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おもちゃ箱の中身

 子悪魔が二匹いる。 簡単に説明して一匹目の姿を紹介しよう。

金髪に近いふわふわ茶髪は腰元まで伸びている。 前髪はぱっつん、綺麗に揃えて、カラコン装着の付けマツゲ。


 そして貧乳…… 可愛い女の子が好きなギャル。


 二匹目は無敵ボディのゴスロリ娘。 前髪ぱっつん、おかっぱボブカットのコミュ障。

 エフカップ、ヲタクで地味娘…… 狐目ちゃん。 大人しいと言われるが暗いだけ。

 そんな二人が良からぬ事を今日も考えては一日が始まった。


 作戦はいつだって部屋のテーブルを挟んで行われる。

 ガラスで出来たテーブルの上。 二人が好きな飲み物と、少しだけのお菓子を出して語り合う。

 それだけあれば一日なんて過ぎてしまう、毎日は短すぎて忙しかった。

勉強しろとか家の事やれとかどうでも良い、大人の都合でコントロールされたくないお年頃なのだ。

 勉強とは目的が違うまま、まっさらなノートをテーブルに開いて二人で会議を進める。お互いは頷くと、ノートに何かを書いて場所や数字を記入した。

 絵心は二人には無いようで、難しい顔をしては笑顔になり、笑い声は部屋を反響して蝉の鳴き声と競い合った。

 これで解るように今は夏、競い合う気持ちも無いままに、女の子と蝉時雨が競演する。

 「ぐー、ちょき、ぱーは完成だね! 」

 貧乳ギャルは自信を見せて言う。 その悪巧みに満足気な笑顔。

 「う、ん 」

 ゴスロリ巨乳娘も自信を持ったのか、普段は見せないキリリ顔を頷かせた。

 そして勉強はここまでと決めて、二人は外へ行こうと準備を始める。

 お互いが塗り合う日焼け止めはお気に入りの時間。


 物語の全貌を語る必要は無いのだが、二人は一緒に暮らしている。

 そこには男の娘も住んでいる。 (解り易く言えばオカマである)

