遥か彼方の彼の地より
いきなりクライマックス……すら終了後です。
メインはその後の話。
※ 誤字報告有難うございます! 適用させていただきました!
「斬首刑を執行せよ!」
『はっ!!』
私が最後に聞いたのは、私の元婚約者である王太子による死刑の宣言と、それを執行する処刑人が応じた声。
そう、私はこれからこの世を去る。
転生者として悪役令嬢をさせられて、乙女ゲームのヒロインちゃんに転生したク○女に負けて、みっともない姿で。
あの、どこまでも憎たらしいニヤケ面をした、どこがヒロインちゃんなのよと言いたいソレを思い浮かべながら。
仮初めだったとしても、長く一緒にいて本当の家族と思っている、その人達と共に死ぬ。
~~~~~~
《おかえり、悪役令嬢ちゃん》
―――その言葉(?)と共に、意識が立ち上がる。
どうやら横になっていたみたいで、起き上がって辺りを確認する。
ここは前世でも来た場所。
なんと言うか、平面の広~い半透明な青い床板があって、それ以外は宇宙しか無い場所。
《ねえちょっと、こっちを見てよ》
そして正面には、なんと言うか……特徴らしい特徴がない黒髪のメカクレ男子と言う、何とも言いがたい男の子がいる。
しかも服装が白シャツに黒スラックスで、どこかで見た安っぽいスポーツシューズと言う、なんとも無難すぎて年齢さえボンヤリした変な奴。
《良かった良かった。 最期がああだったから、僕の事を見てくれないほどに嫌われたのかとてっきり思ったよ》
とっても気安そうに私へ話しかけてくるこいつ。
実は神……みたいなものだ。
本人は否定しているけど、以前に何をしているヒトかを訊いてみたら、一言で言えば、まんま神としか言えない事をしているらしい。
「嫌いになってないわよ。 私もあのヒロインちゃんも、展開次第で悲惨な目に遭うって説明に納得した上であの世界に行ったんだから」
アレな最期に多少の恨みはあるけど、そう言うのも有るのだと覚悟していた訳だから、今更なのだ。
「それより、良いデータは取れたかしら?」
そんなコイツに、こう続けて言ってやった。
…………え? 神相手にコイツ呼ばわりはダメ?
良いのよ。 むしろコイツ自身が、雑に接して欲しいと求めてきたんだから。
《もちろん。 なんか凄かったね。 乙女ゲームに極めて似た世界にゲームのシステムを持たせた転生者をヒロインに入れると、あんな感じになるとか本当にビックリだったよ》
……分かった?
私は転生する際にコイツと出会って、ひとつ頼まれていたのよ。
「私だってビックリよ。 そもそもNAISEI知識を沢山もらって3歳からスタートする悪役令嬢になれって言われた時点で」
そう。 私は首を落とされた悪役令嬢として、その世界に送り込まれたの。
それで、ク○ビッチ思考のゲームシステム持ち転生ヒロインちゃんと、どっちが転生特典として強いのか。
15歳から始まる、身分関係無しで国の未来を創るエリートを2年間教育する学園を舞台にして実験しようってね。
「なによ、あのチート。 本気でチートじゃない」
思い出すだけで腹が立ってくる。
《ゲームではキレイな所しか映してなかったけど、本当の中世みたいに衛生面も栄養面も料理知識面も酷いのを、キミがNAISEIで頑張って改善したものね》
そう。 あらゆる面が非科学的で、あの世界は何でも魔法頼り。
傷も消毒せず回復魔法で、塞がっていく傷の内側に雑菌が入り込んで化膿とか、料理も衛生意識が無いから年中お腹が痛いとか。
不味いごはんでぽんぽんぺいんとか最低でしょ?
何かがあったら回復魔法や魔法薬に頼ればいいや。 なんてふざけてるでしょ?
まず、そうならない様に気を付けろや。
あんまりにも酷いから、高貴な身分を大いに利用して、NAISEIで大暴れしてやったわよ。
貧困層もまるっと救う政策も押し通したりして、国民からの人気もバッチリ得られて。
その最中にも、お父様が悪事の道に走らないようチクチクと釘を差したりして、お家を健全な状態で維持したり。
功績からか、歳が近い王太子と~って無理矢理婚約者にさせられたり。
それで王太子妃教育と称して王妃が指導役で、気の早い嫁姑戦争もはじまったり。
本当に大変だったのよ?
大暴れした結果、15歳になるまでに国力がグンと上がって、大国の中の大国だとか、文化が一番発展している国だとか言われる程になったのよ?
その立役者として、国の宝とか聖女とか呼ばれたりしたのよ?
