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第09話 これから毎日、家を焼こうぜ?

次回から夕方更新にしようかなと思う今日この頃

皆様いかがお過ごしでしょうか


 樹上拠点ゴリラハウスが燃えている

 轟々と立ちあがる炎

 バチバチと爆ぜる火花

 もはや手遅れだ


ゴブチー「うぇ…… うあぁぁぁ」


 俺の隣でゴブチーが嗚咽をあげる

 両手で口を抑え、涙はとどめなく流れている

 いいんだ、ゴブチー

 仕方ないさ、間が悪かったんだ


 落ち着け

 そしてバナナでも食え


ゴブチー「あむあむあむ……おぃひい…」


 涙ぐみながらもとりあえず落ち着くゴブチー

 どうしてこうなったか振り返ってみよう



 ………………



 あの後、俺は激しすぎる頭痛によって気を失った

 しばらくして目は覚めたんだが、頭痛は続いてた

 療養が必要だと思った俺はひとまず樹上拠点ゴリラハウスへと戻ったんだ


 痛む頭を押さえながら戻った俺を迎えてくれたのがゴブチーだ

 彼女は取り乱し、あたふたと泣き、決意の表情でどこかに出ていった

 戻ってきたゴブチーはいろいろ持ってた

 滝の上から汲んできた新鮮な水を俺の顔にぶっかけ

 何やらよく分からない苦めの草を俺の口に突っ込み

 泥みたいな苔みたいな何かを火にくべて燻しだした


 室内で


 樹上拠点ゴリラハウスは木造だ

 床で火を焚けば燃えるのは当然だ

 バナナで知恵をつけたとはいえゴブチーはもともとゴブリン

 火の扱いに関する知識が全く足りなかったんだな


 頭痛をこらえボンヤリとそれを見ていた俺は判断が遅れた

 炎が床を焦がし屋根に燃え移るに至ってようやく気づき、ゴブチーを抱えて飛び出したんだ


 うん、確かに頭痛は治ったな

 それどころじゃなくなったもんな


 俺はべそ泣きするゴブチーの肩にポンと手を置く

 心配すんなのポーズだ

 ここには元々ほとんど物は置いてない

 それに第二拠点セカンドハウスもある

 村の中に住んだっていい

 それになにより……


俺「ウホウホウホアー(【空間結界ゴリラウォール】)!!」


 あのときバナナで読んだ本が空間魔法の資料だったんだ

 今まで知識不足だったが使い方はもう把握した


 俺は樹上拠点からの延焼を防ぐためその周囲を結界で囲む

 光以外の全ての干渉を通さない次元の断絶だ

 これで延焼の心配もない


俺「ウホホ!ウホ!(【空間圧縮ゴリラプレス】)」


 さらに結界ごと圧縮してしまえば燃えていようが関係ない

 樹上拠点ゴリラハウスだったものがゴリラ大の塊になって落下した

 炎が消え去ったのを確認した俺は、ゴブチーに笑いかける


ゴブチー「い、今の……オリバやったの?」


俺「ウホ!」


ゴブチー「オリバ凄い♡」


 羨望の眼差しで俺を見つめるゴブチー

 悪い気はしない

 だが次の瞬間、ゴブチーの表情が曇った


ゴブチー「あ、でも、家……」


 うん、無くなっちゃったね

 でも燃えたのはゴブチーのせいだし第二拠点セカンドハウスの事は教えない

 整理整頓もまだだし、しばらくはゴブリンの集落で暮らすしかないか


ゴブチー「オリバごめん……」


俺「ウホ(気にすんな)」


ゴブチー「気にするよ……」


 あ、いまなんか話通じたかも

 しっかし頭いいけど知識がないって深刻だよな

 何とか教える方法があればいいけど、バナナ使えないしな

 自分なら頭痛を覚悟して使うこともできるけど他人に使わせるのは忍びない


 どうにかできないかと試行錯誤して小一時間

 ようやく満足いくものができました


____________________

【禁断の果実βプレミアム】

人間に知恵を与えたとされる果実の亜種(バナナ)のプレミアム版

その半分は優しさでできている

料理と火の扱いについて食べた者に睡眠学習させる

副作用として強烈な眠気を感じ眠りに落ちる

____________________


 火の扱いだけでいいのになぜ料理まで……

 まあ、役には立ちそうだしいいか

 ゴブチー食べる?

