第13話 奪うな、殺すな、金払え
マロとソシャが戦利品を確保し戻ってしばらく
俺達はエバンスさんの話を聞いていた
エバンスさんはマロの恫喝にもめげず丁寧に話してくれている
けっこう肝が太いなこの人
エバンス「それではまず地理についてお話ししますね」
俺「ウホッ(よろしくお願いします)」
エバンス「私たちが暮らしているのは、アルティエ公国という名前の国です」
縮尺の適当な地図を広げ、そう解説するエバンスさん
その地図を食い入るように見つめる俺たち
地図はさほど大きくないので明かに過密だ
ゴブチー(D)とソシャ(E)に挟まれてエバンスさん役得状態になってるな
エバンス「そしてここは東の辺境。未開地です」
なるほど
地図の端には確かに森が描かれている
森が東だとすると南北に伸びるのは街道かな?
それぞれの端にアインスの街、ツヴァイの街と書いてある
エバンス「そしてここが街道です。この森から西に向かえば出られるでしょう」
ゴブチー「ニシってなに?」
マジか
西を知らんのか
エバンス「太陽の沈む方角です。そして街道の先には街があります」
マロ「マチってなんだ?」
マジか
街も知らんのか
エバンス「人間がたくさん住んでいるところです。これがアインスの街、これがツヴァイの街ですね」
地図を指差して説明するエバンスさん
このひと話進めるのうめえな
俺らだけなら今のでグダグダになってたぞ
北にあるのがアインスの街で南にあるのがツヴァイの街だそうだ
ゴブチー「街っていくつもあるの?」
目を輝かせてゴブチーが聞く
人間の街と聞いてご馳走がたくさん歩いている所とでも思っているのだろうか
そんなことないからね? ゴブチー
エバンス「アルティエ公国には10を超える街と100を超える村がありますよ」
ゴブチー「凄い! 行ってみたい!」
さっきから気になるんだけどエバンスさん
ゴブチーに話すときだけ目つきがやさしくね?
あ、そうかアレか
マロとソシャは狩りのメンバーだったもんな
ゴブチーは直接危害を加えてないからまだしも安心ってことか
そうだよな?
エバンス「ゴブリンだと思われなければいけるかもしれませんね」
俺「ウホァ?」
え、でもこいつらゴブリンだよ?
肌とかめっちゃ緑色だよ?
見た目は人間ぽいけど常識とか無いよ?
一目でバレんじゃね?
エバンス「あまり知られていない亜人だ、ということであれば通るかと」
種族名はユーグレナ
森の奥から出てきました
得意技は光合成です
こんな感じか?
いやでも鑑定スキル持ちが居たらすぐバレるな
機神マキナの加護って話だし割とどこでも居そうなのがネック
ゴブチー「ねえ! 行こうよオリバ!」
俺「ウホー」
俺はふるふると頭を振る
ゴブチーは純粋だな
俺はそこまで人を信じられないよ
俺〔エバンスは群れに帰りたい。だから帰れるような話をする〕
マロ「てめえ……! ブッ殺す!」
マロ落ち着けって
ゴブチーの次にワクワクしながら話を聞いてたのは分かるけど
落ち着けって
ソシャ「……マロ、騙されたわけじゃないわ。」
マロ「ぁんだって!?」
ソシャ「……ォ、オリバは都合のいい話ばかりじゃないって言ってるだけ」
マロ「そ、そうなのかアニキ?」
俺「ウホ! ウホ!」
そうそう
そういうことを言いたかったのよ
ほらエバンスさんまた小さくなっちゃってる
俺は慌てて石版にチョークを走らせた
俺〔街へ行くリスクを教えてほしい〕
エバンス「あ、ああ、そうですか。とはいえ常識さえ弁えていれば大丈夫だと思いますよ? なぜか皆さん流暢に交易共通語を話していますし、顔立ちも整っていますし」
なるほど美人は得なんだな
このへんは日本と変わらないな
そうなると常識だけが問題か
不安しかねえな
俺〔お金について教えてほしい〕
エバンス「そ、そこから? ええと、人間の社会ではお金が必要です。食べ物も、服も、武器も、それを作っている職人や扱っている商人から買う……つまりお金と交換するんです」
マロ「オカネって、これか?」
マロが小さな袋を取り出す
マロ「キラキラしてて綺麗だから取ったんだ」
そして床へとぶちまける
金銀の貨幣が床に散らばった
エバンスさんが顔を歪ませる
もともと彼の持ち物だもんな
死体蹴りは勘弁だぜ
エバンス「……そう、それです。アルティエ公国とその周辺での貨幣単位はゴールド。鉄貨は1ゴールド、銅貨が10ゴールド、銀貨が100ゴールド、金貨が1000ゴールドと定められています。」
苦々しげに解説するエバンスさん
これは返しておいた方がいいかな
俺〔マロ、そのお金と魔法の道具を交換してほしい〕
俺は【空間収納】から魔力灯を取り出して点けたり消したりする
マロは凄く欲しそうだ
ついでにエバンスさんも欲しそうだ
マロ「あ、アニキの言うことなら仕方ねえな! うん、仕方ねえな!」
チラチラとこっちを見ながら笑顔で頷くマロ
ええんやで
俺はマロに魔力灯を手渡しお金を袋にしまう
そして袋はエバンスさんに渡す
エバンスさんが固まった
エバンス「こ、これは! いいのですか?」
俺〔情報料。足りないだろうが帰ったあと使ってほしい〕
エバンス「ありがとう! ありがとうございます!」
ボロ泣きするエバンスさん
ドン引きする三人娘
いやお金は大事だよ?
