第07話 月が綺麗ですね
ゴリラ普通に生きてた(前回の引きは一体……)
ムラオサとゴブサンの戦いから1週間
支配者がすげ変わったことで、ゴブリンの村は変容を見せつつある
まずトイレが定められた
村内の各地に俺が作った
住居や湖で致す者は逆さ吊りだ
全員吊された
ゴブリン達は学習しなかった
各人3本づつ、バナナが与えられた
ゴブリン達はトイレを覚えた
ゴブリン達は掃除を覚えた
バナナすげえ
ゴブサンが族長になった
ゴブローとゴブチーは参謀だ
いろいろ画策してるけどゴブリンが馬鹿すぎて上手く行ってないみたいだ
何人かハイゴブリンを増やしたほうがいいかもしれない
ゴブリンとハイゴブリンはもはや別種だ
そして俺はモテた
このうえなくモテた
メスゴブリン達にモテた
ゴブハーレムだ
うれしくねえ
継承の儀(ということになった)でみせた仲裁行為が心に響いたらしい
なんでもメスゴブリンは強いオスが好きとのこと
種族違うのに容赦ねえ
集落をうろつくと襲われる
性的な意味で
無理ですごめんなさい
だってオスメスの区別、髪の毛しかねえもん
ソウルもボディも反応しねえよ
なおソウルが反応するゴブチーにはボディがついていかず
ボディが反応するかもしれないメスゴリラには出会ってない
出会ってもまあ無理だろうが
そんなわけでゴブチーとともに樹上拠点に来ています
喧騒から離れた静かなひととき
のんびり食べられるバナナ
素晴らしいです
ゴブチー「オリバ! オリバ! おなかだいじょぶ?」
あ、うん
言いづらいことズバッと聞いてくれるねゴブチーさん
そういえばブッスリ刺されましたよね
うん、全然平気でした
びっくりして【優しき右手】で吹き飛ばしたあと、ムラオサは行方不明になりました
落下地点を探しても居なかったから生きているとは思う
彼の無事を祈るばかりです
あ、炎の大道芸人は帰ってきました
どうやってバナナの皮が取れたのとか全身ヌメるはずなのに何で杖持てたのとか気になることは多いけど俺を見るなり隠れてしまうので聞けないままです
そんでもって脇腹
刺されたと思ったけどかすり傷もついてねーの
ゴリラの腹筋て激しく頑丈なんだな
いやー鍛えといてよかったわー って
お騒がせしました
ごめんなさい
俺「ウホウホ フンッ!」
力を誇示するポージングで健在をアピールしてみる
ゴブチーも満足げだ
そういえばゴブリンの集落について分かったことが
あそこ、たぶん遺跡です
ゴブリンが作ったものではないのは確か
下水道とかあったし
そこ利用してトイレ作ったから楽だった
侵入できない建物もいくつかあった
全体的には朽ちかけた石造りなんだけどそこだけ妙に綺麗なんだ
凄く文明を感じます
見てるとこう胸がざわつくというか興奮が抑えきれません
ただ探索しようにもメスゴブリンがね
倒すわけにいかないエネミーとして立ち塞がるわけでね
今まで手を出せていないわけですよ
ただもう限界
探索したい
そんなわけで今夜にでも行ってみるつもり
何か見つかるかな?
◇(そして夜……)◇
はいどうも、ゴリラです
月が綺麗ですね
今夜は1人で集落の中の怪しいスポットに来ています
パ◯テノン神殿っぽい造りの建物です
ジャングルにパルテ◯ン神殿とか成立背景ガン無視ですね
その割にエンタシスがエンタシスってるところがムカつきますね
大きさは3階建てのビルくらいかな
ここに謎の扉があるわけです
何が謎ってね
開かないんですよ
こう上部がアーチ状になってる両開きの扉なんですがね
中央に隙間が一切ないの
まるで1枚の板みたい
そしてゴリラのレリーフが彫ってあるんだ
完全にゴリラ関係
俺がここにいる理由が分かるかもだ
開けるしかねえ
ウホウホ ウホホい ホイ ホホイ
扉とその周辺を念入りに調べる
蝶番は見えてない。引き手もない
ということは外開きじゃあないってことだ
扉の中央を軽く押してみる
全く動かない
中央に緩みもない
やっぱりこの切れ込みはダミーだな
ゴリラレリーフの口の部分、手が掛かりそうだ
前後に開くのでないとすれば引き戸だ
上下左右のいずれかに動くんだ
扉と壁の取り合いを見てみる
上と左右に扉がめり込んでるな
なるほど、シャッターか
レリーフの口に手を掛け、ぐっと持ち上げる
ゴ、と微かな音を立てて扉がわずかに浮いた
けっこう重いな
人間なら何人かで上げないといけない程度の重さだ
ゴリラ用の扉か
俺はそのへんに落ちてた木の枝を拾い、少し扉を上げてその下に挟む
ゴリラは足でも物を掴めるから楽勝だぜ
なんでそんなことするかって?