 彼女達が今日外へ行くのは、お世話になっている男の娘へプレゼントをするため。

買い物へ向かうことにした。

「いつも夜ご飯作ってもらってるしね、あいつの好きなプリンを作ってあげよう! 」

 「う、ん 」

 彼女達の生活空間は奇妙でいて、夕飯は女装した美男子が作ってくれる。

 二人が作るよりも格段に美味しく、勉強が終わる頃には今日の夕飯何かな? そう話す事もあるほどだった……

 それが数日と続いて子悪魔二匹思った。

 『少しは感謝の気持ちを表さないと…… 』

二人が本当にそう思ったのか、そこは深い問題ではなく、二人が本当に手作りプリンを作り上げるか気になるところ。

 「今日のダンジョンはー、こちら! 」

 金髪娘はテンション高くショッピングセンターを指差してダンジョンと言い切った。

 そこに突っ込む様子は何も無いまま答えが返ってくる。

 「攻略、し、が、いが、ある、ね? 」

 何を攻略するつもりなのか? 感覚まともな人間では解らない程の会話内容である。

二人の日常はこれで成り立つわけで、ギャルとゴスロリの異色コンビだが妙に気が合いお互い大好きだった。

 「ど、ん、な、プリ、ン、が、待って、るん? 」

 「待ってない! 待ってないよ! あたしたちで作るんだからね? 」

 ズレているコミュ障の巨乳ゴスロリを、、ややオーバーに止める貧乳ギャル……

 「そ、う? 」

 そういう自分すら理解しない巨乳娘と、返事も慣れた様子で、歩くレールを敷きなおすギャル。

 簡単だ、ギャルはお姉さんでゴスロリ娘は妹と言った所。

 携帯を片手に材料を探しては値段で悩んだり、必要かで悩んだりするものの。

独りは飽きてきたようで販売コーナーの冷蔵庫部分を観察しては何かを手にとって見つめていた。

と同時にギャルはそれを止めに入った。

「出来上がりのプリンはやめようね! あたし達で作らないと意味無いから、ね? 」

 出来上がりのほうが美味しいんじゃないか? そう思うゴスロリ巨乳だが、金髪ギャルに逆らおうとは思わないまま、一先ず理解したフリをして商品を棚に戻した。

 「卵と牛乳買わないとね 」


 売ってる物のほうが確実だし簡単だろうと思ったが否定しないまま一緒にアイテムを探して回る。

 こんなバランスの悪い所は、性格から胸のでかさまで繋がっていたが二人は無敵だった。

 アイテム集めというゲーム感覚のお買い物は、ギャルがゴスロリを止める展開が続くものの、一通り買い物が終わった。

 売り場の端にひっそりと存在した花火セットを買うことを二人は忘れない。

 花火を買ったおかげで予算は数千円オーバーしたものの、満足なダンジョン攻略が出来たわけだ。

 手を繋いで部屋まで戻ることも二人にはいつものことだ。

 女の子同士であること意外は引っかかりようの無い日常は、少し歪んだ空間であることに気付かないまま時間を大切に思える瞬間だった。

 そして真夏日を更新する事となった今日この時間。

二人は一緒に過ごす部屋へ急いで帰ることを決めた。


 「お帰りなさいませ 」

 迎え入れられた言葉の先に男の娘姿。 派手な金髪にスクールガール風の格好……

 もう慣れた二人は、そこを突っ込む気持ちなどは無い。

 そんな場所の1階部分は喫茶店と言うかサロンと言うべきか、言ってしまえば何かしらのお店である。

 「ただいま! 」

 「ただ、い、ま? 」

 二人はいつものように必要な言葉だけを発しては二階部分の自分達の縄張りへ急いで避難。 すぐさま二人の会議室、各々携帯を開いてプリンとは何ぞ? と調べ始めては寝そべった脚をバタバタさせて考え込んだ。 素足をバタつかせ、黒タイツをバタつかせ。

 ほぼ同時ではあるが作れる気のしてきた二人は、どちらが手を挙げるまでも無く会話し始める。

 「こうすれば出来るね! 」

 金髪に近い茶髪をなびかせて子悪魔は言う。

 「う、ん 」

 それはもう一人の子悪魔も同じだった。

 そこからは話早く、階下へ急ぎ足音を気にしないまま二人はキッチンを目指した。

 そこは木材の天板がカウンターを作り上げる昭和モダンな場所。

 お店スペースの一部であるが、男の娘一人で今は営業している時間。

 二人を阻むことは何も無かった。

 「よーし! 」

 そう気合を入れたギャルは髪を後ろに纏めた。 ゴスロリ娘はヘッドドレスを締めなおし、二人は卵を割ったりミルクをボールに入れたり準備に大忙しだ。

 「よ、し 」

 ゴスロリ娘は何故か左手指の間に試験管を数本構えた。

 実験室を彷彿させるには事足りていて、赤黒い煙が瞬間的に吹き上がる試験管を見れば解る…… プリンが如何に難しい作成工程か……

 「そ、それ? 中身何? 死人出るんじゃ…… 」

 「と、う、がら、死? 」

 赤黒い煙の中身は唐辛子と何かを混ぜた激辛カラメル……

 二人の女の子はこれ以上無い程の下心を出して、声は出さないままお互いを見つめた。

 これは偉い事になる……

 そう思い調子に乗ってプリンを作り出した。 この後が楽しみで仕方なかった。

 男の娘が悶え苦しむ顔を想像して二人は愉快な気持ちになり、型取りに流し込んではカラメルを乗せてプリンは完成していく。

 ミルクプリン、カスタードプリン、アボカドプリンと変り種も作り、二人の自信作は唐辛子プリンである。

 「完成! 」

 「で、き、たね? 」

 達成感は半端無く、お互いの手を取り笑顔でその場を飛んだ!

 夕飯までの間、冷蔵庫にそれを移し部屋へ戻って宿題を済ませたりすると、いつも通りベッドの上で携帯ゲームを始めるゴスロリ娘と、嫌いな勉強をまだ終わらせられないままのゆるふわギャル。

 勉強が終わる頃にタイミングが重なった。

 「ご飯ですー 」

 部屋の前まで夕飯を呼びに来た男の娘、今も際どいスクールガール風コスに目を向ける。

 「あんたってマジ年齢不詳だよね…… 」

 褒め言葉、そうとった男の娘、今日はパスタですーと語尾を伸ばす。

 「性別、も、不詳、じゃ、ね? 」

 下唇に左手の人差し指を当てて斜め上をゴスロリ娘は見ていた。

 ともかくご飯なのだ!


