「どないしはりましたか?」
「恋文、本にはさもうと、思う……です」
「『伊勢物語』にですね」
コク、と先輩はうなずきはった。
「六九段に、はさんでみる……」
「業平さんに、想いが伝わるとええですね」
「はい……です」
唇を少しだけ上げはって、先輩が優しい顔をされた。乙女ですねぇ。かわいいやないですかぁ。
「夕陽さんも、いつか恋文、書く……ですか」
「あはは、まあ、ぼちぼちさせていただきますぅ」
今は、思うようにでけへんけど、いつか、書くんや。「好き」て気持ちを届けたい人と、お別れするまでに。
「頑張りましょうね、お互いに」
「……です」
うちは先輩と目を交わしあった。
ラブレターのお手伝いをしてから、唯音先輩との距離が近くなった気ぃする。それは、隣りあって歩いてるからだけやなくて、もっと、別の距離なんやよ。
「おいおい、はなび様がいるてぇのに、内緒話ってか?」
「ふえ」
「ずるいぞ、あたしにも教えろー!」
先輩がうちとおって寂しなったんか、華ちゃんが割り込んできた。
「教えろ、教えやがれーっ」
「あはは、あかんよぉ」
「華火さんには、まだ早い……です」
「むう、姉ちゃんとゆうひのいじわる、邪智暴虐っ!!」
ちっちゃい体で、いっぱい跳ねて。華ちゃん、ゴムまりみたいやでぇ。
「このこのーっ!」
「あはははは、もう、華ちゃんてばぁ」
「暴れん坊さん……ですね」
ここで話してあげへんかっても、きっと華ちゃんにも知る時が来るわ。生きてると、必ずどこかで会ってしまうものやからね。
「人の情の感ずること、恋にまさるはなし」
「なんだソレ」「誰の、言葉……?」
「さて、どなたが言いはったんですかねぇ」
ラブレターと秋の桜に浮かされて、つい口ずさんでしもうたわぁ。
―人の情の感ずること、恋にまさるはなし
その恋、深く疑うべきにあらず、や。
〈次回予告!〉
「華火ちゃんって、高校ではどんな感じなの?」
「単純明快っ。フツーに授業聞いて、弁当食べて、授業終わったら即下校だ」
「あのー、クラスの人とは喋ったりは?」
「めんどくさいからしない。ま、一人しつこいやつがいるけどな」
―次回、第五段 「鯉しなば」
「ほえ、どんな子なんだろう」
「ふみかが知ってどーすんだよ。うげー、思い出すだけで寒気するっ」
「あの華火ちゃんをそこまでさせる人って……気になるなあ」




