第02話 ゴリラの体格はゴリラくらい
おっス! おらゴリラ!
いま、ジャングル歩いてんだ!
どこに行くのかって? 知らないな!
だって、ついさっき知り合ったゴブリンについてってるだけだし!
ゴブリン「アィ! アィィ!!」
そして俺の少し前を歩きながら手招きするゴブリン
あの「アィ!」っていうのは来いって意味だなきっと
腰ミノ一丁で泥まみれなのに元気なことだよ
まあ、俺は全裸なんだけどな
その泥も乾いてきて、ぽろぽろ地面に落ち始めてる
けっこう長く歩くんだな
そう思っていると、いきなり視界が開けた
見えたのは広場。そして断崖絶壁
高さ20メートルくらいあるんじゃないだろうか?
視界の右端から左端まで、こっち側に弧を描きながら続いてる
でもって絶壁の中くらい、地面から5メートル程度の場所に穴が開いてる
ゴブリン「ギャウ! ギャワゥア!!」
ゴブリンが穴の中に吠えてるな
あ、もう一匹出てきた
ゴブリン「アーアーー アィ!」
なんか来いって言ってる
でもって俺を指差して吠え合ってる
うるせえなこいつら
獣でも来たらどうすんだ
あ、それで高いところに巣があるのか
俺「ウホォー」
俺を連れてきたゴブリンが身軽に崖を登る
穴に近づくと、ゴブリン達は奥に引っ込んだ
単なる穴じゃなくて奥が深そうだ
洞穴ってやつだな
ゴブリン達、ここで生活してんのか
そう思いながら崖を登り、洞穴の中に滑り込む
俺「ウボァ!!」
くっさ!
ゴブリンくっさ!
マジ悪臭
工事現場のボットンだよコレ
目にもしみてるよ
入り口からしてこれなんだから奥はどうなってんだ?
マシになるとかないよな、たぶん
ゴブリン「アィ! アィィッ!!」
いや来いとか無理だって
奥の方から呼ばれても無理だって
せめてファブリーズしろって
俺「ウホァ! ウホァ!」
首と手のひらをブンブンと振る俺
あぁん?とばかりに目を剥くゴブリン
ゴリラってわりかし鼻もいいのよ?
ベッドとトイレを分けるくらいの衛生観念もあるのよ?
それがコレってちょっとハードモード過ぎやしません?
ゴブリン「ウギャ! ギャワゥア! アィッ!!」
いいから来いってさ
表情と気配でけっこう分かるもんだな
しかたねえ
鼻も少し慣れたから行くか
ゴリラ平和主義だしな
ゴブリン「イェア! イェア! アゥエ!」
洞穴に入り込むと、中はけっこう狭かった
ゴブリンの体格は子供くらい。ゴリラの体格はゴリラくらい
基本的なサイズが違うんだ
そんななかで、ここに案内してくれたゴブリンが何やらガラクタの山を指差してる
ゴブリン「アゥエ! イェア! アゥエ!」
あーなんだろ?
指を1本立ててる
なんかくれんの?
ひとつだけ選べって?
俺「ウホ! ウホホッ! ウホッ」
通じるかどうか分からないけど一応お礼
ついでにバナナも渡してみる
3人でバナナ食った
バナナうめえ
使えそうなのは……コレかな
鉄板に刃と握りをつけただけの山刀
誰かから奪ったんだろうか
金属製の壊れかけた装備なんかもあるな
ガラクタじゃなくてお宝コーナーだったか
山刀にはベルトと鞘もついてた
お誂え向きだな
腰にベルトを締めて山刀を穿くと、ゴブリン達が驚いてた
ああそうか、山刀は長いもんな
振り回すには力が足りないんだろ
持ってた槍も小さかったしな
ゴブ’s「ギャワ! ギャワ!」
なんか嬉しそうにゴブリン達も騒いでる
これってあれかな
用心棒っぽいポジションにされたのかな
まあいいか
山刀をゲットして洞穴を出るとゴブリン達もついてきた
空気うめえ
やっぱあの洞穴、生活とか無理だわ
バナナうめえ
そういやあんまり喉とか乾かないな
ゴリラだからかな?
