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さて、突然ですが、みなさんはどちて坊やというキャラクターをご存じだろうか。
私が生まれるよりさらに前に放送されていたアニメだから、おそらく平成や令和生まれは知らないであろうその子は、某頭のいい小坊主が主役のアニメに出てくるキャラクターだった。
屏風にかかれた虎を捕まえて見せろとか、このはし渡るべからずと嫌がらせしてくる将軍や大人たちに頓智で立ち向かう小坊主に、すごいと毎回感心していた私はきっと純粋な子供だったのだろう。
そのアニメに出てくるどちて坊やことこうたは、ことあるごとにどちて?と疑問を投げかけてくる子供だった。
子供ながらの好奇心と物怖じしない性格がそうさせるのであろうが、口を開けばどちて、どちてと繰り返す子供に、幼いながらこいつうざいなと思ったことを覚えている。
ちなみにその数年後、学校の授業中にどうして?どうして?と質問攻めした子にキレた先生がどちて坊やか!と突っ込んだが思わず噴き出してしまった私以外みんなぽかんとしていたので同世代でも知らない人のほうが多いかもしれない。
まあ結局何が言いたいかと言えば、自分の知らない技術や物をいきなりみせられて、それを与えられて、さあやってみろって言ったところで、普通、どうしてどうして?ってなるよねってことで。
それが子供なら尚更のことだろうし、人数も多ければその分、問いかけられる疑問も多いはずで、さてどうしたものかと溜息を零した私は、朝からやらかしたことをようやく自覚した。
『魔法みたい!』
『ぼく、まほうつかえないよ』
『わたしも』
浄化魔法が使えないのならせめて手洗いを徹底してほしいと水道を設置したわけだけど、本来ならちゃんと検索さんでこの世界の水道事情をちゃんと検索してから用意すべきもので、子供たちだけでなく、ムギさんの反応を見るに、蛇口や水道はこの世界では普及していないのだろう。
またつまらぬ魔法を披露してしまった
と某侍をパロってみたところで突っ込んでくれる人がこの世界にいるわけがないが、昨日一日であれだけやらかしておいて、翌日早朝からまたやらかす私に学習機能というのは存在しないのだろうか。
あぁ…色々聞かれるんだろうなぁ、どう説明しよう…面倒くさいなぁ…と朝食を岡持ちから出しながら落ち込んでいた私に、手伝ってくれている天使……もといチコリーちゃんが首をかしげている。
「チコリーさんは」
「うん?」
「私に何か聞きたいことありますか?」
とりあえず手洗いを終えた子供たちが食堂にやってくる前に、予行演習がてらチコリーちゃんからの質問に答えてみようかと思う。
まあ、聞かれたところで答えられるかわからないわけだが。
「聞きたいこと…」
「はい。答えられるかわかりませんが、なにかありますか?」
例えば今並べてもらっている餅だってそうだろう。
この世界にはたぶんない食べ物だろうし、実際さっき初めて見たチコリーちゃんが驚いた顔をしていたのも見ていた。
あと、出しても出しても岡持ちの中身がなくならないのだって当然疑問を持つはずで、紙皿に乗せられたそれを出してテーブルにおいて振り返ったらまた岡持ちに餅が乗った皿が復活しているのを見たチコリーちゃんが思わず二度見したことも気づいていた。
「聞きたいこと」
「はい」
「うーんと、それはナツちゃんにとって話したいこと?」
「ん?」
少し思案したチコリーちゃんに聞き返された言葉の意味がよく分からなかった。
「ナツちゃんが話してくれることならどんなことでも聞ききたいし、私達が手伝えることなら、何でも手伝いたいよ。だからそのために必要なことなら聞きたいけど、ナツちゃんが話したくないことは聞きたくないの」
チコリーさんが浮かべていた優しい笑みは、子供とは思えない、ずいぶんと大人びた笑顔だった。
