第49話 猿なんで聞こえませーん
魔術師「ほ、報告します! 魔王軍! 半壊しております!」
スィンコ伯「なんだと!?」
魔術師「【遠隔視】の魔法で3時間に1度の定点観測を行っていましたが、前回の観測から何かがあったらしく……」
スィンコ伯「何かとは何なのだ!?」
魔術師「そ、それが不明でして!」
はいどうも、ゴリラです
会議室は大混乱ですね
観測と観測の間に鉱山竜事案が挟まったらしく何が何やらといった様子
まあ現地で直接目視してる斥候とかも居るだろうしいつかは落ち着くんだろうけど
こんなことなら一時退避して報告書とか書いてなきゃ良かったかなー
俺「ウホッホー」
そんな会議室に報告書を携えて戻る俺
ちゃんと妨害工作してきたっすよ?
スィンコ伯「おお、戻ったかオリバ殿! どうだ? 敵の様子は!?」
焦っているのか食い気味に身を乗り出すスィンコ辺境伯
俺は用意しておいた報告書を彼に差し出す
魔王軍が鉱山竜を誘導して街を攻めようとしてたから、それを逆手に取って暴れさせてやったよって内容だ。ゴブサンも旧知の仲である協力者として書き加えてある
鉱山竜は倒したのではなくどこかに去った扱いだ
権能と交換しちゃった手前、物証出せとか言われても困るし
スィンコ伯「ふむ……ふむ……何と!!」
報告書を読み目を剥くスィンコ辺境伯
一通り目を通すと傍の騎士に手渡し代読させる
読み上げられたその内容に会議室は一瞬にして鎮まり、誰もが目を見合わせた
騎士「な、何と……」
貴族「誠なのか……?」
冒険者「マジかよ……」
大臣「その、オリバ殿。これは本当なのであろうか? 失礼かと思うが俄かには信じ難く……」
恐る恐るといった様子で大臣のひとりが発言する
うんまあそりゃ信じられないよね
そういうぶっちゃけトークは嫌いじゃない
俺は石板を取り出すとチョークを走らせる
俺〔信じなくていいので情報を継続収集して欲しい〕
俺〔逃げ散った数が分からない。また攻めてくるかも〕
俺〔重要なのは街の安全が確保されたかどうか〕
おお、という声があちこちで漏れる
敵の主力を潰したとはいえその他の戦力だけでも街には脅威なんだ
うっかり見逃したけど、あの四天王たちが復活して攻めてくるかもしれない
そのときに数が減ってればいいというそれだけの話なんだ
魔術師「失礼します! 魔王軍の再集結を確認! その数2千! オークが大半です!」
タイミング良く魔術師から報告が入る
まあゴブリン達はみんな逃げちゃったしな
統率してたゴブサンがここに居るのは秘密です
あ、そうだ
俺〔ゴブリンが逃げたのはたぶんキングが死んだから〕
俺〔野盗になってると思うから警戒しなければ〕
そうなのよ
ぶっちゃけ本能に任せたゲリラ戦を挑まれてるも同然なのよ
このままだと収穫中とか避難中の村が襲われるかもしれない
ゴブサンが表に出てゴブリン軍とオーク軍で戦えば消耗は避けられるんだろうけど、さすがに種族バレの可能性が高いんで出来ないし……
スィンコ伯「オークの軍勢が2千……か」
険しい顔で考え込むスィンコ辺境伯
地に放たれたゴブリン達のことも思い出してあげてください
スィンコ伯「よし、攻めるぞ。最北の村付近で魔王軍及びその残党を迎え撃つ!」
ざわり、と会議室がざわめく
スィンコ伯「伝令を出せ! 既に兵は集まっているな? 午後には出るぞ!」
数人の騎士らしき鎧姿が席を立った
スィンコ伯「冒険者ギルドに依頼だ! ゴブリンの敗兵を狩り村々を守れ!」
いくつかの冒険者グループも席を立つ
スィンコ伯「魔術師は王都に使い魔を飛ばせ! 援軍は逐次でも構わんとな!」
魔術師達も退出していった
スィンコ伯「皆の者! 戦局はもはや掃討戦だ! 勝利は我らにあるぞ!!」
残った人間がおお!と声を上げる
その声に押されるように、スィンコ辺境伯も退出していく
どうやら会議は終わりのようだ
でも、え? あれ?
俺なんにも指示貰ってないんですけど?
どうすりゃいいの??
◇
……そして数日後
それぞれの配置が何となく決まった
勇者一行は前線で遊撃
まあ、あいつらなら心配ないだろう
アレンは雷の勇者としての各種スキル
イライザは【神の息吹】
エリヤは【インフェルノ】やら【コキュートス】やらの範囲魔法
ヴァンデルは【火遁之術】やら【土遁之術】やらの忍術がある
何だかんだで広域殲滅は得意なはずだ
ゴアとゴブサンは本陣の護衛
戦士系上級職並みの戦闘力と魔法系上級職並みの魔法能力を持つゴブサン
そして視界内全体攻撃にビームに触手に千里眼偵察にと万能邪神なゴア
鉄壁だ
こいつらがいれば本陣は安泰だ
しかもゴアさん鉱山竜の目玉を使って眷属作ってた
めっちゃ強力らしい
なんか人間体ゴアに出来ることは殆ど出来るらしい
俺の【三位一体】をパクって考案したとか言ってた
名前はゴアⅡ
どっかで聞いたことが有るような無いような?
