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チコリーちゃんに手伝ってもらって、一足先に食堂で準備を始めたおかげで、みんなが戻ってくるころまでには無事、昨日用意した朝食を準備することができた。


「いい匂い!」

「なにこれ?」

「今日のご飯もみたことないやつだ!」


嬉しそうにそれぞれ席につく子供たちの一番最後に入ってきたのはムギさんと、ルルンさんだった。


「あれ、ルルンさん?」

「おはよー、ナツちゃん」

「おはようございます。今日はイルザさんじゃないんですね」

「うん。イルザは別の用事があったから私が代わりにきた」


昨日絶対にくると念押ししていたイルザさんではなくルルンさんが来たことに驚きながら、やっぱりギルド職員って忙しいんだなぁと思わずにはいられなかった。


「ルルンさんもう朝ごはん食べられました?まだならみんなと同じものでよければ用意しますけど」

「まだ。食べたい。……イルザの分もある?」

「イルザさん? あ、お土産ってことですか? うーん、たくさん作ってきたのであると思いますが、万が一残らなかったときは今日子供たちに市に出すものを作ってもらうつもりなので、それをお持ち帰りされます?」

「うん、そうする」


子供たちが定位置にそれぞれ座る中、年長の子にルルンさんはムギさんの隣に案内され、私は中央…ってそんな真ん中じゃなくてもいいんだけどな。


「おいしそう!」

「もう食べていいの?」

「これなんて料理?」

「どうぞ、足りなかったらまだ少し残っているのでおかわりできます。これは昨日ここでいただいたもち米で作ったお餅にオークの肉を巻いた肉巻き餅と、餅でグアンナの肉を挟んだ、グアンナ肉入り餅です」

「んー! おいしい!!」

「ん!!すごい、のびる!」

「え、これグアンナの肉!?」

「すごい…初めて見た」


遠くのほうから聞こえたムギさんと年長の子たちの声にん?と思いながら聞き間違えであることを祈る。グアンナなんて大量にバッグに入っている肉、そんな珍しい魔物じゃないよね…?

とりあえず聞かなかったことにして、私も食べることにしよう。


「いただきます」


両手を合わせて小さく呟く。

と、隣に座っていたチコリーちゃんと向かい側に座っていたキヌアくんが、不思議そうにこちらを見ていることに気づいた。


「なにか…?あ、お口にあいませんでした?」

「え、いやそうじゃなくて!」

「すごく美味しいよ!ただ、いま、なんて言ったのかなって思って」

「あぁ、いただきますって」


食べる前に口にする、いただきますという言葉。

これもある意味、異世界あるあるの一つだろうけど、正直、どうしてそう言うの?と聞かれても私には漠然としか答えられない。

命あるものをいただく感謝の気持ちを込めてというのが私の中での模範解答だが、数十年生きてきてそれを心から思って言った瞬間はたぶん一度だってなくて、だからいつもの習慣でつい手を合わせていただきますと言ったときも、その動作を不思議がられていると分かっても、さてなんと説明したものかと悩んだ。


「意味はちゃんとあるんですけど、私としては習慣というか、挨拶みたいなもので」

「あいさつ?」

「はい。起きた時におはようっていうのとか、出かけるときに行ってきますっていうのと同じようなものです」

「いってきます…?」


私の右隣に座ったチコリーちゃんがますます不思議そうに首をかしげるのを見て自分の説明の下手さにそれもそうだよねと思う。


「本当は、いただく命に感謝して言う言葉なんですけど、私にとってはどちらかといえば作ってくれた人への感謝のほうが近かったかもしれません」


どちらかといえば躾に厳しい家庭で育ったため、いただきますも言えないなら食べるな!と言われて仕方なく口にしているうちに習慣づいたそれは、私には単なる言葉でしかなかったけれど、あえて言うならあれはせっかく作ったんだから感謝して食べろ!と思っていたであろう母への言葉だった。


「じゃあ、私もいただきます」

「ぼくも!いただきます!」

「いただきまーす!」

「いたたたきます」

「いたたぎます」


みんなが私のほうを向いて口々にいう姿に、ああ、私も母にこんな風にして伝えていたらよかったと今にして思う。


「いただきます」


かみしめるようにもう一度呟いた言葉を伝えたい人とはもう2度と会えないけれど。


「こっちも、おいしい!!」

「どっちもすごい、のびるよ!」

「昨日のもすごくおいしかったけど、これもおいしい!」

「わたし、こっちのほうが好きだなぁ」

「ん、くっついてとれない……」


これからは前より少しだけこの言葉に思いを込められそうだと思った。







***********************






ムギ視点



昨日から色々驚きすぎて、もう大抵のことでは驚かないのではないかと思っていたのに、目の前に出された見たことのないそれがグアンナの肉と聞いて、思わず凝視してしまうほど驚かずにはいられなかった。


「ルルン、グアンナが出たの?」

「……冒険者ギルドからもそんな報告は受けてない」


ゆっくり首を横に振るルルンに、聞いておきながらそうよねと思う。

グアンナという魔物はあまり動きも早くなく、攻撃パターンも限られている魔物ではあったが、その頑丈さからBランクに位置づけられている魔物だった。

そもそも魔物にはその種類によってそれぞれランクがつけられており、過去に冒険者が対峙した際の強さや攻撃力などを参考にSからFまで7ランクに分けられていた。

そのランクはそのまま冒険者のランクと連動していてBランクの魔物であればBランク以上の冒険者による討伐対象となるため、ランクが上の魔物が見つかった際は、街の上級ランク者に招集がかかることになっていた。


「それじゃ一体、彼女はどこで?」

「わからない。…でも他に素材を持ってる可能性はあると思う」


子供たちに囲まれて笑っている小さな少女がBランクのグアンナを倒したとは、普通なら考えられないだろう。少なくても昨日彼女に出会う前のアタシなら信じなかったはずで。それでも昨日からの短い時間を過ごしただけでも、これが買った肉などではなく、彼女が自分で倒したそれだろうと、簡単に察せられた。

グアンナは決して攻撃的な魔物ではなく、それほど強いわけでもない。ただ問題はその皮膚の硬さにあって、手練れの剣士ですら一撃で致命傷を与えるのが困難といわれるほど硬い皮膚は退治した後も、その肉から剥がすのはなかなか困難であり、解体も手慣れた職人が数人で十数時間かけて行うようなものだった。ただその皮はその頑丈さ故、防御力も高く、籠手やマントなどの防具に加工されれば上級の冒険者たちがそれに見合う高いお金を支払ってでも手に入れたいと願うほどの良品となるが、その硬さゆえに解体時に綺麗に剥ぐのも一苦労で、解体を担当するものだけでなく、加工する職人泣かせの素材として有名だった。


「あとで交渉してみる価値はありそうね。でもまずはせっかく用意してもらったこれを頂きましょう?」

「おいしそう」


まだ温かい目の前の食事を、彼女は一体いつ作ったのだろう。

気にしたところで彼女なのだからしかたないと思いながらも、昨日ぶりに目にする肉に心が躍らずにはいられなかった。

……そういえば、昨日の肉ももしかしてグアンナの

いやいやそうだとしたら一体何頭狩ったのと自分の考えを否定して目の前のそれにかぶりついた。


「……………………」

「……………」


一口食べて、あまりの美味しさに思わず無言で食べすすめていて。


「っ、もうない……」

「ルルン、あんた意外に食い意地はってたのね」


普段おっとりとしたルルンの心底悲しそうな声に、自分のことを棚に上げて笑わずにはいられなかった。






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