「実は昨日、ナツちゃんが帰ったあと、イルザさんから聞いたの。ナツちゃんがとってもすごい人で、でも目立ちたくないんだって。
もし私たちにしてくれたことの所為でナツちゃんが注目されて、悪い人に攫われちゃったら大変だって。だからみんなで内緒にして、ナツちゃんがすごいっていうことを隠そうって」
「そんな……」
「きっとナツちゃんには、話せないことも話したくないこともたくさんあると思うけど皆で守ってほしいって。ナツちゃんは私たちに守られるほど弱くないのはみんなわかってるけど、でも私たちといることでナツちゃんが目立たずにすむなら、そういう守り方なら私たちにもできるよ」
木を隠すなら森の中。変な子供を隠すなら子供達(孤児院)の中。
そのために子供たちに色々してきたわけではないけれど、その無意識の打算がまったくなかったかと言えばたぶん嘘になる。
「そのために必要なことなら何でも話して?大丈夫、みんなすごくすごくやる気だから!」
だからどうして?なんて聞かないよ。
そう笑ってくれる優しすぎる好意に見合う何かを、私はちゃんと差し出せるのだろうか。
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ルルン視点
ナツさんがこの街にやってきた日の翌朝、本当ならいつも通り商業ギルドに行くはずだった私はギルド長代理のフィールさんからの指示で孤児院へ向かっていた。
「というわけで明日孤児院にはルルンに向かってもらう」
「えぇ!?いやです!私は孤児院のほうに行きたいです!」
「だめだ。イフェルさんからイルザは明日、この街の鑑定スキルを持った者たちが付与スキルを得られるよう立ち会ってサポートに回ってほしいとのことだ」
「私自身がなんで獲得できたか分からないスキルなのに、それを説明しろなんて無理ですよ!ナツさんにやってもらいましょう?」
「それだと目立ちたくないという彼女の意に反するだろう。大体、なんでそんなに孤児院に行きたがるんだ」
「ぐっ……それは……」
昨日の夜遅く、いつもならすでに自宅に帰り、眠っている時間にもかかわらずナツさんがギルドに来てから休む暇もなく動いていたせいで、うとうとしながらフィールさんの話を聞いてる私とは違い、イルザは悔しそうに言葉に詰まっていて。
「ルルン、ちょっと」
フィールさんへの反論を諦めたのか、私の腕をつかんで隅に連れていくイルザに引っ張られるままついていき。
「明日の孤児院でなんだけど、もしナツさんが見たことのない食べ物を出してきたら私の分ももらって帰ってきてくれない?」
「………たべもの?」
「そう。子供たちに市を手伝ってもらう代わりにナツさんがご飯を作ることになってるの。今日も見たことがない料理を出してくれたんだけど、すっごく美味しかった!」
声をひそめながら熱く語るイルザに器用だなぁと感心する一方で、イルザってこんなに食い意地張ってたっけ? と思う。
「私のぶんは?」
「ごめん、ない!でも持って帰ってきてくれたら今度の私の休み、ルルンにあげるから!お願い!」
そこまでイルザが気にいった料理なら食べてみたかったなと思ったけど、お土産はないようで。うーん、でも確かに休みを代わってもらえるのは良いかな。
「わかった。お願いしてみる」
「ありがとー!ルルン!!」
大きな声で抱き着いてくるイルザにギルド中の視線が集まる中、イルザがそれほどまでに期待するナツさんのご飯を楽しみに翌朝孤児院を訪れた私を待っていたのは。
「あ、ルルンおねえちゃん!」
「おはよー」
「どうしたの?なにか用事ー?」
なぜか手を泡だらけにしている子供たちで。
「あら、ルルン。今日はアンタなの?」
「ムギさん、これは一体?」
小さな子たちの手を泡だらけにしていたムギさんからの説明に私は、今日もギルドに帰ったら忙しくなりそうだなぁと思わず遠い目になったのだった。




