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モンスタースレイヤー ~竜の吐息を持つ者~  作者: 中村 海斗
はるかかなたへ
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狼の夜


嵐が吹き荒れる森のなかを、一人の男がしっかりとした足取りで進んでいた。男は年の頃は三十代中頃、背中に細長い剣をくくりつけ、筋肉質で身長は百八十センチを越える大男だった。


大男は豪雨を気にする様子もなく森の奥深く、更に深く進んでいた。雨具も持たず夜更けの嵐の中を歩く姿は浮浪者そのものだったが、その眼光には強者のみが帯びる強い光が宿っていた。

大男は不意に素知らぬ方に顔を向けると、その眼光は木々の間に走る大柄な足跡を捉えた。


「…この足跡、動物ではないな。もっと大型だ。熊憑きにしては小さい、狼憑きか」


早口にそう呟くと、颯爽と足跡をたどり、更に森の奥に進みはじめる。


しばらくして、足跡の先から甲高い叫び声が聞こえてきた。まだ声変わりを終えてない少年の声だ。


「人がいたのか。こんな夜更けにのろまな奴め!」


大男は舌打ちをするとまじないらしき言葉を呟いた『アイン・グウェン・ブリング!!』何かに弾かれた様に大男は十数メートル先まで跳躍した。

叫び声の下にたどり着くとそこにはぐったりした小柄な少年と、今にも少年に飛びかかりそうな異形の怪物がそこに立っていた。


「おい、狼憑き。そいつより俺の魔素の方が美味いぞ!」


振り向いた狼憑きは醜悪な牙を覗かせ短い鬨の声を上げた。巨大な前腕から伸びた爪は長さ三十センチにまで及ぶだろう。フェイズ2の怪物、狼憑きの雛だ。


「その汚いうなり声を断末魔の叫びに変えてやる!」


刹那、視界がほとんどきかない森の中をまばゆい光が走り抜けた。遠方で落雷が発生したのだ。

夜目を持たない大男はその好機を逃さなかった。狼憑きに間合いを積めると剣を抜いて振り下ろしたのだ。

狼憑きは身を引いてかわすと体をひねって右の爪を突き出し、大男を引き裂こうとした。


「アイン・グウェン・ブリング!」


呪文を呟くと再び大男は後方に飛び退いた。先ほど跳躍した時に唱えた呪文だ。

攻撃をかわされた狼憑きは口惜しそうに歯噛みする。


「空気のルーンを目にするのは初めてか、では炎のルーンはどうだ!?」

手をかざし、大男はまた呪文を呟いた『ウノ・サヴァラン・イシュドラ!!』


次の瞬間、熱線が狼憑きに向けて放たれた。虚をつかれた狼憑きは熱線に身を焼かれ弱々しい叫び声を上げる。


「アイ、アイアアイ、アイ、アアアアア…」


相手が自信より格上だと理解した狼憑きは周囲の木立を矢面にして熱線を防ぎ、大男から一目散に逃げ出した。

逃げ出した狼憑きを大男は追おうとはしなかった。他に優先する事があったからだ。


「おい小僧、今治療してやる」


幸いにも少年のケガは命を左右するほどの物ではなかった。狼憑きから受けた軽い裂傷、恐らく倒れた時にできた打撲、その程度の物であった。怪物に襲われてこれほど軽症の内に助けられることは奇跡に等しいと大男は経験で知っていた。


「俺の名前はイシュメール・クラフトお前の名前は?」


「……村上…利一」


イシュメールにとってその名前は聞き覚えがなかった。少なくとも自国の名前ではない。東国との戦争で流れてきた難民の子かとも考えたが、東国特有に訛ってもいなかった。


「リーチ、お前は何処の国出身だ?」


リーチと名乗る少年は不思議そうな顔をするとこう答えた。


「…日本、日本の○県、△市です。…ここは…、どこですか?」


イシュメールは納得したのちこう答えた。リーチが居た国を知っていたのだ。


「リーチ、驚くなよ。ここはお前が住んでいた世界とは違う。お前に解りやすく言うならここは、異世界だ」


この世界には怪物と、ルーンと呼ばれる魔法が存在する。

怪物は人々を餌とし、人々は怪物専用の狩人、モンスタースレイヤーの庇護のもと安寧を享受していた。

この物語は、ある高名なモンスタースレイヤー、イシュメールに拾われた少年リーチの出会いと成長の物語である。


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