 「いただきまーす 」

 一階部分は店舗だが、お客は店内に残ってはいない。

 こういう日は店内で食事するのが良しとされていた。

 カウンタテーブルにステンレス製の背の高い椅子がある。

 前髪ぱっつんギャルはこの席がお気に入りだ。 機嫌の良い時ほど地面に届かない脚をふらつかせては食事する。 お気に入りのマグカップにはコーンスープが入っていて、店内の室温ならちょうど良く食べられる温かさだ。

 ゴスロリに身を包んだ女の子も、皆で食べる時間がお気に入りだった。

 男の娘が用意してくれた食事も美味しいし、自分専用に食器まであるのだから気に入らない理由なんて無かった。 健康に気を使い過ぎる様で、食べ物が何か気にする事も多いけど、二人とも良く食べて良く遊んだ。


 「アスパラベーコンのクリームソースに、牛肉のワイン煮込みシチリア風ですー 」


 サラダにスープにパスタ二種類が存在感を競い合う事無くテーブルに広がっている。

 このクオリティは二人には真似出来ないし、悔しい気持ちよりも尊敬すらしてしまう。

 「おぉ…… 」

 「ふぉ! シ、チリ、ア風、であった、か! 」

 慣れない知ったかぶりも、男の娘は気にすることも無く胸の前で両手を広げた。

 「召し上がれー 」

 よーいどんで食事は始まった、急いで食事している風なだけで二人の女の子は食べるのも遅かった。 いつも食事の時は慌しい雰囲気で食べたりする事に憧れだった二人。

 いざ競争心を出して食事しても、仲良く食べてしまう。

 そんなやり取りを見ながら、揚げ物を用意し終わった男の娘は笑顔を見せている。

 そしてカウンタ内で向き合って食事に参加、男性だけあってモリモリ食べるのが二人は最初驚いた。 今はもう慣れたもので辛いものが苦手な男の娘に、わざとタバスコを入れてみたり、隙を窺っては悪戯をした。

 食事も終わり夜も更けた頃花火を用意していた二人は得意気にそれを出した。

 「じゃー、ん? 」

 凄いでしょ? そう言いたそうにゴスロリ服の袖の先には花火セットがアピールされている。

 「お片付け終わったら三人で花火ですー 」

 相変わらず語尾を伸ばす男の娘は胸の前で軽く両手を合わせた。


 プチ花火大会は近所の公園。

 男の娘に向けて連発式の花火に火を付ける、ゴスロリ娘……

 「まずいって! 」

 「そ、う? 」

 何処までが冗談で済まされるか今一解らないのか、人に向けて花火の危険性を考察する。

 貧乳されど、巨乳されど駄目なものは駄目である。

 気付いた男の娘は子供騙しに付き合ってあげようかと一発目、二発目とクールにかわす。

 「僕だってこれぐらい避けれるですー 」

 そう身軽に、振り下ろされた刃を葉書一枚分でかわす男の娘は、異変に気付かないまま腰に両手をつけて笑顔した。

 「人に花火向けたら駄目ですー 」

 右手の人差し指を顔の高さまで上げると、二人に注意した男の娘。

 反省しているのか、驚いているのか?

