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呪華の詩  作者: 葵(あおい)
黄金都市、盲目少女
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黄金都市の影

「さて、どうしたものかしら」


 大通りに面した席で向かい合って座る二人。眼前のテーブルに頬杖をついたライアは、視線だけ動かして周囲を窺う。


 幅の大きな通りに所狭しと並ぶ商店。そこに群がるのは、いかにも裕福の代名詞と言わんばかりの豊満な体躯を持つ人々。黄金都市の名に恥じぬ豪華な装飾の施された建物が遥か先まで並んでいた。


「欲望の街と言ったところかしら? 相変わらずとても綺麗な街ね」


 楽しげに紡がれたその言葉が皮肉であると、フィンドラは即座に気付く。


「表向きは、ね」


 だからこそ彼女はそう付け加えて、ため息をついた。


 ステンドグラスのように虹色をした建物の窓が、光を取り込んで醜悪な表情をする。両開きの巨大な扉には、金色の持ち手に金色の獅子が(かたど)られた像。何処に視線をやっても、嫌気がさす程の高貴さが散りばめられていた。


 ふいに、街の至る所を眺めていたフィンドラの視線が止まる。見据えているのは路地裏だった。裕福で美しい都市の薄暗いゴミ溜まり。まさに陰と陽が隣り合わせ。路地裏で飢える人々の中には小さな女子供まで含まれていた。


「結局どの街や都市だって同じなのよ、上層部の太った豚連中だけが甘い蜜を啜り続ける」


「端的に言う、悲しいけれどそれが事実。私達に出来ることなんて何一つありはしない」


「もちろん、解っているわ」


 足を組み、角砂糖を(つま)み上げるライア。


「ごめんあそばせ、甘党なの」


「端的に言う、入れすぎ」


 砂糖とコーヒーカップの往復の回数に驚きながらも、フィンドラはブラックコーヒーを啜った。


「おチビちゃんのくせに苦いのが好きだなんて生意気ね」


「だから、あたしの方が先輩」


「それは失礼致しました、おチビ様」


「……おチビ様は余計」


 フィンドラは周囲を見渡し、出来るだけの情報量を目に焼き付ける。そこで二人は、同時にある方角へ視線をやった。


「今のは?」


 路地裏の奥より木霊した、断末魔の叫び声。立ち上がったフィンドラは叫び声の方向へ走り出す。


「おチビちゃん、行ってどうするのよ」


「端的に言う、この都市の情報が何か得られるかもしれない。今は一つでも多くの情報が欲しい」


「それもそうね」


 辿り着いた路地裏の奥では既に腐臭が漂っていた。身体を食いちぎられて倒れる男のすぐ側で、その当事者であろう男が息を荒くして立っている。見開かれた目は血走っており、白目の部分が真っ赤に変色していた。


「まるで化け物じゃない」


 眼前の光景に言葉を漏らすライア。男は次なる獲物を探しているのか周囲を見渡し、小さな女の子を視界に入れると動きを止めた。


「いや……来ないで……」


 腰が抜けて涙を浮かべる少女は、迫る男の顔を見て絶望にも似た表情をする。小刻みに震える身体が、皮肉にも恐怖を代弁していた。


「おチビちゃん!!」


「……解ってる!!」


 飛び付いた男と少女の間に割り込むように紅い障壁が具現化され、衝突した男は大きく咆哮を上げて二人へと視線を移した。


「ああああアアア!!」


 猛り狂った男は、鋭利に発達した爪を翳しフィンドラへと飛び掛かる。間に割って入り躊躇うこと無く男を切り裂いたライアは、真っ二つになった身体と首を無表情で見下ろした。


「最早、人ですらないわね。何らかの形で遺伝子が強制的に変化しているのかしら」


 発達した爪、そして本来生える筈の無い牙。人間離れした身形(みなり)がそこにはあった。


「端的に言う、人が死んだのに誰一人気にしていない」


 周囲には飢える人々が大量に座り込んでいる。だがその誰もが、慣れていると言わんばかりに表情一つ変えない。呻きながら空を仰ぐ者、ずっと一点を見つめたままの者、様々ではあるが一連の出来事に関心を抱く者は存在しなかった。


「お嬢ちゃん、大丈夫かしら?」


 隣に屈み込んだライアは、未だ震える少女の頭を優しく撫でる。


「あり……がとう……」


 虚ろな表情だった少女の顔が、徐々に生気を取り戻し始める。


「端的に言う、何があったか教えて」


「えっと、それを食べて……」


 少女が指差したのは、絶命する男の横に無造作に転がるパンだった。


「あら美味しそう、普通のパンじゃない」


「端的に言う、そんな訳ない」


 香ばしい匂いを満足気に嗅ぐライア。無理矢理パンを取り上げたフィンドラは怪訝そうな顔をする。


「魔力を持たない人じゃ見抜けない魔法が掛かってる」


「どんな魔法かしら?」


「毒の類だと思う」


 フィンドラは言い、視線を合わせるように少女の前に屈んだ。


「このパンは一体何処で手に入れたの」


「……配られるの。王様からの配給で、家を持たない人達に一日一回。甘くって凄く美味しいの」


 少女は破れかけたデニムのポケットからパンを取り出した。


「配られたパンは必ず食べるのがルールなの、食べなかったら次からはもらえないの。王様は皆に生きていて欲しいから、家の無い私達にまで気を掛けて下さっている神様なの。神様は絶対なの」


 少女の持つパンに視線をやったフィンドラは首を傾げる。


「どうしたの? おチビちゃん」


「男のとは違って、この子が持っているのは普通のパンみたい」


「どうしてこの男のパンにだけ魔法が掛かっているのかしら?」


「今の段階じゃ解らない」


 それは食べても大丈夫だよ、とフィンドラは言う。嬉しそうにパンを頬張る少女は、ものの数分で食べ終えた。


「お嬢ちゃん、さっきみたいにパンを食べた人が暴れたことって今までにあったかしら?」


「……何度もあったの」


「その時はどうしたの?」


「いつもなら兵隊さんが見回りに来てくれて、全員が食べ終わるまで見ていてくれるの。疫病が流行っているからって言って、大事な市民が死なない為に、化け物になった人をやっつけてくれるの」


「……そうだったのね」


 怪訝そうな顔をするライアは、一人の男の気配に気付いた。

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