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ラブラブフルーティソルベ  作者: 剃り残し


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17/30

4日目①

 四日目。もう望みは薄いのだろう。この日も似た人物は見つけられたのだが、当然のように別人だった。


 午前の捜索、昼飯を挟んで午後の捜索に移る。ここまで誰一人として、アサヒの母親の顔を見たことがないし、『アモーレローズマリー』という店も知らないらしい。実はそんな人いないんじゃないか、とも思い始めた矢先、コンビニで衝撃的なことを聞いた。


「あぁ。この人ならよく見ますよ。朝の電車が一緒になるんです。始発駅なのでいつも同じ場所に座るんですよ」


 これまでの聞き込みで話したことがなかった店員がシフトに入っていたのでダメ元で聞いてみたら、見事に当たった。ここまで粘った俺を褒めてやりたい。


 この街からは電車で一時間くらいの場所にある駅で見かけるとの事だった。早速アサヒを電話で呼び出す。


「アサヒ! お袋さんの手がかり見つかったぞ! この街じゃねえしちょっと離れてるけど、早速探しに行くぞ!」


『え! 本当なの!? 駅に集合ね!』


 アサヒはすぐに電話を切る。切る直前からドタドタと足音が聞こえていたので、駅まで全力疾走し始めていたのだろう。俺も遅れないように小走りで駅を目指す。





 電車に乗って目撃情報のあった駅まで来た。電車の中では、アサヒはずっと落ち着かない様子だった。ついに母親の手がかりを掴んだのだ。後は無理矢理にでも連れ帰れば解決だ。最悪、面倒事になったら大山さんに出張ってもらう事になるかもしれないが、それは奥の手だ。


 電車を降りて駅を出る。いつもの歓楽街とはまるで違う風景だった。何よりも空が広い。


 この駅は数年前に延伸された始発駅で、綺麗に整備されたバスターミナルからはあちこちの住宅街に路線が伸びている。完全にファミリー層向けの場所だ。平日の夕方なので、保育園帰りの親子やベビーカーを押す親があちこちにいる。


「本当にこんなとこにいるのか? 単身には逆に住みづらそうだけどな」


「どうなんだろう。電車には何時頃乗ってるの?」


「朝は通勤の時間帯らしいぞ。都心の方に向かう電車だから出勤してるんだろうな。帰ってくるとしたら夜かな。この辺で見張ってみるか」


 普通にデイタイムの仕事をしているのであれば、帰ってくるにはまだ少し早い時間だ。アサヒと二人で並んで一つしかない駅の出入口をじっと見つめる。


 三十分くらい経っただろうか。大量の人の顔をアサヒの母親とマッチングさせ続けたので脳みそが疲れてきた。こういう仕事はAIに任せたいところだ。


 アサヒに任せて一回休憩に行こうかと思ったその時、脳内に電撃が走った。写真の顔と完全にマッチングする人が駅から出てきたのだ。


「お……おい。アサヒ。あの、紺色のブラウスの人、似てないか?」


「似てる……っていうか本人だね」


 その言葉を合図にアサヒの母親に近づく。後ろから肩を叩くと、特に警戒もせずに振り向いてた。


 アサヒの母親は、俺の顔は知らないので愛想笑いを作っているが、アサヒを見た瞬間顔を引き攣らせた。それもそのはずで、アサヒの母親の隣には小さな女の子がいたのだ。三歳かそこらだろう。アサヒに妹はいないはずなので、この娘は種違いの妹に相当するのだろうと直感する。もしくは誰かの連れ子。いずれにしても大変そうな家族関係だ。


「あの、アサヒさんのお母さんですよね? 少し話をさせてください」


「え……えぇと……なんのことでしょうか? 人違いじゃないですか?」


 誤魔化そうとしてはいるが、顔は正直に驚いている。


「この写真、あなたとこの子が写ってますよね。小さい子の手前、あまり騒ぎにしたくないでしょう。大人しくついてきてください」


 アサヒの母親は俯いて何かを考えているみたいだ。アサヒも同じように俯いている。


「しっ……知りません! こんな子は娘じゃありませんから! 私には琴しかいないんです!」


 そう言って娘を抱きかかえ走り去る。かなり大声を出していたので周りの人も何事かという視線を俺たちに向けてくる。警察を呼ばれたら俺とアサヒの関係もほじくられてしまう。女子高生を部屋に泊めていたなんて知られたら事だ。力の抜けたアサヒの背中を叩いて動かしながら、駅に入り、出発直前の電車に滑り込む。人の流れとは逆方向なのと、各駅停車だったこともあり、電車の中はスカスカだった。


 適当な向かい合わせの席にアサヒと並んで座る。アサヒはずっと下を向いている。


「アサヒ、元気出せって。なんか色々と訳アリな感じだったけど、元気そうで良かったじゃねえか。なんとか連絡を取れれば、話し合いくらいはできるだろ」


「そうだね」


 アサヒはそれだけ言うと向かい側のシートに移動して寝転んだ。しばらく人は増えなさそうなので、豪勢に使っても怒られないだろう。


 実の母親にあんな事を言われたのだ。ショックを受けて当然だ。あのセリフは俺も言われた事がある。


 高校受験、高校入学後の最初の実力テストの時の当時の記憶が蘇ってくる。高校受験は模試の成績が上がらずに直前に志望校のレベルを下げた。レベルを下げて入学したにも関わらず、入学後の実力テストでは真ん中より下に位置していた。どちらの時も母親の反応、というか癇癪は同じだった。


『アンタなんか私の息子じゃない!』


 飛んでくる平手打ち。父親は止めようともしない。力ずくで止めれば今度は家庭内DVだと難癖をつけて警察を呼び始めるのだ。数回同じことをやられて、父親は完全に母親に服従するようになった。


 同じ成績の奴、俺よりレベルの低い高校に行った奴、どちらもごまんといる。そいつらもこんな仕打ちを受けているのだろうか。いや、そんな事は無い。平均点を取れば褒められ、学校に行くだけで褒められ、生きているだけで褒められる。そんな奴がいると知り、俺の人生は何なのかと絶望した。そして、親の財布から金を抜き取り、日本最長と呼ばれる夜行バスに飛び乗った。

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