そう取れなくも無い視線の先は男の娘の頭上だった。

 それに気付いた男の娘は、動物的反射で頭に備えたウィッグを地面へ放り投げた。

 「酷いですー 燃えてるですー 」

 少し前まで派手な金髪を振り乱していた男の娘が、ゲイバーのそれと見分けが付かなくなった瞬間、二人の女の子はお腹を抱えて笑った。

 怒る気も失せた男の娘…… ヘアバンドであげたオカマ状態の髪型のまま、花火を楽しむことになる。

 「楽しかった! 」

 そう二人は笑顔で片付けを終わらせると、ヘアバンド姿の男の娘と広場を歩き始めた。

 帰り道、初めて見る蝉の幼虫を見つけて街路樹の一つを目の前に三人は足を止める。

 「初めて動いてる所見たよ 」

 「じ、ぶ、ん、も? 」

 蝉の幼虫はこれから何処を目指すのか……

 聞いても解らないことだったが、誰かの台詞を覚えているままに男の娘は話し出した。

 「蝉は一週間で死んじゃうですー 」

 だけど実はこの子達、土の中に6年から8年は生きてるんですー。 成虫は(大人になると)一週間で死ぬと言われているけどそれまでは暗い世界を一生懸命生きるのですー。

 大人になったらすぐに死んでしまう彼らは、鳴き声を奏で続けて恋人を探すのですー。

 それは凄いエネルギー、彼らは食べることも忘れて恋人を探すんですー。

 だから彼らの声を聞いたときに、どれだけ彼らの想いを知ろうとするかが人間として美しい感情なんだって、あの人が言ってたですー。


 「あたしたちは、ずっと一緒だもん 」

 「う、ん…… 」

 二人の言霊は街路樹を駆け抜け、ヘアバンド姿の男の娘は納得した姿を見せて頷いた。

 蝉の生涯を人の生涯と照らしてみると、蝉が土から出る頃には70歳ほどの高齢者。

 その高齢者は10キロ先まで聞こえる声で恋人を探す為に歌い続ける。

 人も虫も生涯燃え上がる瞬間程短くて少ない。

どれだけ何が出来るかは本人ですら解らない。

 それはこの物語でも解らないこと。


 「ずっと一緒にいようね 」

 「ずっと、一緒に、い、ま、すよ? 」


 「あの人はこうも言ってたんですー 」


 瞬間を美学として生きるわけではないよ。

 生きるとは、我々人間のエゴをぶつけ合うだけかもしれない。

 人が孤独で居られると思うのは思い込みだ、失ってから気付くこともある。

だからこそ何かを無くしてしまわない為に、今を大事に生きた方が良くないか?


 問う無かれ……

誰が為に鐘は鳴る……


 誰の為に死んだのかなんて良いじゃないか。

 きっと君の為に死んだのさ。


 「難しい話だね…… 」

 「う、ん 」


 この後男の娘が唐辛子プリンを食べて悶絶した。

 そんな一日が確かにあった。


 子悪魔が二匹いる。 簡単に説明して一匹目の姿を紹介しよう。

金髪に近いふわふわ茶髪は腰元まで伸びている。 前髪はぱっつん、綺麗に揃えて、カラコン装着の付けマツゲ。


 そして貧乳…… 可愛い女の子が好きなギャル。


 二匹目は無敵ボディのゴスロリ娘。 前髪ぱっつん、おかっぱボブカットのコミュ障。

 エフカップ、ヲタクで地味娘…… 狐目ちゃん。 大人しいと言われるが暗いだけ。

 そんな二人が良からぬ事を今日も考えては一日が始まった。


 作戦はいつだって部屋のテーブルを挟んで行われる。

 ガラスで出来たテーブルの上。 二人が好きな飲み物と、少しだけのお菓子を出して語り合う。

 それだけあれば一日なんて過ぎてしまう、毎日は短すぎて忙しかった。

勉強しろとか家の事やれとかどうでも良い、大人の都合でコントロールされたくないお年頃なのだ。

 勉強とは目的が違うまま、まっさらなノートをテーブルに開いて二人で会議を進める。お互いは頷くと、ノートに何かを書いて場所や数字を記入した。

 絵心は二人には無いようで、難しい顔をしては笑顔になり、笑い声は部屋を反響して蝉の鳴き声と競い合った。

 これで解るように今は夏、競い合う気持ちも無いままに、女の子と蝉時雨が競演する。

 「ぐー、ちょき、ぱーは完成だね! 」

 貧乳ギャルは自信を見せて言う。 その悪巧みに満足気な笑顔。

 「う、ん 」

 ゴスロリ巨乳娘も自信を持ったのか、普段は見せないキリリ顔を頷かせた。

 そして勉強はここまでと決めて、二人は外へ行こうと準備を始める。

 お互いが塗り合う日焼け止めはお気に入りの時間。


 物語の全貌を語る必要は無いのだが、二人は一緒に暮らしている。

 そこには男の娘も住んでいる。 (解り易く言えばオカマである)