ゴブリンにとってはちょっと綺麗な石でも人間にとっては財産なのよ?
きみらも経済的動物になれば分かるって
ソシャ「……人間にとってのお金は、魔法使いにとっての魔力のようなもの?」
マロ「なんだそりゃ?」
ソシャ「魔力は万能。使い手によって様々に形を変える。多ければ多いほどいいし、貯めておきたくもなる」
ゴブチー「あ、そうかも!」
俺「ウホウホ!」
そうそうそうですよ
だいじなものですよ
第二拠点にも残されていなかったくらい大切ですよ
俺ががくがくと頷くとソシャは微笑む
今のやつわりと可愛いな
マロはやっぱり分かっていないらしい
猫に小判ならぬゴブリンに金貨ってことだな、これ
エバンス「あの、そろそろ話を再開しても?」
おっとそうだな
まだまだ聞かなきゃいけないことは多い
常識とか
エバンス「今までの話を聞いていて確認したいことがあります」
俺「ウホ(どうぞ)」
エバンス「ゴブリンは他人のものが欲しいときどうしますか?」
ゴブチー「奪う!」
可憐さ100%で物騒なセリフを叫ぶゴブチー
ゴブリン語に「よこせ」以外の単語ないもんな
エバンスさんはやや引きつりながらも言葉を繋げる
エバンス「ではその人が嫌だと言ったら?」
マロ「殴る。それか殺す」
可愛げの欠片もなく端的に事実を語るマロ
なるほどエバンスさんそういう方向性で攻めるのね
エバンス「人間の街でそれをやってはいけません」
ゴブチー「なんで?」
マロ「なんでだよ?」
エバンス「その前に、先ほど金貨の袋と魔力灯を交換していましたが、それは何故ですか?」
マロ「そりゃ、アニキは強いからだよ。どうせ取られるなら交換した方が得だ」
マロさん、そんなこと思ってたんだね……
俺が無理やりに何かを奪ったことあったっけ?
ないよね?
マロ「あと金より魔力灯の方が欲しかった!」
できればそっちを先に言って欲しかった
エバンス「それが人間の街のルールです。奪った物は強くて怖い人が来て取り上げられます。でもお金と交換した物は取り上げられません。奪われるとわかっていて物を作る人はいませんから、そういうルールを作ってみんなが守ることで力がなくても生きていけるんです」
ゴブチー「へー 人間って賢いね!」
ゴブチーいいこと言った
少なくともゴブリンよりは賢いぞ
ハイゴブさん達は人間並みかそれ以上に賢いだろうからぜひ人間の仕組みを見習ってほしい
ソシャ「……通貨という共通の価値単位を設定することで物品の取引を平易にしているのね。興味深いわ」
ちょっと何言ってるのか分かりません
価値単位? 取引を平易に?
このひとホントにゴブリンだったんですか?
マロ「で、でもオレみたく戦うしか出来ない奴はどうするんだよ?」
切実だね、マロ
でもそれは戦う人になればいいんだよ
きっと需要あるよ
エバンス「そういう人は冒険者になればいいんですよ。街をモンスターから守る仕事です」
そんなんあるんだ!
すげえ、ファンタジーだなこっちの世界
マロ「マジか! よしオレ、冒険者になる!」
そんな海賊王になるみたいな口調で言われましても
街に行って働くことは決定事項なのかい?
エバンス「いま説明したことを守れば街での生活は大丈夫でしょう。行ってみたいですか?」
ゴブチー「うん!」
マロ「行く!」
ソシャ「……私も」
エバンス「行くときにはぜひ私を案内役にしてくださいね。奪うな、殺すな、金払え、ですよ?」
ゴブチー「うんわかった! 奪うな、殺すな、金払え!」
マロ「オレもオレも! 奪うな、殺すな、金払え!」
ソシャ「……私は言わないわよ?」
こいつらチョロい
そうエバンスさんは思っているに違いない
それくらいの盛り上がりだ
まあ、行けるなら行ってみるのもいいかもな
人間の街、興味あります
ちょっと、行ってみましょうかね!
1ゴールドは100円くらいです