「それが何!? 学園へ入学した途端になんで、私の功績が全部国の功績になってたの!?」
今までの私の努力を全否定された気分は、本気で吐きそうになるくらいに嫌だった。
《ビックリだよね。 システムが適用されて乙女ゲームが始まった瞬間に、元々こうだったよって変化したもんね。 あれが運命の強制力・修正力ってヤツなのかもね》
のほほんと合いの手を入れるメカクレ君。
ゲームシステムチートの方の転生者は、適用される瞬間に前世を思い出す仕組みだった。
ゲームシステムの方がチートとして強いのは分かっているから、前世を思い出す期間でバランスを取ろうとしたみたい。
私が本気で愚痴っているのに、ちゃんと慰めてくれない所に少しイラっとするけど、今は愚痴が止まらない。 止められない。
「なんなの!? 私の実家も、気が付けば悪徳貴族になってたのよ!!? 隣国の侵略を手引きする、最悪の裏切り者に!!!」
《凄いよね。 キミと一緒に入学した親友と言っても良い仲の友達が、フッと取り巻きにランクダウンした瞬間も、僕は目を剥いたよ》
アレは本当に辛かった。
今まで築き上げてきた友情が、利益だけの繋がりになる瞬間。
一番大切なモノを失い、足下が崩れる感覚があったわ。
「(ふ)ざっけんなっ!! 仕方ないから、せめてもの抵抗で悪役令嬢をしなかったのに、暴走する取り巻きのした事が全部私のせいになったのは、なんでよ!!」
《取り巻きちゃん達がヒロインちゃんにヘイトを持って、色んな嫌がらせしてたもんねー》
「それで最後に、お父様に取り入った取り巻き達が、犯罪組織のひとつを総動員させてヒロインの暗殺を実行。
失敗して我が家が首謀者とされて、はい人生お仕舞い。 ………………(ふ)ざっけんなぁっ!!!」
《何もかも、悪いのはキミの家ってなったもんね。 お気の毒様でした》
もちろんそんなコイツの軽~い声じゃ慰めにもならず、しばらく愚痴や文句は続いた。
~~~~~~
《落ち着いた? 落ち着いたなら、キミが処刑された後のあの国の様子を見てみない?》
なんて誘われて躊躇っていると《滅多にできない経験だから、見ないと損だよ》なんて言われ、空中に投影された大きなモニターへ目を向ける。
《あー、王太子は大分幸せそうだね?》
「あのヒロインは性悪だったのにね。 知らないって良いわねぇ」
《ゲームの後日談になる、結婚する位までは大きな動きがないだろうから、飛ばすね》
「それは有り難いわね」
《ん? いきなりだけど、結婚2日目の朝から変化があるね?》
「あのク○ヒロインが、王太子にベッドから蹴り出されたわよ?」
《音声ON。 あらら、ヒロインちゃんが急に悪魔扱いされてるね》
「あら、乙女ゲームのシナリオが終了したのかしらね? システムがOFFになって強制力が切れたのね」
《“おれは しょうきに もどった!”かな? 顔が死人みたいに真っ青だ。 「大切な婚約者で聖女を処刑するなど、絶対にあり得ない事をしてしまった!」だって》
「本人はノリノリで斬首の指示をしたクセにね。 私に関係がある連中も映像に出せる?」
《分割表示……っと。 うわ、頭を抱えたり壁や床に頭を打ち付けたり、号泣したり、心が壊れたみたいにごめんなさいを連呼したり。 文字通りの阿鼻叫喚だね、こりゃ》
「ゲームシステムの強制力って、洗脳だったのかしらね? 学園の図書室にあった王国史の本も、システムの都合に合わせて書き変わっていたから、洗脳っぽくは無かったけど」
《この様子を見ると、明らかにおかしくなっていた自覚があるね?》
「変なの。 あ、王城の前とか映せる? ………………うわ」
《暴動が起きてるね。 「聖女を処刑した王族を許さない!」だって》
「あの時は公開処刑で、国民全体でワーワー喜んでたクセにね。 ちょっと調子が良すぎて、気分が悪くなるわ」
《流石に厚かましすぎるね、これは》
「次の大きな変化があるまで、飛ばしてくれる?」
《ほいっ……と》
「いきなり王族が勢揃いで、処刑場に拘束されてるわね」
《あ、王太子妃になったヒロインちゃんも居る》
「王族になったから当たり前よ。 って、あの刑場の旗は隣国のね。 お父様の、最期の意地かしら」
《国を裏切った状態でも正気だったとしても、キミが処刑に決まったと知ったら、どっちにしろやっているだろうね》
「ああ、お父様……」
《ああ、ほら。 ヒロインちゃんが喚いてる。
「あの乙女ゲームの逆ハールートエピローグは王太子妃になって終わりだけど、普通は幸せに暮らしましたとさ でしょう!? なんでこうなるのよ!」だって》
「テメーがヒロインらしくない傲慢なク○ビッチだからよ。 自業自得ね。
そんな事よか周りを見るに、公開処刑だから国民も見てて、怒りと喜びが半々かしら」
