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カルチャーショックってこういうのを言うんだろうな………。
この世界にきて2日目。
すでに色々、前の世界との違いや私の迂闊さから色々驚いたり驚かせたりしているわけですが、まさかこの世界にきて一番の驚きが。
「おぉ…………マジか」
郵便事情だなんて、思うまい。
結局、ルルンさんたちの説得に負け、とりあえずサンプルとして音ありと音なしの辞書をそれぞれ作り、王都にあるギルド本部に一旦預け、そこで各ギルドに購入希望を募ってもらうこととなったのだが、そもそもどうやってそのギルドに届けるのかという私の素朴な質問に答えてくれたのはフィールさんだった。
「運搬量が多い時は冒険者ギルドなどに依頼をかけて届けてもらうこともあるんですが、今回くらいの量や手紙くらいならペッリカーノが運んでくれるんだ」
「ペッリカーノ?」
聞いたことのない単語に首をかしげつつ想像したのは漫画やファンタジー小説で見るような手紙を届けてくれる伝書鳩のような小さな鳥だった。
首から下げたバッグに手紙を入れて空を飛ぶ姿まで想像してさすが異世界と納得した私をよそに、突然胸元から銀色に光る短い縦笛を取り出し、音の聞こえないそれを短く吹いたラマさんは、この笛を吹くとペッリカーノが荷物を回収しにきてくれるのだと説明してくれた。
それから1分もせずに現れたのは。
「!?」
「こいつがペッリカーノだ」
どこからどう見ても体長1.5mはあろうかという大きなペリカンだった。
え、でかすぎない?
「ペッリカーノ、悪いがこの荷物を至急王都にいるイフェルに届けてくれ」
「クエエエエエ」
目つきも悪くお世辞にもかわいいとは言えないペッリカーノは、しかし言葉を理解するようで、辞書に手紙を括り付けたラマさんが差し出したそれを低く鳴きながらパクリと食べた。
え?食べた?
「え、い、いま辞書を食べて…!?」
「ああ、ペッリカーノは顎の部分に荷物を入れておけるスペースを持っていて、そこに入るサイズまでのものなら運んでくれる契約になってるんだ。一見、そう大きくは見えないが、マジックバッグみたいに見た目よりも結構多く入るんだ」
街の規模に応じて常駐しているペッリカーノの数は違い、ここヴァルツロクには今目の前から飛び立っていったペッリカーノを含め2羽のペッリカーノが働いてくれているらしい。
「ちなみに運送料っていくらなんですか?」
「特に決まってないな」
「荷物を運んでもらうかわりにあいつらが食べるものを用意することになってるんだ」
ここから王都までどれくらい距離があるかわからないが、それでも決して近くないであろうことはなんとなく予想がつく。
その距離を食べ物提供だけで運んでくれるとか、ペッリカーノなんて偉い子…!とブラックすぎるペッリカーノの労働環境に内心涙しながら、ふっと辞書の届け先としてあがった聞き覚えのある名前に気づいた。
「そういえばイフェルさん、王都に行かれたんですか?」
「ああ。今朝早くにな」
「へぇ……ギルド長ってやっぱりお忙しいんですね」
大変だなぁと小さくつぶやいた私を、周りがこの時どんな目で見ていたかペッリカーノが飛んでいった空を見上げていた私が気づくことはなく。
まさかイフェルさんが忙しくなった原因が自分だと私が知ったのは随分あとのことだった。