 彼女達が今日外へ行くのは、お世話になっている男の娘へプレゼントをするため。

買い物へ向かうことにした。

「いつも夜ご飯作ってもらってるしね、あいつの好きなプリンを作ってあげよう! 」

 「う、ん 」

 彼女達の生活空間は奇妙でいて、夕飯は女装した美男子が作ってくれる。

 二人が作るよりも格段に美味しく、勉強が終わる頃には今日の夕飯何かな? そう話す事もあるほどだった……

 それが数日と続いて子悪魔二匹思った。

 『少しは感謝の気持ちを表さないと…… 』

二人が本当にそう思ったのか、そこは深い問題ではなく、二人が本当に手作りプリンを作り上げるか気になるところ。

 「今日のダンジョンはー、こちら! 」

 金髪娘はテンション高くショッピングセンターを指差してダンジョンと言い切った。

 そこに突っ込む様子は何も無いまま答えが返ってくる。

 「攻略、し、が、いが、ある、ね? 」

 何を攻略するつもりなのか? 感覚まともな人間では解らない程の会話内容である。

二人の日常はこれで成り立つわけで、ギャルとゴスロリの異色コンビだが妙に気が合いお互い大好きだった。

 「ど、ん、な、プリ、ン、が、待って、るん? 」

 「待ってない! 待ってないよ! あたしたちで作るんだからね? 」

 ズレているコミュ障の巨乳ゴスロリを、、ややオーバーに止める貧乳ギャル……

 「そ、う? 」

 そういう自分すら理解しない巨乳娘と、返事も慣れた様子で、歩くレールを敷きなおすギャル。

 簡単だ、ギャルはお姉さんでゴスロリ娘は妹と言った所。

 携帯を片手に材料を探しては値段で悩んだり、必要かで悩んだりするものの。

独りは飽きてきたようで販売コーナーの冷蔵庫部分を観察しては何かを手にとって見つめていた。

と同時にギャルはそれを止めに入った。

「出来上がりのプリンはやめようね! あたし達で作らないと意味無いから、ね? 」

 出来上がりのほうが美味しいんじゃないか? そう思うゴスロリ巨乳だが、金髪ギャルに逆らおうとは思わないまま、一先ず理解したフリをして商品を棚に戻した。

 「卵と牛乳買わないとね 」


 売ってる物のほうが確実だし簡単だろうと思ったが否定しないまま一緒にアイテムを探して回る。

 こんなバランスの悪い所は、性格から胸のでかさまで繋がっていたが二人は無敵だった。

 アイテム集めというゲーム感覚のお買い物は、ギャルがゴスロリを止める展開が続くものの、一通り買い物が終わった。

 売り場の端にひっそりと存在した花火セットを買うことを二人は忘れない。

 花火を買ったおかげで予算は数千円オーバーしたものの、満足なダンジョン攻略が出来たわけだ。

 手を繋いで部屋まで戻ることも二人にはいつものことだ。

 女の子同士であること意外は引っかかりようの無い日常は、少し歪んだ空間であることに気付かないまま時間を大切に思える瞬間だった。

 そして真夏日を更新する事となった今日この時間。

二人は一緒に過ごす部屋へ急いで帰ることを決めた。


 「お帰りなさいませ 」

 迎え入れられた言葉の先に男の娘姿。 派手な金髪にスクールガール風の格好……

 もう慣れた二人は、そこを突っ込む気持ちなどは無い。

 そんな場所の1階部分は喫茶店と言うかサロンと言うべきか、言ってしまえば何かしらのお店である。

 「ただいま! 」

 「ただ、い、ま? 」

 二人はいつものように必要な言葉だけを発しては二階部分の自分達の縄張りへ急いで避難。 すぐさま二人の会議室、各々携帯を開いてプリンとは何ぞ? と調べ始めては寝そべった脚をバタバタさせて考え込んだ。 素足をバタつかせ、黒タイツをバタつかせ。