扉の内側がツルツルで手掛かりなかったら大変じゃないですか
ゴリラ出入り用の扉じゃなくゴリラ捕獲用の扉だったら大変じゃないですか
だから扉の下にモノ入れて手掛かりつくるのよ
さてご開帳
俺は本格的に扉を持ち上げ、建物の中に滑り込む
真っ暗だな
ゴリラは夜目が効くとはいえ、ここまで暗いと何も見えない
俺は慌てずバナナを取り出す
そしておもむろに頭に乗せた
輝き出したバナナによって辺りが照らし出される
月が綺麗ですね(再)
扉を開けた先は通路だった
床も壁も天井も真っ白な石でできてる
両手を広げたくらいの幅だ
住宅にしては豪華すぎるな
神殿っぽい雰囲気?
神殿行ったことねえけど
少し歩くと円形の部屋に出た
部屋の中央には円柱を模した台座
台座の上にはゴリラの描かれた本が一冊
入り口のレリーフと一緒だ
しっかし「いかにも」な感じだよなこれ
一応、チュートリアルさんで見てみるか
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【ゴリラのつくりかた】
とある無責任な大魔術師が書き残した禁書
ゴリラを合成獣として製造する手法が記されている
極めて強力な保護魔法がかけられており破壊は困難
読解できた暁にはゴリラの全てを知ることができるだろう
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俺の知ってるゴリラと違う……
ま、まあ一応読んでみるか
俺は本を手に取り最初のページを開いてみた
二つ折りになった紙片がはらりと溢れる
なんだべこれ?
紙片を拾って開いてみた
どうやら手紙みたいだな
見慣れない文字だけど不思議と読める
なになに……
(親愛なるゴリラへ)
お、おう
(君がこの手紙を読んでいるということは、おそらく私はもうこの世にいないのだろう)
いきなり故人!?
(まずは意図せずして異世界から呼び出された君に詫びておかなければいけない)
(正直すまんかった)
なに!? 何したのコイツ!?
(仕方がなかったんだ)
(私の研究は不完全で、どうしてもこの方法をとるしかなかったんだ)
理由の前に言い訳とか香ばしい匂いしかしねえよ……
(だが聞いて欲しい)
(私の研究は完璧だ!)
どっちだよ
(黄金樹へと接続したチャンバーで世界樹の実を培養し作り上げた素体)
(実をハイエルフの集落から奪うのは苦労したし、黄金樹は枯れかけるしで大変だった)
おい……
(脱核したスライムによって次元系魔獣3種の魔石を融合生成した魔核)
(ディスプレイサービーストとブリンクドッグ、ティンダロスの魔犬、皆いい奴だった)
まて……
(10万の信徒と引き換えに機神マキナから賜った神金を加工した骨格)
(洗脳が解けちゃったから神罰踏み倒して逃げるのに苦労したっけ)
こいつ……
(血液と体液は世界蛇から採取したものを使用している)
(世界の果てに置いてきちゃったあいつら、元気にしてっかな)
完全に犯罪者だよ!?
(今になっては、みんないい思い出だ)
しかもガチのクズだよ!!
(こうして私は完璧な肉体を作り上げた)
(世界樹を由来とした不死不滅の生命力)
(魔石融合によって得られる最高の次元操作能力)
(神金骨格から汲み出される無限の魔力)
(竜の血によって得られる至高の運動能力)
そして厨二病だよ?
(だがひとつだけ問題があったのだ)
(これらを制御するための知性、つまり脳)
…………
(入れ忘れちゃった♡)
俺、最後の被害者だったあぁぁぁぁっ!!
ゴリラ出生の秘密がいま明かに!