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この世界において、ギフトとは生まれ持ってくるもので、後天的に得ることはない。

逆にスキルは生まれたときは誰も何も持たずに生まれてきて、本人の生活や努力によって後天的に得られるものらしい。

そして魔法の属性。

これは生まれ持ってくるものもあれば、努力次第では開花させることもできるもので、ただ後者はよほどの努力と鍛錬を重ねる必要があり、得ることができる者はごくわずからしい。

この世界における魔法の属性は全部で7つ。

種族にもよるけれど大抵の者は1つはもって生まれてくるし、2~3つ持っているものも4割ほど存在する。逆に一つも持たずに生まれてくる子も2割ほどいて、だからといってそれで迫害を受けるようなことはこの国ではないとは言うが、持たざるものより持つものが優位なのは言うまでもないらしい。

ただ鑑定スキルでもない限り、大抵の者はいずれかのギルドに所属しカードを作った際にようやく自分が持っている属性を知ることができるため、生まれた時から持っていたその属性を子供の頃から意識して鍛えるというのはほとんど不可能らしい。なんて不便な。


「本当に俺に火属性があるの?」

「ええ、まあ」


私が話したくないことは聞かないと決めていた彼らですら驚いて思わず鑑定スキルを持っているのかと聞いてしまうほど迂闊な発言をした私に、けれどはっと我に返った子供たちは何かを聞きたそうにうずうずしながらもこちらに詰め寄るようなことはなく、ただみんなの耳だけが私たちの会話を聞き逃すまいと集中していることは明白で。

小さな子供たちにここまで我慢させてしまっていることに申し訳なく感じながら未だ呆然としているシソくんの呟くような小さな問いに頷いて答える。


「ナツちゃん、ごめんなさい。本当にシソに火属性が見えるのかしら?」

「え、視えますけど……可視化でも…あ、いやなんでもないです」


子供たちの勉強する姿を嬉しそうに見ていたはずのムギさんがいつの間にか隣に立っていて、ぐいっと覗き込むように距離を縮められ、思わずちょっと仰け反ってしまった私に、たぶん気づかないまま、それくらい何か考え込んだ様子のムギさんが戸惑うように口にしたそれはシソくんと同じもので。

そんなに気になるなら私が見える鑑定結果を見せようかと思ったとこで、鑑定結果の可視化なんて普通はできないんじゃなかろうかと思い至って慌てて口を紡ぐ。


「これ、みて」

「ん?」

「ナツちゃんを疑うわけじゃないよ。でもこれが俺のギルドカードなんだ」


シソくんが差し出してきたのは冒険者ギルドのカードだった。

そこに書かれている数値が私の鑑定した結果よりやや低いことも気になりつつ、それ以上に一際目を引いたのは、


属性:雷


の一行だった。

え?なんで?


「俺の属性は雷のみなんだ」

「ナツちゃんを疑うわけじゃないけど、実際シソが火魔法を使ってるところは見たことはないわ」

「俺もたまにギルドの依頼で一緒に戦うけど、シソは雷魔法しか使ってないぜ?」


硬い表情のシソくんだけでなく、未だ戸惑っているムギさんやカキノくんの言葉により謎が増えていく。

考えられる可能性はカードを作ったあと、シソくんが何らかの手段で火属性を得た可能性。

ただその取得は簡単ではないことを考えるとその可能性は低く、次に思い浮かぶのは、私の鑑定スキルが間違っているかギルドの鑑定水晶が間違っている可能性で。できれば後者であって欲しいと思っていると、ふっと、もう一つの可能性が思い浮かんだ。


「あの、ちなみにシソさんが普段使ってる雷魔法ってどうやって覚えたんですか?」

「え、あ、これは昔雷に打たれたことがあって…………」


え、魔法ってそんな命がけなの?






*****************************




(ムギ視点)


ベテランの職人や冒険者でもないかぎり、複数の魔法属性を持っている者はほとんどいない。そもそもギルドに属する前に1つでも持っているほうが稀で、今この孤児院にいる子供たちでも実際、魔法属性を有しているのはシソだけだった。


そのシソが持っている雷魔法は、数年前の嵐の日に雷に打たれたシソが街中からかき集めたポーションでどうにか奇跡的に助かった際に得たもので、ようやく歩けるようになったころ、突然、また身体に雷が走ったみたいだと言い出したシソがそれから試行錯誤を重ね、どうにか今の形に使いこなせるようになった努力の証だった。


「身体に雷は走ったみたい……」

「たしか………落とした銅貨を拾った瞬間、ビリビリって」

「銅貨……ビリビリ……」


詳しく聞きたいというナツちゃんの言葉にこたえるため昔のことを一生懸命思い出しながら話すシソに考え込むナツちゃんが独り言のように呟く言葉を聞き逃すまいとルルンと2人、必死に耳を傾ける。


「もしかして静電気?」

「せいでんき?」

「あ、いえ。それで普通もし魔法を覚えるとしたらどうやって覚えるものなんですか?」

「どうやってって……?」

「スキルのように例えば火魔法について詳しく書かれた本なんていうのがあって、それを読み込んで、知識を詰め込んで理解出来たら発動させられるようになるとか、実際に魔法を使える人からその使い方を聞いて見様見真似で覚えるとか」


おそらく複数の魔法属性を有しているであろうナツちゃんからの質問に、じゃあ貴方はどうやったのなんて聞く馬鹿はここにはいない。


「どちらかといえば後者。使える人からコツを聞いたり、どうやってやっているか教えてもらって覚える」

「ただ使っている本人も説明が得意な者はほとんどいないから…」

「あぁ………なるほど。まぁ、そうですよね」


ルルンの言う通り、シソなどの特殊な例を除けば大抵はギルドで魔力が高いと鑑定された者は、魔法を使える者を頼り、多くは弟子入りしてその使い方を間近で学ぶ。

そうして数年の月日をかけてようやく得るものだった。


「うーん………となると火の起こし方で分かりやすい説明の仕方って……」


額に片手を当てて考え込んでいたナツちゃんは昨日からたびたび使っている手のひらサイズの小さな四角いものを取り出すとしばらく指を動かして、次にバッグから何か小さな箱を取り出した。


「シソさん、ちょっと良いですか?」

「うん?」

「何言ってるかちょっとわかんないと思うんですけど、頑張って聞いてください。火が燃えるのに必要なのは一般的には酸素と可燃物と熱です。その酸素というのは私たちの目に見えていないだけで今目の前にも無数にあります。…………えーっと例えばあったかい料理から白い煙が出ることがありますよね?あれのように目には見えないだけで色のない煙が目の前にはあると思ってください」

「……………………」

「酸素はそれだけでは燃えません。酸素を燃やすために必要なのが熱です。例えばこれのように」

「!?」

「ええ!!」

「火が!!」

「魔法だ!」


小さな箱を少しだけ動かして中から何か短い木を取り出すと、それを箱に擦りつけた瞬間、小さな火がいきなり現れた。


「これはマッチと言って火を起こすためのものです。この側面についた赤リンとこの木の棒に着いた硫黄などをこすることで酸素を燃やして火を起こしています。と、説明してみたものの私もこの原理とかに詳しいわけじゃないので、これ以上詳しく説明することはできないんですけど、わかってほしいのは熱と目には見えない酸素があれば小さな火なら作れるということです。だから」


ナツちゃんが自身の左手で、パチンっと2本の指をこすり合わせた瞬間。


「こうやって火をつくることができます」


それは小さな小さな、けれど間違いなく希望の炎だった。




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