そして俺は思い切り使い倒されてた
毎日何度も王都と前線を【空間転移】して援軍をピストン輸送
補給物資を【空間収納】しての運搬やら出し入れやらの兵站作業
さらにはスィンコ辺境伯を王都に連れてったり公王閣下を前線に招いたり何だり
あまりの激務にマルゲリータ姫の私室に逃げ込んじゃったよ
公王閣下の気持ちが凄え分かったよ
まあ俺は公王閣下じゃ無いから秒で連れ戻されたけどさ!!
そんな激務の甲斐もあって分かったのが、公子達のヘタレっぷり
今すぐにでも援軍出せますみたいなことを言ってたんだけどさ
いざ転移で助けに行けますよとなったら尻込みの連続
どうぞどうぞ的なノリで譲り合っちゃってる
公子A「この転移とやら、行軍が進むごとに座標も進むのであろう?」
公子B「うむ。ならば会敵寸前に転移した方が消耗も抑えられるというもの」
公子C「騎馬隊には多くの糧食が必要なのだ。兵站への負担を考えてもだな……」
おうおう言い訳だけは一人前だな
明日にはもう戦闘に突入しようかって状況なのに
将軍傘下の兵たちは続々現地に飛んでるんだぞ?
今ここで整列してる兵隊さん達もウホーの一言で戦列に加わるんだぞ?
というか行く気ないなら集合用の広場に来ないでくれます?
邪魔なんで
そんなことを思いつつ兵の並びを調整していると、50騎ほどの騎馬隊が人垣を割って現れた。従者なんかも含めると300人以上は居そうだ
ここ数日雲隠れしてた第一公子、コリアンダーの騎士団だな
コリアンダー「お前たち、情けないぞ!」
公子’s「「「あ、兄上!!」」」
おっと本人も来た
仕事の邪魔なんで帰ってもらえますか?
コリアンダー「公子たる者、先陣を切らなくてどうするか!?」
よく言うよ
配下の魔術師だけ送り込んで情報収集させて
そんでもって優勢を確信したから出てきたくせに
まあその辺の抜け目なさは流石だけどさ
コリアンダー「さあオリバとやら、送ってもらおうか」
俺「ウホー?」
すいません満員です
というか予定決まってるし
誰をどれだけ転移させるかはポッチャリ将軍からの指示でやってるんで
俺は第一公子を無視して整列作業に戻る
コリアンダー「おい猿! 聞いているのか!?」
猿なんで聞こえませーん
はいそこ、ちょっと内側に寄って?
コリアンダー「もう良い! そこな兵ども! 場所を空けよ!」
俺「ウホァ!!」
コリアンダー「ヒィッ!」
邪魔すんじゃねえよコラァ!
こちとら連日の激務でイラついとんじゃ!
今日はあと2回も転移が残ってんだよぉ!!
俺はガツガツと石版に字を描き、書類とともに突き付ける
馬上の第一公子に合わせて空間の足場も作らなきゃいけなくて面倒臭い
俺〔転移の順番はトリプトファン将軍と交渉を〕
ほらほら書類見ろよ
今日は第三大隊の順番なんだよ
独立作戦可能な単位ごとに送らないと意味ないって将軍言ってたぞ?
コリアンダー「何を悠長なことを! 事は一刻を争うのだぞ!」
一刻を争ってるのは行った実績を作りたいアンタの事情だろ
ああもう!
並んでる隊を押し退けようとするんじゃねえ!
その場所に入ったって俺が転移させなきゃ無駄なの分からんの?
そんなに転移したきゃさせてやんよ
ただし100mだけ後ろにな!
俺「ウホー!!」
はい転移完了
さてそろそろ整列終わった?
隊長「集結完了であります! 転送をお願いいたします!」
はい了解
それじゃ送りますよ?
俺「ウッホー!!」
そぉい【空間転移】!!
集結した部隊が一瞬で消える
そして空いたスペースにゾロゾロと入ってくる騎馬兵さん達
うん知ってた
ほんとこいつら仕事の邪魔しかしねえな
第一公子とかドヤ顔してるし
隊長B「オリバ殿、どうしましょう?」
俺〔別場所からも送れるから適当に整列させて〕
隊長B「なるほど。了解であります」
ただまあ転送先を変えちゃうと混乱の元なんでね
送った部隊が退くまでちょっと待ってようね
俺の視界に入ってれば大丈夫なんで
コリアンダー「おい猿! こちらの準備は良いぞ! さっさと送れ!」
なんか第一公子が上から目線(物理)で怒鳴ってる
人にもの頼む態度じゃねえよな
まあゴリラなんだけど
それでも猿呼ばわりされて従うつもりは無えよ
……あ
いいこと思いついちゃった♪
俺「ウホウホ ウホー」
はい【空間転移】
ただし第一公子(馬も除く)だけな
ほら静かになった
言われた通りにさっさと送ったよぉ?
くっくっく
隊長B「だ、大丈夫なのでしょうか……」
大丈夫大丈夫
俺も1人で進軍妨害してこいとか言われたし
あれ絶対無茶振りだよね?
……うん、ダメかも
こっちの仕事に区切りがついたら戻してやろう
さてそろそろ向こうの広場も空いたみたいだな
こっちの整列も完了?
それじゃ行きますか
最後は俺も同行するんでよろしく
俺「ウッホーー!!」
そぉい【空間転移】!!
よしこれで今日のお仕事終了だー
あー疲れた
バナナ食おう
バナナうめえ
後日、第一公子が公王閣下にくっそ怒られたのは言うまでもない
ほんと、トップがホワイトな企業に就職できて良かったよ
ゴアⅡは某有名ロボットアニメのクローン人間が元ネタです




