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ペッリカーノに荷物を預けた後、私が用意した音声付き辞書をそれぞれ手にして各ギルドに帰っていったラマさんたちを見送り、次に私が用意し始めたのは市で売るわたあめと、はしまきの準備だった。
この孤児院にいる子供は全員で21人。
その中でわたあめはともかく、焼く必要のあるはしまきを作れそうな子はキヌアくんたち年長組のなかでも片手で数えられるほどだろう。
さらに会計をお願いするとなると、ある程度計算の得意な子を選ぶ必要があるため、さらに年長組が忙しくなるなぁと悩んでいた私に、意外な才能を見せてくれたのはなんと9歳だという人族の男の子、アスハくんだった。
「すげぇ!アスハもうそこまですすんだのかよ!」
「アスハそんなに計算得意だったの?」
他の子たちが文字表や年長の子たちの辞書などを興味深そうに見たり操作するなか、一人最初から黙々とドリルに向かっている子がいることには気づいていた。
それは私がラマさんたちとの話を終えて戻ってきてからも変わらず、どうやら他のものには一切脇目もふらず、ずっとドリルに打ち込んでいたアスハくんは計算が楽しくてしかたないようで。
「まさかアスハにこんな特技があったなんて知らなかったわ…」
「そういえばアスハ、買い物に行ってもお金を自分で出してた!」
ムギさんですら知らなかった才能をまさかドリルを渡して数時間で開花させるなんて、どれだけ計算好きなんだろうかと思いながら、囲む周囲に目もくれず教えを請われたとき以外は黙々と自分の問題を解き続けるアスハくんに、ふむ。と思う。
「アスハさん」
「?」
「お客さんが1本銅貨5枚のはしまきを5本と、1つ銅貨2枚のわたあめを2つ注文されました。…もらうべき金額は?」
「銅貨29枚か、銀貨2枚と銅貨9枚」
「じゃ、お客さんが銀貨3枚出したときのおつりは?」
「銅貨1枚」
私の呼びかけにドリルから顔をあげてくれたアスハくんに突然問題を投げかけても、戸惑うことなくすらすら答えるアスハくんに周りのほうが目を点にしていて。
「2人で来たお客さんが、はしまき6本注文して半分ずつ支払いたいといわれたときの1人当たりの支払額は?」
「銅貨15枚か銀貨1枚、銅貨5枚」
足し算や引き算だけでなく割り算や掛け算もどうやら問題ないらしい。
これならレジをお願いできそうだ。
「すごい!アスハ!!」
「え!?いまのどうしてわかったの!?」
「アスハそんな頭良かったなんて知らなかった!」
「計算ができるなら言えよ」
口々に褒める子供たちには純粋な称賛しかなく、年少組に尊敬のまなざしで見られ、年長組の子たちに撫でられてもみくちゃにされ、少し照れたようにはにかむアスハくんは、キビさん曰く、どちらかといえば普段から物静かな子でこうして話の輪の中心にいるのは珍しい子らしい。
「もともとできたわけじゃないよ。このドリルのおかげ」
「ん?」
「おれあんまり文字を読むの得意じゃないから問題は読めないけど、指で押したら問題を読み上げてくれるし、計算方法もすごくわかりやすく説明してくれた。こんな色んなやりかたがあるのは知らなかったから、楽しい」
つまりアスハくんはこのドリルを手にするまでごくごく簡単な足し算や引き算はできたものの、掛け算や割り算といった概念すらも知らなかったらしい。
それをドリルをもらってわずか数時間で問題を夢中になって解き進めるうちに、色々な計算方法が出てきて、それを解くための色々なやり方を学んで、どんどん吸収していったらしい。
すごいな、アスハくん。
「お金の担当はアスハさんで決まりですね。あともう1人くらい誰かお金を担当できそうなくらい計算が得意になってくれると嬉しいです」
市まで残り2日。
さすがにアスハくんほど計算が得意な子がいるとは思えないが、彼が休憩できるよう交代要員としてもう1人はいてくれたほうが有難いと声をかけた私に、顔を見合わせた子供たちは不安そうな顔や嫌そうな顔一つすることなく、大きく頷いて。
「がんばる!」
「アスハ、俺にも教えて!」
「私も、ちょっとでもできるようになりたい!」
明るく前向きに取り組んでくれる姿に、本当にいい子たちだなぁとしみじみと思わずにはいられなかった。