 ほぼ同時ではあるが作れる気のしてきた二人は、どちらが手を挙げるまでも無く会話し始める。

 「こうすれば出来るね! 」

 金髪に近い茶髪をなびかせて子悪魔は言う。

 「う、ん 」

 それはもう一人の子悪魔も同じだった。

 そこからは話早く、階下へ急ぎ足音を気にしないまま二人はキッチンを目指した。

 そこは木材の天板がカウンターを作り上げる昭和モダンな場所。

 お店スペースの一部であるが、男の娘一人で今は営業している時間。

 二人を阻むことは何も無かった。

 「よーし! 」

 そう気合を入れたギャルは髪を後ろに纏めた。 ゴスロリ娘はヘッドドレスを締めなおし、二人は卵を割ったりミルクをボールに入れたり準備に大忙しだ。

 「よ、し 」

 ゴスロリ娘は何故か左手指の間に試験管を数本構えた。

 実験室を彷彿させるには事足りていて、赤黒い煙が瞬間的に吹き上がる試験管を見れば解る…… プリンが如何に難しい作成工程か……

 「そ、それ? 中身何? 死人出るんじゃ…… 」

 「と、う、がら、死? 」

 赤黒い煙の中身は唐辛子と何かを混ぜた激辛カラメル……

 二人の女の子はこれ以上無い程の下心を出して、声は出さないままお互いを見つめた。

 これは偉い事になる……

 そう思い調子に乗ってプリンを作り出した。 この後が楽しみで仕方なかった。

 男の娘が悶え苦しむ顔を想像して二人は愉快な気持ちになり、型取りに流し込んではカラメルを乗せてプリンは完成していく。

 ミルクプリン、カスタードプリン、アボカドプリンと変り種も作り、二人の自信作は唐辛子プリンである。

 「完成! 」

 「で、き、たね? 」

 達成感は半端無く、お互いの手を取り笑顔でその場を飛んだ!

 夕飯までの間、冷蔵庫にそれを移し部屋へ戻って宿題を済ませたりすると、いつも通りベッドの上で携帯ゲームを始めるゴスロリ娘と、嫌いな勉強をまだ終わらせられないままのゆるふわギャル。

 勉強が終わる頃にタイミングが重なった。

 「ご飯ですー 」

 部屋の前まで夕飯を呼びに来た男の娘、今も際どいスクールガール風コスに目を向ける。

 「あんたってマジ年齢不詳だよね…… 」

 褒め言葉、そうとった男の娘、今日はパスタですーと語尾を伸ばす。

 「性別、も、不詳、じゃ、ね? 」

 下唇に左手の人差し指を当てて斜め上をゴスロリ娘は見ていた。

 ともかくご飯なのだ!


 「いただきまーす 」

 一階部分は店舗だが、お客は店内に残ってはいない。

 こういう日は店内で食事するのが良しとされていた。

 カウンタテーブルにステンレス製の背の高い椅子がある。

 前髪ぱっつんギャルはこの席がお気に入りだ。 機嫌の良い時ほど地面に届かない脚をふらつかせては食事する。 お気に入りのマグカップにはコーンスープが入っていて、店内の室温ならちょうど良く食べられる温かさだ。

 ゴスロリに身を包んだ女の子も、皆で食べる時間がお気に入りだった。

 男の娘が用意してくれた食事も美味しいし、自分専用に食器まであるのだから気に入らない理由なんて無かった。 健康に気を使い過ぎる様で、食べ物が何か気にする事も多いけど、二人とも良く食べて良く遊んだ。


 「アスパラベーコンのクリームソースに、牛肉のワイン煮込みシチリア風ですー 」


 サラダにスープにパスタ二種類が存在感を競い合う事無くテーブルに広がっている。

 このクオリティは二人には真似出来ないし、悔しい気持ちよりも尊敬すらしてしまう。

 「おぉ…… 」

 「ふぉ! シ、チリ、ア風、であった、か! 」

 慣れない知ったかぶりも、男の娘は気にすることも無く胸の前で両手を広げた。

 「召し上がれー 」

 よーいどんで食事は始まった、急いで食事している風なだけで二人の女の子は食べるのも遅かった。 いつも食事の時は慌しい雰囲気で食べたりする事に憧れだった二人。

 いざ競争心を出して食事しても、仲良く食べてしまう。

 そんなやり取りを見ながら、揚げ物を用意し終わった男の娘は笑顔を見せている。

 そしてカウンタ内で向き合って食事に参加、男性だけあってモリモリ食べるのが二人は最初驚いた。 今はもう慣れたもので辛いものが苦手な男の娘に、わざとタバスコを入れてみたり、隙を窺っては悪戯をした。