《総意として、この国の王族は要らない。 になってるね。 ところであの隣国はどんな国?》
「強烈な貴族主義よ。 国民なんて、みんな奴隷同然の認識。 それを知ってる人達は、みんな国外逃亡を始めているでしょうね」
《……本当だ。 貴族や商人達が、土地を捨てて逃げ出してる》
「でもそれは隣国が侵略する際のお約束でね。 隣国もそれが分かっているから、警戒するのよ」
《あらら……うん。 国境で捕まってるね。 御愁傷様》
「刑場に戻して」
《そろそろ始まるね》
「侵略された側の王族は、一人でも残っていると反乱の種になるから、例外無く処刑。 諸行無常よね」
《あ。 ヒロインまだ喚いてて、うるさいから叩かれた。 と言うかキミを処刑した王族達は静かだね?》
「なんでかしらね? 私を処刑した罪悪感から逃げられるとか、そんな理由かしらね?」
《拡大……かも知れないね。 一人を除いた王族達の顔が穏やかだ》
~~~~~~
ここまで見ていて、私は満足感に満たされた。
理不尽な目に遭ったが、遭わせた連中がここまで惨めな立場になっているなら、十分腹の虫がおさまった。
「もう良いわよ」
《ん?》
コイツが不思議そうにこっちを見る。
「アンタからの依頼は果たした。 そろそろ生まれ変わりたいわ」
《あ…………》
なんか置いてけぼりにされた飼い犬みたいな声を出されたけど、そもそもの私達はそんな関係じゃない。
もしここで呼び止められたなら、また次の実験とかって変な頼み事をされるかもしれない。
そう警戒しといて損は無い。
「なによ?」
そんな関係じゃないけど、私はさすがにこんなのを無視して自分の話を進められる人間でもない。
しかし、当のコイツは。
《あの……あのね? そのね?》
と、妙にウジウジネチネチして気持ち悪い事になっている。
仕種もやたらオドオドと女々しくて、見ていてイライラしてくる。
だがこんな時に「早くしなさいよ」と急かすと、本当に言いたい事を言ってくれなくなると知っているので、待つことにした。
やがて。
《僕のお嫁さんに、なって欲しいな?》
なんて言い出した。
「はぁ!?」
あんまりな展開に面食らう私。
そんな反応を拒絶と受け取ったのか、項垂れるコイツ。
「いや、いきなり過ぎてビックリしてるのよ! このまま話が終わる方が嫌よ?」
慌ててフォローすれば、今度は嬉しそうに頭を上げて大口を開け、語り出す。
《あのね? 最初はいくらNAISEI知識を植え付けられているからって、ここまで上手く世の中を動かせるなんて凄い人だなって感心していただけだったんだ》
それは次第に熱を帯びて。
《入学してからの急展開にもめげず、そこからでも何とかしようって心の強さに憧れた。 あんな王太子にキミが盗られるなんて思ったら、イライラか止まらなかった》
私に迫ってくる。
《キミが処刑される頃には、その理不尽な展開に本気で怒った。 怒って、そんな目に遭わせた原因が自分だと冷静になったら、申し訳無くて申し訳無くて》
真摯に、心から。
《それでキミがここに戻ってきたら、どこにも行かせたくないって、ずっと一緒に居たいって気持ちが強くなって》
聴いているこっちが恥ずかしくなってくる位に。
なので、コイツの言葉を遮る。
「私、ふたつの人生を合わせたらお婆ちゃんよ?」
…………遮るどころか、言ってからむしろコイツの意思確認をしているような言葉だったと気付き、顔が熱くなったのを自覚した。
《僕なんか、どの位在るのか分からない位に存在しているよ》
年齢は障害にならないらしい。
「ふたつの人生で未婚な私じゃあ、アンタの望み通りにはならないわよ?」
なおも抵抗してみる。
《そもそも知性の有るものとの関わりが極端に薄いボッチな僕は、どうすれば良いのかさえ分からない》
OH…………。
《ふたりにとっての理想の形を、一緒に探そう?》
この熱意をいつまでも躱せる自信は、私にはなさそうだ。
蛇足
神(?)以外の容姿・服装
ご想像にお任せします。 今回のでその辺を細かく書くと、無駄に長くなりそうだったので。
まあとにかく、主要登場人物はキラキラしい人達だったって事で。
悪役令嬢
前世はアラフォーOL。
切り替えが上手くできない人で、仕事が恋人状態から抜け出せない人生だったらしい。
死因は未設定で、ご想像にお任せします。
神(?)のプロポーズ後、考える時間をと転生は行われず留め置かれた。
それからプロポーズ攻勢が定期的に行われ、しばらくアレコレとはぐらかして逃げていたが、最終的には押しきられる。
かかあ天下の夫婦になるかと思われたが、案外甘えたがりな女性でもあったので、甘過ぎない甘え甘えられの関係となり、見ている者がむず痒くなる仲になったらしい。
神(?)
