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ラブラブフルーティソルベ  作者: 剃り残し


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18/30

4日目②

 夜行バスで寝ている間に目的地に到着していた。親の財布に入っていたのは3万円。当時の俺としては大金だったが、夜行バスで半分を使うと残ったのは一万五千円。フレッシュナスでセットを頼むと一万四千円になった。


 あと十四回しか飯を食べられない。切り詰めても一ヶ月は持たない。いくら勉強が苦手な俺でもそれくらいの計算はできた。母親が財布にもっと金をいれてくれていれば、と何度も恨み言を呟いた。




 結局食費を切り詰めることは出来ず、二週間もすると腹が空いて仕方がなかった。ずっと野宿をしながら自販機の下に落ちているコインを探し求めているうちに、汚い街に入り込んだ。ドブネズミが路地裏を元気に走り回っている。こんな環境でも幸せそうに生きているネズミを心底見下した。こんな風にはなりたくないと思ったが、もうそんな生活に片足を突っ込んでいた事を認めたくなかったのだろう。


 無料案内所という看板が輝いている。俺には金が無い。無料という言葉に惹かれ、ドアを開いた。


「あ……あの……お金がないんです。何か食べ物をください」


 二週間も風呂に入っていない俺はさぞかし臭かったのだろう。顔をしかめながら受付のオッサンが「出ていけ!」と声を荒らげる。


 だが、俺も死にたくはなかった。必死で、生きるためにその場に居座った。受付のオッサンとすったもんだしていると、奥から顔の怖いハゲたオッサンが出てきた。それが大山さんだった。


「おい、坊主。出身は?」


「ふ……福岡です」


「いいな。中洲行ったことあるか?」


「あ……友達とラーメンを食べに何度か」


「それだけか。親からどういう場所なのか聞いたことないか?」


「あ……危ないところだから、怖い人には近づくなって」


 大山さんは大きな声で笑う。怖い人だが、豪快に笑うさまは初対面でも気持ちが良い人だった。


「ここは中洲と同じだよ。そういう街だ。ここで生きてく覚悟はあるのか?」


「あ……あります!」


 大山さんが目の前まで顔を近づけてくる。任侠映画に出てきそうな迫力だ。


「簡単に言うんじゃねえよ。裏に来い。仕事と寝床を用意してやる。しばらくやってみて、やれそうだったらもう一度覚悟を見せてみろ」


「は……はい!」


 結局、大山さんの言う「覚悟」というものが分からず、何度掛け合っても組に入ることは断られた。最初の仕事もそういえば人探しだった。借金を踏み倒そうとした女。土下座をすれば許される、家族がいると言えば許されると思っていた馬鹿なやつだった。


 大山さんが親代わりのようなものだった。言葉遣いは乱暴だが、生きていくために仕事をくれた。転売、風俗店の店番、人探し、お使い。使いっ走りだったので、いつの間にか手駒の意味でコマと呼ばれるようになった。


 親は一度も探しに来なかった。まさかこんな離れた街に来ているとは思わなかっただろうし、どこかで野垂れ死んだと考えているのかもしれない。もう会うこともないのだし、縁は切れたようなものだ。




 まだ親との縁は切れるのか分からないアサヒが目の前で起き上がる。俺たちが降りる歓楽街に飲みに行くのであろう人でジワジワと車内の人口が増えてきていた。起きるには丁度よいタイミングだ。


「ふぁあ……おはよ」


「よく寝たな。それで、これからどうするんだ?」


「うーん……ハンバーガーを食べたら考えようかな」


「お前……呑気だな」


「まあね! 見つかった訳だしね!」


 宛もなく街を彷徨う生活ではなくなった。後は、あの母親に食らいついて、どうにか金をむしり取る。俺もその方向で考えをまとめ始めていた。実際に動くのは大山さんだが。俺はグレーゾーンの仕事しかしない。これは脅迫。真っ黒だ。


 俺達だって慈善事業でこんな事をやっている訳ではないのだ。それに、服装から察するにそれなりに金はある奴のように見えた。アサヒに黙ってあの住宅街でのほほんと暮らしているあいつの姿を思い出すと沸々と怒りが湧いてくるのだった。






 いつものようにフレッシュナスでハンバーガーを平らげて家に帰宅した。


 もう明日からは早起きする必要がないのか、と感慨に浸る。ゆっくりと起きて、人の流れとは逆方向の住宅街に向かう。プラスタが売れていたので、発送をしなければ。一度倉庫にも寄ろう。頭の中で明日のスケジュールを組み立てていると、風呂から上がったアサヒが出てきた。


「コマ……あのさ、ちょっと大事な話があるんだけど、いいかな」


「ちょっと大事なのか、それとも大事な短い話があるのか?」


「前者かな。そういうとこ、早く直したほうがいいよ」


 別に自分では欠点だとは思っていない。母親に会ったその日に大事な話だと言われたので、それなりの爆弾が出てくる事はすぐに想像ができる。俺だっていきなり爆弾を目の前に出されたら緊張するのだ。緊張をほぐす時間が欲しくて、あえて適当な質問をしただけなのだ。


 偏屈な質問をした自分を正当化しながらも、アサヒの「大事な話」について予測している。母親は見つかったのでここから出ていく。逆に、和解できるまでこれからもここにいさせて欲しい。このどちらかだろうと考えた。


 アサヒは乾かしたての髪の毛に手ぐしを入れながら気まずそうに話す。


「あのね、あの人、本当のお母さんじゃないんだ」


 俺の思考の斜め上にアサヒの生い立ちが飛び込んできた。

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