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朝から孤児院の子供たち総出の大歓迎を受けた私がまずとりかかったのは朝食の準備、というより食べるための環境整備だった。
「ムギさん、調理場をちょっと改造してもいいですか?」
「改造……?構わないけど、一体なにを?」
唐突なお願いにムギさんが戸惑いながらも許可してくれたことを良いことに取り出したのは今朝ここに来る前に購入した水道管付きの蛇口だった。
それをシンクのようなスペース近くの地面に魔法で突き刺せばあら不思議。
「ここをこうしてひねってもらえば」
「え!?」
「水だ!!」
「すごい!魔法みたい!!」
蛇口から水が出る。そんな光景は日本人にとってはごく当たり前のことだけれど、世界ではそうじゃないところもたくさんあるだろう。それはこの異世界でも同じのようで、昨日調理場を借りた時、蛇口がない代わりに大きな水の入った溜め壺を見つけてキヌアくんに聞いてみたところ、ここでは毎朝街にある共同の井戸に水を汲みに行っているとの返答だった。
小さな子供や女性たちがその日使う水を何往復もして汲みに行く。それがこの世界では当たり前のことで、たとえ水魔法が使えても魔力によっては出せる水にも限りがあるため、よほど魔力の強い者でもない限り、ほとんど日常生活で使う水は井戸水を汲んで手に入れるしかないらしい。
しかも自宅の敷地内に井戸があるような家は貴族とかごく一部の家のみのため、大抵はみんな街にいくつかある井戸を共同で使っているのだ。
「こっち側にひねってもらえば水が出ます。止めたいときはこうやって反対側にまたひねってもらえばとまります。小さな子でも簡単にできると思いますが、ちゃんとひねっておかないと水が出続けてしまうので、それだけは気を付けてください」
「え、この魔法具私たちも使えるの!?」
「ぼく、まほうつかえないよ?」
「わたしも……」
「これは一体…?どうして水が?」
「えーっと仕組みを詳しく説明するのは難しいですが、簡単に言うとこの管には地下にある水脈を自動で探し当てる魔法を込めてあります。なのでこうして管を地面にさしておけば自動で水をくみ上げてくれるんです」
残念ながら水は蛇口を捻れば出るのが当たり前だった私には現代日本において水道管云々の整備がどのようにして行われたものなのか説明することはできない。
ただ昔、某青い猫型ロボットが劇場版でこんなような道具を使っていたのを思い出して、購入した水道管に機能を付与して作ったこれにはさらに水を濾過する機能もつけたため、汚染とか細菌感染などの心配もない。
そういえば昔、消化器科の先生がうちの病院にはピロリ菌感染者がよく来るってぼやいてた時に汚い井戸水を飲んでいた所為だ!って暴言吐いてたなー。水がきれいって言われてる田舎なのにって内心思ってたんだけど、あの時もう少しつっこんで色々聞いておけばよかった。
「もう何本かあるので他に設置したい場所があれば言ってください。これから市を手伝ってもらうに当たって、私からのお願いはまず食事の前や、用を足した後、外から帰ってきたときなどに手を洗う習慣をつけてほしいということです」
「よごれてないのに?」
「ぼくのて、きれいだよ?」
そういって広げた手のひらを見せてくれる子供たちの肉球に触りたい衝動にかられながらぐっと堪えて我慢する。
「うん、見た目はね。でも小さな目に見えない菌がついているかもしれないから、それを洗い流してほしいの。チコリーさん、ちょっと両手を出してもらってもいいですか?」
「え、あ、うん」
本当は浄化魔法が使えるのが一番楽なんだろうけど、それを小さな子供たちに覚えてもらうのは大変だし魔力の量には個人差がある。それなら誰でも清潔を保てるように手洗いの習慣をつけておくのは悪いことじゃないと思うんだよね。
「ここに手をかざしてもらえますか?」
「はい。えっ!なに!?」
「なにこれ?」
「しろいもこもこ!」
「これは泡石鹸といって手をより綺麗にしてくれるものです。これをこうして両手をもむようにして洗ってください」
購入したのは大容量で格安の泡で出るタイプの石鹸で、普通はポンプを押して泡を出すものを魔法で手をかざしただけで出るように改良し、それにどの子が使っても絶対にアレルギーを起こさないように魔法をかけておいた。
多種族が暮らす異世界ではなにがアレルギーの原因になるか分からないからね。
「あとは水で丁寧に洗い流してもらえば大丈夫です」
「僕もやってみたい!」
「私も!」
「みんな順番よ。それでこれをするとどんな効果が?」
「風邪を引きにくくなったり、お腹を壊しにくくなると思います。効果を実感するのは難しいかもしれませんが、大事なことなので徹底してもらえると有難いです」
ムギさんの一言で一列に並ぶ子供たちに偉いなぁとほっこりしながら答える。
子供だけじゃなく大人でも面倒くさがって手を洗わない人もいるけど、日本よりさらに衛生事情が悪いこの世界では絶対必需だと思うんだよね。
ちなみに今までは使った水も溜めて畑などに撒いていたらしいけど、石鹸混じりの水を畑に撒くわけにはいかないからちゃんと某猫型ロボットの道具を見習って下水管も用意し、魔法で汚水を綺麗にして、地下水脈に戻せるようにしてある。
あ、しまった乾燥させる方法を考えてなかった。
「ムギさん、両手が入るような壺とか木の箱とかなにかありませんか?」
「こんなものならあるけど、これでいいのかしら?」
首をかしげながらムギさんが出してくれたのは薄い木でできた40㎝四方ほどの箱だった。
「充分です。ありがとうございます」
受け取ったそれに、手についた水滴や洗い逃した泡や菌を吹き飛ばすための風魔法を付与して子供たちに差し出す。
「洗い終わったらこの箱の中に触れないように手をいれてくれますか?」
「うん?わっ!なに!?」
「ただの風です。これで手についた水を吹き飛ばしたら手洗い完了です」
先に洗い終わったチコリーさんに試してもらい、無事に動くことを確認してほっとする。
え、別に実験台にしたわけじゃないよ。
そしてムギさんの目の見開き具合が半端なくて怖いんですけど。やべえ、私またやらかした?
「みんな終わったら食堂のほうに来てくださいね。先に朝ごはんの用意をしておくので」
「え?ナツちゃんまって!私も手伝うから!」
ここは逃げるが勝ちだと言い逃げした私を追いかけてきてくれて手伝ってくれたチコリーさんは控えめに言っても天使でした。




