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モンスタースレイヤー ~竜の吐息を持つ者~  作者: 中村 海斗
はるかかなたへ
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嵐の前触れ

訪ねて来たのは、ジェイムズ・ホーガンと名乗る男だった。

ジェイムズいわく、イシュメールとは旧知の仲だと言うが、会うなり苦虫を噛み潰したようなイシュメールの顔を見れば、どこまで本当の事なのか、リーチには検討もつかなかった。


「それで、要件を言え、ホーガン」


居間に通すなり、イシュメールはぶっきらぼうに言い放つ。ジェイムズは気にした様子もなく、ずかずかと席に着いた。


「そう険悪にするなよイシュメール、それに俺を呼ぶときはファーストネームで呼べと前に言ったはずだ」


ジェイムズの酒臭い息を嗅いで、リーチは思わず息を詰まらせる。ひょうきんな振る舞いと紅潮した頬を見ればここに来るまでに、酒をしこたま飲んでいる事は明らかだった。


「俺がハーミアとの戦争で出兵していた事は知っているだろう?二年ぶりに地元に帰ってきたんだ、馴染みの顔を見に来ることはそう不思議じゃないだろ?」


ジェイムズは担いでいた剣と盾に手を回して、これ見よがしに叩いた。剣のみを背負ったイシュメールとは対照的だったが、ジェイムズが戦働きをしていたという話は本当のようだ。


「そうか、もう二年にもなるのか」

イシュメールは素っ気なくいい放つ。


「東国の侵略国、ハーミアを相手に俺達、騎士は剣と盾を両手に切った張ったの大活躍。俺達の華々しい活躍の甲斐あって、ハーミアは休戦協定を申し込んできた。愛する祖国ファルケニアが平和に暮らせるのは俺達の活躍あっての物だ!」


歌うようにジェイムズは、自信の活躍を豪語した。

「それなのに…」憤慨した様子でジェイムズはイシュメールを睨む。

「お前たちモンスタースレイヤーはどうして戦場には出てこない!」


「モンスタースレイヤーに出兵義務は下りないからだ」

さも当然といった様子でイシュメール。


「この国で生まれ、育ち、闘うすべを持っている者になぜ出兵義務が下りない?」


「自分で考えてみろ」


冷たくあしらわれたジェイムズは酔ってふらふらした視線を泳がせ、やがてリーチと目があった。

「おい坊主、名前は何て言うんだ?」


ぶしつけな態度に少々困惑したリーチだが「リーチ・ムラカミ、十四歳です。イシュメールからは訳あって怪物との戦い方を教わってます」と頭を下げた。こちらの世界に来てから、イシュメールの知り合いと話すのは初めてだったリーチは少しはにかんでいた。


「ほう、俺とイシュメールが十四の頃よりはしっかりしてそうだ」


即座にイシュメールは、「一緒にするな」と手で制する。

「イシュメールは今でこそ落ち着いたが昔は喧嘩っぱやくて、一緒にごろつきに挑んだこともあるんだぜ。二人でごろつきを絞めてたら、ごろつきが三人出て来て川に飛び込んで逃げた事もある」


リーチは意外だ、と言わんばかりに「本当ですか!?」と声をあげた。

当のイシュメールはまんざらでもなさそうに、「あったな、そんな事も…」と呟いた。仲が悪いと言うよりは腐れ縁なのだろう。


「それで、リーチ君は将来的にはモンスタースレイヤーになるつもりなのか?」


リーチは少し困った様子で「いや、少し考えていて」と、頭をかいた。イシュメールからはモンスタースレイヤーになる為のセンスが備わっていると言われていたが、まだ自分から怪物と一戦交える覚悟が出来ていないのだ。


「怪物からの自営目的でモンスタースレイヤーの技は習っているんです」

リーチはうまく茶を濁す事にした。そんなリーチにジェイムズは鼻息荒く豪語する。


「最終的にモンスタースレイヤーになるのは良いが、間違ってもイシュメールのような非国民になるんじゃないぞ」


「誰が非国民だ」


イシュメールがムッとして言い返した。


「国が戦争で逼迫している中、武器と力を持ちながら悠々自適な生活を送る者の呼び方には相応しいだろう」


ジェームズはふてぶてしく言った。


「出兵して多くの戦果を上げるモンスタースレイヤーもいた。リーチ君には是非そう言った物わかりのある大人になって欲しいものだ」


イシュメールは苛立たしげに指で机をつついた。「そう言えばホーガン、奥さんとは上手く行っているのか?」話題を変えようとしているのだろう、イシュメールは脈絡なく話をすり替えようとした。


「おお、イシュメール。妻のナタリアなんだが」ジェイムズは目を輝かせた。どうやら相当な愛妻家のようだ「俺の…、俺達の子供が産まれたんだ」


イシュメールは短く口笛を吹いて、嬉しそうに口角をつり上げる。

「いつ産まれたんだ?」


「もう一年も経つんだがな、ナタリアの奴、戦場で戦う俺に心配をかけたくないとか言って、休戦協定が結ばれるまで黙っていやがった」


「良くできた家内じゃないか」


「俺にはもったいないぐらいにな」


二人はそう言って互いのにやけ顔を見て笑い合った。リーチはなにが面白いのかわからず、目を丸くする。

「あの、ご家族にお会いにならなくても大丈夫なのですか?」

おずおずとリーチが訪ねた。


「そうしたいところだが、帰郷する前に貨物馬車を護送しなければならん。それがなければ、飛んで家に帰るんだがな」


ジェームズは顎をさすり「今日は夜営地から、ここまでが近かったから久しぶりに顔を見せに来たんだ。それじゃあそろそろ退散するぜ」と言って席を立った。


「待てよ、ホーガン」

イシュメールは立ち去ろうとするジェームズを引き留め、居間の奥からガラス瓶を持ち出してきた。ガラス瓶はエメラルド色をしており、中に詰められた液体が相応に高価な代物である事が見て取れる。

「上等なワインだ。一杯やろう」


ジェイムズは無言で席に着いた。その明るい表情を見れば、心から晩酌を望んでいることがわかった。

「一杯?冗談だろ、とことんまで付き合うぜ」

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