俺「ウホーーーーーーーー!!」
思いっきり背伸びをしてみた
思わず声も出た
あー肩とか腰とか気持ちイイわー
やっぱ洞穴とか狭すぎるんだよな
でも山刀が手に入ったし、いろいろ作れそうだ
地面の上は危なそうだし、洞穴は狭くて臭いし
ツリーハウスでも作ろうかな
よし、やってみよう
そうとくればまず腹ごしらえだ
俺「ウホッ ウホホッ」
ゴブ’s「ウホホ?」
バナナうめえ
ゴブリン達もたらふく食べて幸せそうに寝転んでる
ゴブサンとゴブローって名付けよう
夢幻バナナすげえな
投げない限りずっと出るもんな
ゴブサン「イルギャ イルギャ アィッ!!」
唐突にゴブサンが立ち上がった
槍持って泥まみれの方な
来いってさ
イルギャって俺のこと?
洞穴とは違う方向に歩いて行ってる
ついていったら湖に着いた
俺「ウホーーーーーーーー」
思わずため息が出る
崖の上から滝が落ちてて滝壺になってる
幻想的な光景だ
これで水の心配もなくなった
ゴブサンと会えてよかった
ゴブサンは湖に入って泥汚れを落としてる
でもってなんかブルブルってしてる
これアレだわ
プールの授業でやっちゃいかん奴だわ
きたねえなゴブサン
滝から水飲むしかなくなったわ
ゴブサン「イルギャ! イルギャ!」
ゴブサンが湖を指差して叫んでる
あ、そうか
イルギャって水源とか湖とかそんな意味なんだな?
とりあえず頷いてウホっといた
!?
水の中から殺気!?
ゴブサンを狙ってる?
気付いた瞬間、ソイツと目が合った
ゴブサンがダッシュで逃げた
俺がロックオンされた
バシャンと水音をたてて迫る顎
ワニだ
体を斜めにし俺の脚に噛みつこうと飛びかかってくるワニ
俺は咄嗟に腕を振り上げ、ワニの頭を叩いた
ガッと音がして、ワニの頭が砕ける
ちょっと噛まれたけど痛みはまるでない
ワニは力を失ってぷかりと浮いた
ゴブサンは洞穴まで逃げてた
薄情すぎる
ワニを持って帰ったら踊り狂ってた
まあ、俺はワニ食べないしあげるよ
ってゴブサン、あなた生ワニ齧るんですか?
火を通すとかないんですか?
ゴブローも出てきて騒ぎながら食らいついてますね
いや喧嘩すんなし
ワニ丸ごとなんだから量はあるだろ?
仲良く食べろって
俺「ウホァ!!」
仲良くしなきゃゴリさん怒りますよ?
ゴブ’s「ウ……ウァ……」
ゴブサンとゴブローはちっちゃくなった
はい、よろしい
山刀でワニを左右に分けてっと
すげえよく切れるなこの山刀
右半分がゴブサンで、左半分がゴブローね
俺? 俺はいいよ
焼いたら食べられるかも知れんけど、その間にお前ら食い散らかすだろ?
あ、でも尻尾はもらうか
火を起こして焼く練習しよう
えっと、火を起こすにはどうすんだっけ?
火打ち石と鉄?
適当に石を山刀に叩きつけたら壊れるよな
木の棒を板にこすって起こすんだっけ?
生肉をかじるゴブリン達を横目に手頃な乾いた枝を探す
山刀で割って板にして、他の枝でキリキリする
キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ…
ふう
キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ……
ふう
キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ………
火、起きねえし
どーすんだよーこれダメじゃんかよー
うん、サバイバル技術なんてこれっぽっちもないからね
もういいわ
そろそろ夕方だしバナナ食って寝るわ
ゴリラ草食だしチンパンじゃねーし無理して肉食わなくていいっしょ
木の上に登って過ごせば獣も来ないっしょ
それじゃゴブサン、ゴブロー、おやすみ
明日もここ来るから心配すんなって
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朝起きたら地面で寝てた
何故だ
(落ちたんだよ)