正体不明。
実験は暇潰しだったのか、他の神(?)との賭けだったのか、上位存在からの課題だったのかすら不明。
とにかく地味なファッションは、どうやら悪役令嬢の前世の記憶から、よく見かける馴染みのある警戒されにくい服装をと選んだだけらしい。
少しチャラいと言うか、子供っぽいと言うか。 こんな接し方も、同じ手段から選んだ様だ。
ただ、側にいてほしい人と一緒になれたので、とても幸せ。
もちろんその人とずっと一緒に居るために、自身と同じ寿命の存在となるよう、その人を改変したらしい。
あと、チャラ気味だった服装や態度もご令嬢好みに教育され、大分落ち着いたとか。
転生ヒロイン
よく居るク○ビッチ系思い上がり傲慢キャラ。
この世界の主人公! とばかりに、学園で良い目を見続けて、ヒロインに相応しい努力をせず結果ばかりを都合良く貪った。
システムの力が終了すれば隣国からの侵略が無くとも、次代の国を任せるエリートに相応しくないとして、目が覚めた国全体から酷い扱いをされるのは確実だった。
チートの期間が切れてシステムの恩恵が無くなっても、ハッピーエンドの状態が続くと決めつけ、そうなると思い込んでいた。
が、そんな強力な力の反動が無いなんて、都合の良い事は無い。 傲慢に我欲を出しまくった結果が、因果応報の結末である。
ヒロインのチート
開始された乙女ゲームを粛々と進めるためのシステム。
セーブ&ロードも可能。
場面ジャンプ(進める・戻る両方)も可能。
乙女ゲームの内容から大きく逸脱しないよう、許容範囲内に収まるよう設定を書き換える機能がある。
悪役令嬢が聖女扱いなんてあり得ないしゲーム進行の障害になるので、真っ先に修正された。
その為に、主人公がやって来た功績は国の功績となり、人間関係や、転生者の2人以外の人格さえも修正された。
ハッピーエンドになってエピローグも越えた結果、乙女ゲームが終わったのでシステムも終了。
世界がシステムの奴隷から解放されたので、世界の修正力により書き換えられた部分も、元に戻った。 知性あるもの達は、書き換えられていた期間の記憶を持ったままで。
あくまでも乙女ゲームを世界に強制するシステムなので、期間限定。 だがその分干渉力が異常なほどに強い、とんでもチート。
なお、ヒロインらしい自身もそのシステム影響下にあるので、システムに縛られている。
大悪党プレイをしても、ゲームでそんなシナリオが許されていなければ、他人が大悪党と言うことになる。
ヒロインがゲーム中にした活躍以上の活躍をしても、過剰な分は他人がやった事となる。
逆に悪役令嬢役がした善行は、許容範囲を越えた分がヒロインのやった善行と書き換えられる。
その修正される機能を利用して誰かとニャンニャンしても、ゲームとして許されていなければ都合良く改変される。
例えば、ニャンニャン相手が転んで頭を打って気絶したヒロインを見つけ、家で保護して目覚めるまで(健全な)介抱をしていた事になっていたり。
ちなみにロードや場面ジャンプ機能を使った場合は、ヒロインちゃん以外は戻った地点までの記憶しか持っていない。
改変された場合でも、ヒロインちゃんと主人公は覚えている。 が、覚えているからと言って、改変前の話をしても奇人扱いされるだけ。
王太子
システムの被害者であるが、加害者でもある。
やってしまった責任を背負う覚悟ではいた。
隣国の侵略が無くとも、王家の立場を返上して兵士の扱いが一番キツい部隊へ入隊して、自分に罰を与えようとしていた。
王家
システムの夢から覚めた時、全ての責任を負って引退するつもりでいた。
その家族も王太子以外は似た気持ちでいたらしい。
まあ国民はそれでも許さず、死刑だ! と連呼をしただろうが。
国民
一番調子の良い連中。
生活水準が上がって、その恩恵を一番受けたのが平民階級なのだから。
なのにシステム稼働中はそれを忘れ、システム停止と共に、ご令嬢の無念を晴らせー! とばかりに暴れだした。
……自分達も、そのご令嬢の処刑で喜んでいた側だったクセに。
まあ、侵略してきた隣国の平民の扱い方が酷いから、そっちで地獄を見てくださいって事で。