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青空崩壊録  作者: 八百九九
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プロローグ 【約束】

 

 崩壊するのは一瞬の出来事である。それは人々が予想も何もしていないところで突然引き起こされる事象。


 始まりは本当に唐突だった。ある日空が曇ったと思ったら、黒雲の中から巨大な手のようなものが現れて地上に一つの「苗」を植えた。そしてその苗は自らを成長させるために星の養分を吸い尽くそうと根を張り巡らせ、自身に害をなすと判断した人類を滅亡させるためにその蔦や葉で空を覆いつくした。

 苗はそれだけでは終わらず食虫植物のような養分を食らうための器官を作り、その部分を分離させ様々な命を搾取すると言う最悪な進化をした。

 人々は苗から逃げるために地下へと居住を移し、そこで様々な研究を重ねていく。決定打が何も出ないままだったある日、不思議な力を持った子どもが次々に生まれ出す。超能力のような力は最初は神が人類に与えた祝福と呼ばれていたが、その力を持ってしても苗には一切敵わなかった。次第にその力は苗が人に影響を与えた結果のモノだと言われ始め、祝福はいつしか「呪印」と呼ばれるようになって行った。



人々が空を失ってから2000年程の月日が経過した今では、誰もが知っている常識である。




「こんな一般知識の事が最初に書かれてるってさ、どうなんだろうな。」


 一冊の冊子を訝し気な顔で読んでいる青年は、近くに居た女性に話しかけた。

 二人とも少年、少女と呼ぶには少し年齢が上くらいの成人したてといった顔つきをしている。


「そりゃそうだって。だってこの場所を支えてる会社の冊子だよ?苗の害から私たちを守ってくれてる真面目な会社だもん、1ページ目は全ての始まりの事が書かれてても不思議じゃないよ。」


 セミロングの髪を揺らし、くすくすと笑いながら女性は答えた。


「・・紅鏡は、本当にそこに就職するの?」

「ああ、そのつもりだよ。呪印を使って種蟲を殺す仕事をするなら、この会社が一番良い。」


 紅鏡と呼ばれた青年はまっすぐな瞳で彼女を見詰める。揺ぎの無い決意が感じられる瞳を、女は僅かに悲しそうに歪められた瞳をもって答えた。


「紅葉が心配してくれるのは十分知ってるし、理解してる。でも俺はもう決めたんだ。」

「うん、私も、分かってるよ。・・・絶対に死なないでね。待ってるから、家で、帰って来るの、待ってるから・・・。」

「待っててくれ紅葉。俺が、絶対にお前を本当の花畑に連れて行ってみせるからな。」


 こんな作り物の場所じゃなくて、小声でそう続けると目の前の景色を見た。

 美しい丘が広がり、奥の方には森もある。上は赤く染まり出した空が投影されていて、人工的に作り出された空気の動きがまるで風の様に頬を撫でていく。

 これ等は全て、地下に逃げ延びた人々が作り出した遠い記憶の地上のものだ。本物の空は投影されるものでも無いし、突き当りの壁なんてものも無いと書かれていた。

 いつの日か地上に帰る。それが、全人類の願い。


「うん、楽しみにしてるからね。」


 叶わない夢だと知っていても、きっといつかはと願わずにはいられない。子ども達が無邪気に口にする夢物語だと分かっていても。


 この日、紅鏡と言う青年と紅葉と言う女性は夕暮れの丘で約束した。

 一緒に空を見よう、花畑を見よう、と。



 二人とも叶う筈が無いと心の底から分かっていても。




初投稿です。不定期更新ですが、早めにしていく予定です。よろしくお願い致します。

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