 あ、食べた

 あ、寝た

 これ睡眠薬入り食べ物を同意なしに食べさせた扱いなんだろうか

 日本人だったら犯罪だな

 ゴリラでよかった


 俺はゴブチーを担ぎ上げるとゴブサン達が住んでいた洞穴に向かった

 断崖を登り、ゴブチーを押し込む

 懐かしいなここ

 相変わらず狭いなここ

 掃除しておいてくれて助かったぜ

 洞穴の奥にゴブチーを寝かせ、俺は洞穴を出る

 火打ち石の練習でもしながら待とう


 ゴブチーが起きたのは、夜もとっぷりと暮れてからだった



 ◇



ゴブチー「なんか懐かしーねー」


 洞穴の前、焚き火にあたりながらゴブチーが俺に擦り寄る

 毛皮は敷いていたものの、洞窟の中は底冷えする

 少し前まではここで暮らしていたというのに、便利を知れば不便を感じるものだ

 そんなわけで体を温めようと火にあたっているわけだ


ゴブチー「でもごめんね? なんか寝ちゃって」


俺「ウホッ!?」


ゴブチー「びっくりが消えたから安心したのかな?」


 すいませんそれ俺のせいです

 よく考えたらその場で食べさせなくても良かった

 村に帰って寝る前に食べさせればよかった

 今度からそうしよう

 1晩に1冊ずつ、寝ながら本を読もう


ゴブチー「ねえオリバ。オリバは変わんないよね?」


俺「ホア!?」


 唐突に何を言い出しますかゴブチーさん

 俺、変わったよ?

 人類から類人猿に退化したよ?

 劇的ビフォーアフターだよ?

 なんということをしてくれやがったのでしょう


ゴブチー「兄さんたち、すごく変わったよ……」


 あ、そういう話ね

 というかこいつら兄弟だったのか

 確かにゴブサンもゴブローも最近疎遠だしなー

 何やってんだろあいつら


 とはいえ俺からすればゴブチーも大変化を遂げてるわけで

 なにせゴブリンからハイゴブリンになってるわけで

 オスかメスかも分からぬ毛生えミニゴブリンから美少女なわけで

 なんも言えねえ


 まあ、自分の事とか意外と見えないもんだからな

 気持ち的には変わってないのかもしれない

 とくにゴブチーは出会いからして俺の腹の上で寝てたし

 年齢も分からんし、まだまだ人恋しい年齢なのかも

 ゴブサンとゴブローは何だかんだで独立してるからなー


 俺はゴブチーの頭を軽く撫でた

 あいつらもきっと忙しいんだよ

 別にゴブチーのこと嫌いになったわけじゃないと思うぞ?


ゴブチー「うん、ありがと」


 よせよ照れ臭い


俺「ウホ、ウホァ」


 よし、じゃあ行くか

 俺は魔力灯ランタンを点け、焚き火に土をかけて消す

 魔力灯は第二拠点セカンドハウスから持ち出した唯一の品だ

 ゴブチーには魔力灯を持って背中に乗るよう促した


ゴブチー「いいの? オリバ?」


 抱えて歩くよりはいいな

 邪魔にならないし

 ナックルウォーキングするから背中にも乗りやすかろう?


ゴブチー「んしょ、と」


 ゴブチーを背中に乗せ、俺は歩き出す

 集落の方向へ向かうとすぐに湖へと辿り着く

 最初に集落を目指したときはイカダを引っ張ったっけ

 ほんの少ししか経っていないのにどれもこれも懐かしいな


 さて、前は泳いだけど今はそんな必要もない

 空間魔法で作り出した足場に乗って、水面を歩いていけばいい

 俺の前に道はでき、俺の後ろで道は消える

 そんな感じだ


 背中越しに、ゴブチーが体を震わせるのが分かった

 水面に沈んだ月と星の上をノシノシと歩く

 なかなかにいい月夜だ


ゴブチー「綺麗……」


 背後からぼそりと聞こえる掠れ声

 やっぱ変わったよ、ゴブチーは

 きっとゴブリンのままだったらその言葉は出てない

 むしろ変わってないのはゴブサン達の方かもな

 感受性が豊かになったぶん、距離が開いたのか

 まあ、それに気付いたところで伝える言葉は持ってないんだけど


俺「ウホァ」


 俺は小さく頷き、ペースを落とすことなく歩き続ける

 ゴブチーはそんな俺の背中にこてんと倒れ込んだ


 集落に辿り着いたのは、それから小一時間ほど後のことだった


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[良い点] 面白い。 勢いで読める。 [気になる点] 話の先行き。 [一言] しばらくはありがたく楽しませていただきます。
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