 食事も終わり夜も更けた頃花火を用意していた二人は得意気にそれを出した。

 「じゃー、ん? 」

 凄いでしょ? そう言いたそうにゴスロリ服の袖の先には花火セットがアピールされている。

 「お片付け終わったら三人で花火ですー 」

 相変わらず語尾を伸ばす男の娘は胸の前で軽く両手を合わせた。


 プチ花火大会は近所の公園。

 男の娘に向けて連発式の花火に火を付ける、ゴスロリ娘……

 「まずいって! 」

 「そ、う? 」

 何処までが冗談で済まされるか今一解らないのか、人に向けて花火の危険性を考察する。

 貧乳されど、巨乳されど駄目なものは駄目である。

 気付いた男の娘は子供騙しに付き合ってあげようかと一発目、二発目とクールにかわす。

 「僕だってこれぐらい避けれるですー 」

 そう身軽に、振り下ろされた刃を葉書一枚分でかわす男の娘は、異変に気付かないまま腰に両手をつけて笑顔した。

 「人に花火向けたら駄目ですー 」

 右手の人差し指を顔の高さまで上げると、二人に注意した男の娘。

 反省しているのか、驚いているのか?

そう取れなくも無い視線の先は男の娘の頭上だった。

 それに気付いた男の娘は、動物的反射で頭に備えたウィッグを地面へ放り投げた。

 「酷いですー 燃えてるですー 」

 少し前まで派手な金髪を振り乱していた男の娘が、ゲイバーのそれと見分けが付かなくなった瞬間、二人の女の子はお腹を抱えて笑った。

 怒る気も失せた男の娘…… ヘアバンドであげたオカマ状態の髪型のまま、花火を楽しむことになる。

 「楽しかった! 」

 そう二人は笑顔で片付けを終わらせると、ヘアバンド姿の男の娘と広場を歩き始めた。

 帰り道、初めて見る蝉の幼虫を見つけて街路樹の一つを目の前に三人は足を止める。

 「初めて動いてる所見たよ 」

 「じ、ぶ、ん、も? 」

 蝉の幼虫はこれから何処を目指すのか……

 聞いても解らないことだったが、誰かの台詞を覚えているままに男の娘は話し出した。

 「蝉は一週間で死んじゃうですー 」

 だけど実はこの子達、土の中に6年から8年は生きてるんですー。 成虫は(大人になると)一週間で死ぬと言われているけどそれまでは暗い世界を一生懸命生きるのですー。

 大人になったらすぐに死んでしまう彼らは、鳴き声を奏で続けて恋人を探すのですー。

 それは凄いエネルギー、彼らは食べることも忘れて恋人を探すんですー。

 だから彼らの声を聞いたときに、どれだけ彼らの想いを知ろうとするかが人間として美しい感情なんだって、あの人が言ってたですー。


 「あたしたちは、ずっと一緒だもん 」

 「う、ん…… 」

 二人の言霊は街路樹を駆け抜け、ヘアバンド姿の男の娘は納得した姿を見せて頷いた。

 蝉の生涯を人の生涯と照らしてみると、蝉が土から出る頃には70歳ほどの高齢者。

 その高齢者は10キロ先まで聞こえる声で恋人を探す為に歌い続ける。

 人も虫も生涯燃え上がる瞬間程短くて少ない。

どれだけ何が出来るかは本人ですら解らない。

 それはこの物語でも解らないこと。


 「ずっと一緒にいようね 」

 「ずっと、一緒に、い、ま、すよ? 」


 「あの人はこうも言ってたんですー 」


 瞬間を美学として生きるわけではないよ。

 生きるとは、我々人間のエゴをぶつけ合うだけかもしれない。

 人が孤独で居られると思うのは思い込みだ、失ってから気付くこともある。

だからこそ何かを無くしてしまわない為に、今を大事に生きた方が良くないか?


 問う無かれ……

誰が為に鐘は鳴る……


 誰の為に死んだのかなんて良いじゃないか。

 きっと君の為に死んだのさ。


 「難しい話だね…… 」

 「う、ん 」


 この後男の娘が唐辛子プリンを食べて悶絶した。

 そんな一日が確かにあった。

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